35話 〜その後〜
これは1つの物語の終わりで始まり。
彼らの運命の分岐点の1つに過ぎない。
って言ってみたけどこれはただのエピローグでプロローグ、この物語は次の段階へと進むだけ。
僕の一人語りはこれくらいにしてその後の彼らを見ていこう。
◆◇◇◆
「バロン様はまだ目を覚さないのですか?」
私、セアさん、メイラさん、ヘルビアさんは中庭に集まって話し合いをしていた。
「私が行くと私とマスターが危険なだけよ」
今はどうやってお兄ちゃんの目を覚ますかを話し合っている。
「お兄ちゃんは寝たらなかなか目を覚さないから」
「全くいい加減にして欲しいのだ」
「まさか斜めになっている屋根の上で寝るなんて」
「誰も近づけないじゃないですか」
あれから1週間経った。お城に着いた瞬間、魔力切れで眠ったお兄ちゃんは数時間後には起きて町の修復をした。
3日くらいで町は元通りになって何事もなかったかのようにみんな過ごし始めた。
この街の人はなかなか強い。
今、お兄ちゃんはいつも通り仕事をサボって昼寝をしている。それもお城の屋根で。
「じゃあ、僕が行こうか?」
そう言ったのはティクさんだ。
「彼が張ってる結界なら壊せるし、僕には翼があるからね」
背中の白い翼をバタつかせて笑顔でそう言った。
ちなみに天界に帰らず魔界にいる理由を聞いてみたら「僕にはここでやることがたくさんあるからね」と答えた。
「ではお願いします」
「じゃあ行ってくるね」
かなりのスピードで上へ飛んでいく。
上からは結界が割れる音とお兄ちゃんの声が聞こえる。
「はい、連れてきたよ」
お兄ちゃんはティクさんに襟を掴まれて降りてきた。
「首が痛いから離してくれ」
ティクさんは襟を手放した。お兄ちゃんは少し咳き込み襟を直す。
「バロン様、今日もお仕事をサボるつもりだったんですか?」
「いや〜、今日は腕が痛くて……」
「昨日も腕が痛いと言ってなかったか?」
「そうなんだよ、昨日から右腕が……」
「あら、昨日は左腕って言ってなかったかしら?」
「まじで?」
「やべ」と言ってお兄ちゃんは転移魔法で逃げ去った。
「私から逃げられると思っているのかしら」
そう言ってヘルビアさんは消えた。
私たちも追いかけないと……。
「アモネ様!」
セアさんとメイラさんも手を握ってお兄ちゃんの居場所まで転移魔法を使って向かった。
その時ティクさんは笑顔で手を振っていた。
◆◇◇◆
もう少しで仕事をさせられるとこだった。
俺は仲間を頼るからな。みんな任せたぞ。
『仕事ぐらいしてやれよォ』
「俺は仕事をするために生まれてきたわけじゃないんだ。バランもわかるだろ?」
『まあなァ』
もう1人の俺はまだ俺の中にいる。
それに名前がバロンだとわかりにくいからな。俺の冒険者名のバランを提案したら「もう1人の俺ぽくっていいなァ」と承諾してくれた。
「だから俺は絶対に捕まらない!」
「残念ながらもう捕まえてるわよ」
横にはヘルが笑顔で服の袖を掴んでいた。
どうやって来たんだ?
