29話 〜ワガママ〜
「試練を始める……!」
同時に地面を蹴り、戦いの火蓋が切られた。
「あは!」
傲慢の手には紫色の片手剣が現れる。
雑に振り回しているが一撃、一撃がとても重い。
はぁ、やるんじゃなかった。
「闇雷」
一旦、距離を取るために魔法を放つ。
しかし、目の前に青色の盾が現れる。嫉妬が使った物に似ている。
「ちっ、転……」
「どこを見てるの?」
自分が放った魔法が跳ね返ってくるのを避けようと転移魔法を使おうとしたが後ろには既に傲慢がいた。
「ほら!」
傲慢の振った剣と跳ね返ってきた魔法が同時に直撃した。
魔法障壁を使ったけどかなり痛い。
「「バロン様!」」
「お兄ちゃん!」
「「「バロン!」」」
全員が大声で叫んでいる。
「カカカ、ほんとにお主は愚か者じゃのう。」
「愚か者で上等! なんせ俺は自分の周りのやつが危険になる時には馬鹿になると自覚しているからな!」
胸を張って言ってやった。あと少し傲慢に気づくのが遅かったらこんなに動けなかったな。
「へぇ、今の耐えたんだ」
傲慢は手に持っている剣で弄んでいる。
「あなたの仲間の反応を見る限り、何も教えてないんだ」
「ああ、教える必要はないからな」
教えても不安にさせるだけだ。教えるとデメリットしかない。
「ふーん、そうだよね。あなたの仲間が弱くなってるあの6人を倒したせいで私が強くなったなんて言えないもんね」
こいつ……。
「どういうことなのだ!」
「妾が説明しよう」
ルクスは目線を俺に向ける。
「傲慢の能力、弱者殺しじゃ」
淡々とルクスは説明していく。この時、戦闘は一時的に止まっているので体力回復に勤しめる。
「自分より弱いと断定した場合のみ全能力が2倍になるという能力じゃ」
ルクスは淡々と話していく。
「この試練では今まで仲間たちが戦ってきた大罪龍の強さで変わってくるのぉ」
「それって……」
「俺が自分で決めたことだ」
そう、これは俺のワガママだ。
自分勝手に俺が1人で決めたことだ。ここで責任を負うとしたら……。
「俺だけの責任だッ‼︎」
体力は90%くらいは回復した。これなら勝算が見えてくる。
正確には世界が紫色に見えてくるんだがな。
「72柱――55柱目……オロバス」
こいつは最も使いやすい。いや、数少ない命令を聞いてくれる悪魔だ。
「……」
現れたのは馬の悪魔だ。
「俺に力を貸してくれ」
「……」
オロバスは無言で頷く。
目の前に様々な光景が通り過ぎていく。
「過去も現在も未来も」
昔の七大罪も初代の魔王夫妻も、今まで傲慢が行なって来たこと。
最終的には俺が勝利する未来も見える。
ただし、喰らってはいけない攻撃を全て避けなければならないが。
「俺の勝ちだ」
「ふーん、じゃあせいぜい足掻いてみたら?」
右腕、左足、頭……。
雑に振り回しているかと思っていた。
だが違う。攻撃はどこかしらを狙っている。
「あは」
左側で振り上げ、大罪魔法。
「幻惑」
目の前に現れたのは数百――いや、数千人の傲慢。
当たり前だが普通に戦えばこの中から探し当てるのは不可能だ。
だが俺は普通には戦わない。
「全てを破壊する炎」
これはただの炎じゃない。地獄の業火だ。この魔法は簡単には消せない。
「ちっ……小癪な」
傲慢の幻影は全て消え失せ、傲慢は黒い炎に包まれる。
「……ウザイ」
黄色く光ると炎は消え去った。
その光が消えると今度は緑色に輝いた。
体が重くなり、膝をついてしまう。
「もういい、終わらせるから」
腕が金色に輝き、宙には黒い炎が浮かんでいる。
ちっ、インフェルノか。
知っていてもこうイラついてくるな。
これを避ければあとは簡単だ。
「全てを破壊する炎」
全方位の不回避攻撃……こう見ると恐ろしい技だな。
「3……2……1……転移!」
自分が知ってる限りでは一つだけ避ける方法がある。
それはタイミングを合わせて転移魔法を使うというものだ。
転移先は傲慢の背中。火力が火力だけに数秒間、動けなくなってしまう。
「暗黒斬!」
これだけでは通じない。もっと火力を出さなければかすり傷一つ負わせることもできない。
「怒りの一撃」
「真の暗黒の爆裂弾!」
黒と赤の爆炎が混ざり合い、より大きな爆発になる。
目の前に砂埃が舞い、よく見えないがどこに立っているかは未来を見て既に把握済みだ。
「暗黒拳、3連打!」
素早く3回拳を突き出す。
「くぅっ……」
砂埃が晴れ、傲慢が姿を表す。傲慢は脇腹を抱え、うずくまっている。
「はぁはぁ……これで終わ……ッ‼︎」
視界がぼやけ、目眩がする。体の力が抜け、膝をつけてしまう。
「ちょっと無茶し過ぎたか」
残りの体力と魔力が5%を切ったか。必死すぎて全く考えてなかっ……た。
バタッと自分の体が倒れる音を最後に俺の意識は深い闇の中へと落ちていった。
◆◇◇◆
目を開けると白い天井、白い壁に床、そして何もない空間。待ってもしかして俺ってば死んじゃった?
はぁ……まだやりたいことがたくさんあったのにな。
「ならば、やればいいじゃない」
「でも死んじゃったならできない……ってあれ?」
この声って傲慢じゃないか?
「その傲慢って呼び方やめてくれない? 私はちゃんとヘルビアっていう名前があるの」
「ヘルビアか……俺の名前はーー」
「バロンでしょ? 知ってるから」
あれ? なんで俺の考えていることがわかるんだ?
「だってあなたが考えていることわかるもの」
「え? 勝手に心を読むのやめて欲しいんだが」
「しょうがないじゃない。私だって好き読んでるわけじゃないんだから」
つまり、どういうことだ?
「そういえばまだ言ってなかったわね。ここは私とあなたの心の接着点、分かりやすく言うなら手の甲の紋章の中ね」
「ああ、つまり夢の中ってことでいいんだな」
「まあ、遠からずってところかしらね」
ユウキと話す時と同じってことか。
「そう、てかなんであの人があなたの中にいるのよ!」
「あの人?」
「ええ、あの人……ッ。なんでもないわ」
どうしたんだ? 何かを恐れているみたいに。
「それともう一つ、あなたあと少しで本当に死ぬところだったわよ」
「ああ、自分でよくわかってるよ。無茶し過ぎたってな」
「私が治してあげたんだから感謝しなさいよ。マスター」
「そうか、ありがとうな……今、マスターって言わなかったか?」
「言ってないないわ! あなたは早く起きてあの子たちに謝った方がいいんじゃないの? 泣くほど心配してたわよ」
ヘルビアは耳まで赤くなっている。そうだなあいつらには心配をかけちゃったな。
「ヘルビア、ほんとにありがとな。それとこれからよろしく」
「ええ」
その時のヘルビアの顔は戦う前の無表情ではなく微笑みだった。
これでひと段落、あとは災厄と戦って勝つだけ。
俺が死ぬのは構わない。だがあいつらが死ぬ、いや傷付くのだけはなんとしてでも止めなければいけない……。




