23話 〜ユウキ〜
いつも通り、アモネと寝る前にアニメを見ていた。その時、脳の片隅で考え事をしていた。
『鴉のような黒い翼に紫の目、あとは黒い鎧の状態』
これに思い当たりがある。
おそらくそれは72柱を全て呼び出したときの姿だ。
つまり、そんな強敵が現れるということなのか?
ふと、アモネの頭を撫で始める。
今日戦ったあの悪魔よりも、昔戦った水龍よりも強いことになる。
無意識にアモネを撫でている手と反対の手をこめかみに当てる。
こんなときにユウキと話せれば……。
いや、ないものねだりしても仕方ないか。
一旦このことを考えるのを辞め、違うことを考え始めた。
それよりもアモネの誕生会について考えなければ……。
アモネの誕生会、それは毎年恒例の少し大きめのパーティだ。
「お兄ちゃん、くすぐったい」
くすぐったそうに笑いながら俺の目を見た。
「ああ、悪い」
撫でるのを辞め、手を離すとアモネは名残惜しそうだった。
「じゃあ、そろそろ寝るか」
「うん!」
アモネは元気に頷くと俺に抱きついてから眠りについた。
ほんとにユウキと話すことが出来れば……。
そんなことを考えているといつの間にか眠ってしまった。
□■□■□
ユウキは自分の中にいる存在だ。
これだけ聞いた人の半数以上の人は多重人格か頭がおかしいと考えるだろう。
だが、そうではない。文字通り"自分の中にいる存在"なのだ。
ユウキは気づいたら自分の中にいた。
「僕の名前はユウキだ。君の中に存在することになってしまったけどよろしくね」
初めて出会ったのは3歳の時だ。会ったと言っても夢の中でだが……。
ユウキはどこか儚げで弱々しい感じがした。
「なんでここにいるの?」
その時の自分にとっては素朴な質問だった。
「うーん、そうだね。君が10歳になったら教えてあげようかな」
ユウキはその時悩ましく微笑んでいた。
「約束だよ?」
「ああ、約束だ」
その日からとても待ち遠しかった。
次の日から度々、夢の中に出てくるようになった。
「へぇー、算数か。やり方分かるかい?」
「これくらいならよゆーだよ」
ユウキは算数や数学、自分がうっかり忘れていた歴史(初めは偏りがあったが)などを教えてくれた。そのおかげで8歳には中等学分の勉強までをマスターしていた。
「ねぇ、なんでそんなに物知りなんだ?」
「昔、言っただろ? 10歳になったら教えてあげるって」
「えー」
「じゃあ、1つだけ」
「?」
「僕は君の記憶を多少、閲覧することができるんだよ」
ユウキは自分の記憶を見れると言った。しかし、自分の知らない知識までユウキは持っていたのだ。
そして念願の10歳の誕生日、少し早めに寝て早速ユウキに会いに行った。
「やあ、10歳の誕生日おめでとう」
「ああ、ありがとう」
俺は今になっても忘れられないあの驚き、最近やっと完全に理解出来たユウキの正体。
「約束はちゃんと果たしてもらうぞ?」
「ああ、もちろん」
そのとき、ユウキは何故か持っていた本を自分の前に差し出し話し始めた。
「うーん、いざとなると説明しにくいね」
「この本は?」
「ああ、カンペみたいなものだよ」
「一言で言うなら異世界からの転生者、もう少し詳しく言うと転生者もどきかな」
「なんでもどきなんだ?」
「自分の体を持ってないから」
ユウキは苦笑いのようなものをしながら本を次のページにめくったり、前のページに戻したりしている。
「それって俺のせいか?」
そう尋ねるとユウキは無言で俺の頭を撫で始めた。
「いや、違う。これは俺が望んだことだ」
「でも……」
「君は転生系の物語を読んだことがあるかい?」
ユウキの問いに無言で頷く。