「それよ」
そう疑問に思っているとヘルが俺の手の甲を指した。
そうかリンクが繋がってるんだったな。
「あれ? これって先月よりも難易度上がってね?」
「そうよ、彼からあなたが仕事をサボらないようにしてくれって言われたんだから」
ユウキめ余計なことしやがって。まあ対処法ならいくつかあるんだが。
「もうマスターとは呼ばないのか?」
「ッ〜〜」
ヘルは顔を赤くする。それを隠すために両手で顔を覆う。これがチャンスだ。
「よし」
「何がよしなんですか?」
「そりゃヘルが手を離してくれたおかげで転移魔法で逃げられ……」
後ろにはセアがいた。というかメイラとアモネもいた。
セアにしっかりと肩を掴まれている。その手からは絶対に逃さないという殺意に近いものが感じられる。
「さて、戻りましょうか」
殺気が感じられる笑顔を向けられたら無言で頷くしかない。というか手に針戦機を持ってて拒否権が存在しなかった。
◆◇◇◆
「全くあんたはまた仕事をサボってるのかい」
仕事部屋に到着すると母さんがいた。
母さんは少しの間2人だけで話がしたいと3人に言うとセアが「隣の部屋でお待ちしてますね」と2人きりにしてくれた。
「それはともかくあの件はお疲れ様、手伝ってやれなくてすまないねぇ」
「いや、全然大丈夫だ。母さんのことだからあれの黒幕でも捕まえてたんだろ?」
「さすがだね」
母さんはソファーに腰掛け息を大きく吐く。
「あの事件の黒幕は私たちが捕まえ損ねた1人なんだ。私たちが不甲斐ないばかりに……」
「いや、母さんたちのせいじゃないよ。それになんの被害も出てないしな」
「何か1つでも抜けていたらあんたが死んでいたかもしれない。黒幕は何があっても捕まえるよ」
母さんは微笑み、マジックボックスから札のようなものを取り出した。
「私たちが必要な時はこれを壊しとくれ。すぐに助けに行くから」
「ああ、ありがとな」
その札を懐にしまう。これはお守りだな。
「私はもう行くけどみんなを頼むよ」
「ああ、もちろんだ」
笑顔でそう答えると「そうかい」と一言言ってから部屋を出た。
「息子の成長は速いねぇ」
◆◇◇◆
「そうだ行きたいとこあるんだけど」
「ダンジョンとかはやめてくださいよ」
「しばらくは戦いたくないから行かねえよ」
流石に疲れたからな。しばらく戦闘はしたくない。
「じゃあどこに行くつもりなの?」
「研究室」
その一言で全員が頷いた。
◆◇◇◆
「おい電気つけろよ」
「部屋も片付けた方がいいと思うぞ?」
「リアは研究者、清掃員ではない」
この少女リアはあのことを全く覚えていない。俺をボコしたこともボコされたことも覚えていない。
てか、俺ってうっかり殺しかけたんだぞ?
「それでも片付けるべきです」
「リアは研究で忙しい。誰かさんが無理難題を押し付けてくれたおかげで」
「その無理難題を解決することでこの前やったことがチャラになるんだから悪くはないだろ?」
「3日以上考えてるけど半分しか考えつかない」
無理難題とは無機物から他の人と同じようなバランの体を作り出すことだ。
必要なものがあれば俺が取りに行くからリアはここでバランの体を作るという契約のようなものを交わした。
「生物を作り出すなんてこの世界の科学では無理」
「じゃあ魔法を組み合わせたらどうだ? 魔法で人工細胞の役割をさせるみたいな」
「なんでそんな単語知ってるのかわからないけど参考にしてみる」
そう言って椅子を回転させてペンを持ち何かを描き始めた。
とりあえずゴミだけ持ってこの部屋から退室した。
「ガウガウ!」
部屋の白い毛皮の狼が足元で飛び跳ねていた。
「どうしたんだガウ?」
あの時助けた狼子、ガウは頭を俺の足になすりつけている。
「よしよしっともう大丈夫そうだな」
あのあと妙に懐かれてしまったのでこの城で飼っている。
「ガウなんで逃げるのだー!」
セアやアモネ、シンには懐いているのに何故かメイラには懐かない。まじで不思議。
◆◇◇◆
とまあ、俺のいや俺たちの平穏(?)な暮らしが帰って来たわけだが。
多分、そう長くは続かない。変わらないものなど存在しないんだから。
永遠などないだからこそこの瞬間毎が輝いて見える。
この関係が永遠には続かないのだから……。
◎○◎○◎
「神龍の巫女を見つけました」
外観は綺麗な城、そこに住んでいる奴は綺麗とは言いにくい。姿も中身も。
しかし逆らえない。この掟がある限りは。
「その巫女は可愛いのか?」
「はい」
「ほう、僕ちんが自らお迎えしようじゃないの」
私はただこの巫女、アモネさんを憐れむしかできない。この男を倒してくれるのはこの人の兄の魔王しか……。




