29.5話 〜魔神〜
天空に浮かぶ城までの険しい道のりを超えて(ユーの転移魔法を使用)城の中のさまざまなトラップをくぐり抜け(手当たり次第に壁を破壊)私たち3人は魔神がいるであろう部屋の前にいた。
ん? 簡単だって? たぶん私たちじゃなかったらここに来るまでに3日くらいかかったに違いないわ。
「それじゃあ入るよ……」
ユーのその言葉に私とヘルは無言で頷いた。
ほんと冗談とか言わないと耐えられないくらい威圧感がすごい。
「よくここまで来たな。勇敢なものたちよ」
魔神は立ち上がり剣を軽く振った。その時に起こった風で体が飛ばされそうになる。
「魔王候補と大罪使い、それに我が作った吸血鬼か……面白い」
魔神は不敵な笑みを浮かべ3歩前へ進む。
「我の一人語りはこれくらいにして戦いを始めるとしよう。簡単に壊れてくれるなよ?」
そういうと魔神は地面を蹴った。
「ッ‼︎」
気付けば魔神は目の前にいて剣で私の腹部を切り裂こうとしていた。
その攻撃を間一髪で剣で受け止め私の体を後ろ飛ばすように剣を弾く。
「ほう、今のを受け止めるか」
「はあぁぁ!」
魔神は不敵に微笑んでいる。ユーはその隙を狙って剣を振った。
「遅い」
「がッ」
魔神はそれを避け、ユーの背中を蹴った。
ユーは嗚咽する。
「血霧」
紅い霧が魔神とユーを包み込む。魔神は剣を振り、霧を消し去った。
しかし、ユーはすでにヘルの方へと運ばれていた。
「破裂!」
その攻撃は命中するが軽い火傷程度しか傷を負わせることができなかった。
「火傷かお主が初めてだ。この我に傷を負わせたのだ。誇ってもよいぞ?」
「それは光栄なことね!」
弓のアイリーを取り出し、魔力を込めて魔神へと放つ。
「ほう、少しは考えたではないか。だが、まだ足りんな」
その矢を軽く落とすと地面を蹴ってこっちへ近づいてくる。
「ッ‼︎ 身体強化!」
全ての攻撃を間一髪で避けているけど少しでもタイミングがズレれば終わり。
「爆殺!」
魔神の背中が破裂する。その攻撃を受けた魔神は背中に傷を負っていた。
「そういえばその攻撃は血液を爆破させるのであったな」
魔神が何かを呟くと背中の傷は消えてしまった。
「この程度で我に勝てると思うなよ。たった2人で何ができるというのだ?」
2人、今2人って言ったよね。
「そんなのやってみないとわからないじゃない」
盾を取り出して軽く魔力を流す。自分の傷を治して盾を構えて魔神に飛び込む。
「ふん、自暴自棄になったか」
「ヘル!」
ヘルは魔神の後ろへ回り込み、魔法を放った。
「夜の闇」
辺りが暗闇に包まれると宙に小さな月が現れる。
「少しは考えたではないか」
魔神は手を真っ直ぐに突き出した。
「まだ我には届かぬな」
魔神はヘルの首を掴んでいた。
「死神の鎌」
魔神は咄嗟にヘルを離して体を逸らした。
「そんな技を隠し持っていたか」
アイクの怠惰の力で体が重いはずなのになんでそんなに余裕でいられるの? まさか効いてないなんてことはないよね?