「例えば、別の世界から転移してきたA君がいるとしよう」
ユウキは頭を撫でるのを辞め、人差し指を立てた。
「A君の魂と肉体はなんの代償もなく転移してくるだが別の世界からの転生はどうだろうか」
俺は唾を飲み込み、ユウキの話に集中した。
「もし、転生する体に別の魂が宿っていたら、その魂はどうなるだろうか」
「もしかして消滅する?」
「ああ、おそらくね。個人的には肉体と魂はセットだと思ってるんだ」
ユウキはどこか虚空を見る。
「後悔してる?」
「いや、全くこれっぽっちもしてないよ」
ユウキはそう言いながら微笑んだ。
「逆にこれで良かったと思ってる」
「なんでだ?」
「それはな」
「それは……?」
ユウキは微笑み、俺の頭を3回軽くポンポンと叩いた。
「然るべき時に教えるよ」
「えー」
その日の会話はそこまでだった。
その後も色々な手助けをしてくれた。
72柱の扱い方やアモネの助け方、新魔法の開発など知恵を貸してくれたのだ。
俺が15歳になる半年前、ユウキは突然、姿を現さなくなったのだ。
自分の中にはいると分かっている。だが、どう足掻いてもユウキと会うことが出来ないのだ。
今もダメ元でユウキの元へ向かってみている……。
◆◇◇◆
昔のことを思い出しながらユウキを夢の中で探してみると見慣れた部屋が現れた。
「やあ、半年ぶりくらいかな?」
「ユウキ!!」
やっとと言うべきかユウキに会うことが出来た。
「大変なことになってるね」
「どうにかできないか?」
そう聞くとユウキは少しわざとらしく「うーん」と唸った。
全くこの性格は数十年経っても変わらないな。
「ないこともない」
「ほんとか!?」
ユウキは微笑み、近づいてくる。
「ただし、明日から探して欲しいものがある」
「何を探すんだ?」
「罪なる剣、七大罪の剣」
言葉を失ってしまった。
「それがあればおそらくは世界は救われ、君も助かる」
「確かにそうかもしれないがその剣って」
「実在するよ」
七大罪の剣とはおとぎ話に出てくる神竜族が作り出した剣だ。
昔、神竜族の鍛冶師がいた。その鍛冶師は自己中心的でいつも問題事を起こしていた。
その鍛冶師がある日、7つの剣を作り出した。
その剣は鍛冶師にも他の誰にも使うことが出来なかったそうだ。しかし、ある日1人の旅人がその剣に触れるとまるで自分の手足のように使い始めたのだ。
その旅人はこう言い残し、去って行ったという。
「この剣は世界で最も強いだろう。それと同時に危険だ」
そしてそれぞれの剣を名付けた。
青色の剣には嫉妬。赤色の剣には憤怒。
桃色の剣には色欲。紫色の剣には傲慢。
緑色の剣には怠惰。金色の剣には強欲。
黄色の剣には暴食と。
「じゃあその剣はどこにあるかわかるか?」
「ああ、勿論」
ユウキは魔界の大陸の地図をどこからか取り出し、広げ、人差し指をさした。
「ここ、どこか分かるかい?」
「ここってダンジョンだな」
「正解」
ユウキは微笑むと地図に親指を付け、拡大するような仕草をした。
すると、地図はダンジョンの方へ拡大した。さすが夢の中。
「これをこうすると……」
ユウキは地図に手のひらを付け、思いっきり手を振り上げる。
すると、地図は立体状になった。
「そして剣が封印されている場所がここだ」
ユウキが指したのはダンジョンの最下層のその下。何も存在しない空間だった。
「最下層のボス部屋の奥の壁に君の持ってる剣を突き刺すとここに繋がる階段が出てくる」
「なんでそんなことまで知ってるんだ?」
「それは企業秘密かな」
ユウキはそう言うと俺の額を指で弾く。
「妹君の誕生日、ちゃんと祝ってあげなよ」
そうして目が覚めた。