「やはり怠惰の力は少しばかり厄介だな」
魔神は肩を回しこっちを睨んだ。
「なんだちゃんと効いてるじゃん」
魔神に背中を向けないようにしながらヘルの方へ辿り着いてヘルに暴食の力で回復をする。
立ち上がったヘルと私は頷いて魔神に魔法を放った。
「「破壊《ブレイク》!」」
魔神の周りを爆発させる。火柱が立ち上がるが一瞬で霧散していた。
「なんだ、この程度か」
そう言い捨て私たちの方へ向かおうとした時だった。
「ぐっ」
魔神はもがき苦しみ始め地面にうずくまった。
「どうやら私たちの作戦が上手くいったようね」
「なんだと?」
「3人で考えて3人で成功した作戦……体を張った甲斐があるわね」
そうこれは誰かが先に倒れれば破綻していた作戦。成功してなかったら間違えなく死んでた自信がある。
「くくく……ははは! 考えたではないか。倒されたフリをして我に毒をもったか」
「ヘルと2人で戦ってギリギリで勝ったんだよ? それよりも強い魔神と真正面から戦ったら絶対負けるに決まってるじゃん」
「だからあなたにも効く毒を調合したのよ」
危険な薬物を混ぜ合わせたものに光と闇の魔力を混ぜて簡単に浄化できないようにしておいた。
これをユーが傷口にかけたのだ。ちなみにユーは強力な魔法を構築しているはずだ。
「ならば天界に戻る前に貴様らだけでも屠ってやろう」
「なっ……!」
魔神は魔法で私の目の前まで近づいた。その手には魔力を丸く固めた魔力弾のようなものを持っていた。
「血霧!」
魔神と私の間に紅い霧が現れる。その霧は一瞬のうちに人の形になった。
「ぐっ」
「ヘル!」
ヘルが私を庇って倒れ込む。
「ヘル! ヘル!」
「多少順番がズレただけだ。すぐに同じとこへ送ってやるから安心しろ」
「……黙れ」
「なに?」
「お前は何があっても許さない」
体の底から力が溢れ出してくる。この力があれば勝てる。
「ほう、仲間の死で覚醒でもしたか」
「お前はもうしゃべるな」
顎を殴り魔神を壁へと叩きつける。
「くっ」
「まだ終わらない」
魔神のお腹に3連打し顔に回し蹴りを決める。
しゃべる隙を与えないように連撃を喰らわせる。
「強制送還」
ユーが魔法を放つと魔神の周りが光に包まれた。その光は徐々に小さくなっていき最後には魔神ごと消滅してしまった。
「これで終わり、だからその力を……」
ユーに無言で殴りかかる。
「……ッ‼︎ アキア!」
体が勝手に動きユーを殺す勢いで殴り続ける。
今、この力の正体がわかった。この力は復讐心、ただの復讐心ではなく憤怒の力が加わった復讐心。
「ユー、逃げて」
「――‼︎」
一瞬だけ体を制御できるようになった。まあ、そんなに長く保たないだろうけど。
「そんなこと……」
「早く! お願いだから……ね?」
視界が涙で霞む。ここから逃げ切れるくらいなら時間稼ぎが……。
「僕は逃げない!」
「なんで……」
「ここでアキアを見捨てて逃げるなんてできない」
ユーは微笑んで答える。
「僕を信じて」
「……どうなっても知らないからね」
体の制御の手綱を離すように力に体を委ねる。
「……」
ユーに攻撃を当てようとするが全く当たらない。
「拘束」
体が魔法の縄で縛られるが力でその縄を引きちぎる。
その間にユーの顔は私の耳元に近づいていた。
「僕はアキアのことが好きだ」
‼︎ 今、ユーがす、好きって!
「可愛い寝顔も好き、可愛いものが好きなところも好き」
力はその言葉を振り払うように無茶苦茶に暴れ回る。
「強いところも好き、話し方も好き」
力は大振りな攻撃をする。そんな攻撃がユーにお当たるわけがない。
「声も好き、笑顔も好き」
力は攻撃をやめて耳を塞ぎ踠がく。
「全てが好きだ」
「……!」
ユーの首に腕を回し飛びかかる。
私とユーは倒れ込んでしまった。
「私もユーが好き、大好き」
涙がどんどん溢れ出してくる。あの力は消え去っていた。
「ははは、感動系の恋愛か。なかなかいいものを見せてもらったぞ」
「……!」
起き上がって後ろを振り向く。すると魔神が立っていた。
「小さい?」
「貴様らが天界に強制的に送り返したおかげであと数万年は戻れなくなってしまったではないか」
魔神は大声で笑い、地面に座る。
「まあ、そんなことはどうでもいい。面白いものが見れた。貴様らにささやかな贈り物をするとしよう」
魔神は傲慢の剣を拾い掲げた。
「この剣の銘はヘルビアだ」
剣は紫色に光り、ヘルを吸い込んだ。
吸い込むとより強い光を放つ。
「……ここは?」
「「ヘル!」」
剣はヘルに変身した。
「あと一つ贈り物をくれてやろう」
魔神は手を振り払いユーへと投げつけた。
「魔王になってそれを家宝にしろ。数千年後、貴様らの子孫を妹が助けてやる」
そう言い残し魔神はどこかへ消えた。
「ほら、2人共!」
ユーとヘルは私のほうを向いた。
「今日はもう帰ろ?」
2人は頷き、帰路へと向かった。
………………
…………
……
さて、バロン君。ここで君が学ぶべき教訓は3つだ。
仲間を頼ること、そしてあの贈り物の存在、そして素直になること。
まだ言いたいことはあるけど時間が来ちゃったから。
ユーのことよろしくね?
……
…………
………………
白い天井、白い壁に床、そして何もない空間。そこでヘルビアと話してから夢から覚めた。
ってあれ? なんの夢を見てたんだっけ?




