18話 〜初恋の女の子〜
「じゃあ、これからよろしくな」
右手を差し出す。
2人は「よろしく」と言って1人ずつ手を握った。
「ってことでまたな」
観客席の方を見るとそそくさと逃げた。理由は言わなくてもわかるよな?
「えっと?」
2人は困っている。
「アモネ様、すぐに転移魔法の準備を! お二方は城の中を見学していてください!」
セアはそう言うとアモネとメイラと共に俺の元へと向かった。
◆◇◇◆
「さてと、あの魔法の応用でっと……」
自分の姿を想像する。そういえば鏡ってあまり見ないな。
「複製魔法」
すると自分の分身が2体現れる。喋らないが姿はそっくりそのままなはずだ。
「これでしばらくは時間を稼げるはずだ」
分身を自分とは反対の方向に向かわせた。
「そしてこのまま自由気ままな逃走旅〜」
身体強化を使って城下町を駆け巡ろう。
何も考えずに走っているとうっすらと見覚えのある道に辿り着いた。
「ここ、来たことある気がするな……」
走るスピードを緩め、早歩きと同じくらいの速さで進んだ。
進んで行くとどこか懐かしい一軒家を見つけた。
「この家は確か前に夢に出てきた……」
気づくと扉をノックしていた。はっ! 体が勝手に……。
「はーい、少し待ってくださいねぇ」
扉越しに30~40代の女性の声がする。
「はいはい、誰かねぇ。ってバロンちゃんじゃないの」
その女性は懐かしい人を見つけて喜んでいるような様子だった。
「こんなに大きくなっちゃって、魔王のお仕事大変でしょう?」
「えぇ、まあ」と少し引き気味に答えてしまった。
「今日はなんの用で来たんだい?」
女性が優しい声で話す。
「いや、たまたまここを通ったので」
いつになく謙遜な態度になってしまう。
実は全くといっていいほど思い出せない。会ったことある気がするな〜くらいしか思い出せない。
「まあまあ、わざわざこの家に尋ねてくれてありがとねぇ」
女性は手を軽く握ってくる。
そして軽く上下に振る。
「うちの娘は今、魔王城で働いているのよ」
女性がそう言うと脳裏には薄い赤と青の瞳……オッドアイの女の子が浮かんできた。ああ! あの子のお母さんだ‼︎
「じゃあ、もし見かけたら挨拶しようと思います」
笑顔で答える。すると、嫌な予感がした。というか背筋が凍った。
「もうそろそろ行かなければなので今日はこれで」
そう言うと女性は笑顔で手を振ってくれた。
女性が見えなくなった頃に走り出す。
こんなふうに走ったこともあった気がするな。
女の子とここら辺を走り回った記憶が脳裏に浮かんだ。
あとは名前だけなんだが……。
名前を聞いておくべきだったか。でも、それはそれで失礼か。
それからは何も考えずに走り回った。
▽▲▽▲▽
時は遡り、バロン様が転移してから少し経った頃。私、メイラ様、アモネ様の3人はギルドに近い裏路地にいました。
と言えと言われた気がしましたが言いません。
「お兄ちゃんはここに転移したはずだよ」
アモネ様は周りを見回している。
「転移した後、なんらかの魔法を使ったようですね」
今にも舌打ちをしそうな気持ちをグッと耐える。
「バロン様の反応が3つありますね」
それぞれダンジョン、城下町、街の外を移動している。
「ここは別れて探しましょう。メイラ様はダンジョンの方へ、アモネ様は街の外を、私は街の中を追跡します」
この振り分けはメイラ様は追跡魔法を使えないので場所が限られているダンジョンがいいという考えです。
「うん、分かった」
「分かったのだ!」
2人はそれぞれの方へ向かった。城下町のバロン様が向かっている方向にため息をついてしまう。
▽▲▽▲▽
「ここならいくら追跡魔法を使ってもバレないだろう」
誰の家か分からない天井へと来ていた。今は誰もいないことを願う。
この場所は昔、女の子と遊んだ時に来た場所だ。
「それにしてもさすがに疲れた」
あくびをし、寝っ転がった。
「少しだけ寝るか……」
そう呟くと同時に意識は落ちてしまった。
****
空が橙色に染まり、街の風景はどこか神秘的。横を見ると目を輝かせる可愛らしい女の子の笑顔。
ああ、夢の中か。それも過去の夢。
「バロン! ここに連れてきてくれてありがとう!」
女の子は満面の笑みでお礼をしている。
「別にこれくらい、それにたまたま見つけただけだしな」
幼少期の俺はどこか誇らしげだ。
「実はね、明日から隣町に引っ越すことになったんだ……」
女の子の顔は悲しそうになり、俺は言葉を失っている。もちろん昔の俺な?
「だからね、ほんとに今までありがと!」
女の子はそう言うと俺に抱きついた。
「だから、これ」
女の子はポケットから黒いリストバンドを取り出した。
「これ、お母さんに教えてもらいながら作ったの。受け取ってくれる?」
その言葉に無言で頷き、受け取る。
「私の事を忘れないでね」
女の子がそう言うと頬に涙が流れる。それを最後に夢から追い出されてしまった。
****
「――て――さい、起きてください。バロン様」
目を開けるとセアがこちらを見下ろしている。
「ああ、起きるよ、セーちゃ……」
セアの名前を言い間違えそうになった時、昔会った女の子を完全に思い出した。
「……私はセアですよ」
セアは後ろを振り向く。
「ああ、お前はセーちゃんだよ」
懐からペンの形をした物を取り出す。
セアの顔の前に行き、それで額を軽く叩いた。
「何を……」
ペンがまばゆく光り、砕け散る。
「やっぱり、そうだ」
セアの片方の目は薄い赤に変化していた。
セアがすぐさま目を手で覆い、魔法をかけた。
「……何時、わかったんですか」
セアは目を手で覆いながら聞いてくる。
「何時って今だよ」
右手を自分のわき腹に添え、微笑む。
「……なんでわかったんですか」
セアはさっきと同じような様子で聞いてくる。
「だって、さっき夢に出できたからな」
そう言いながら右の手首の袖をめくる。そこにつけている黒いリストバンドを見せる。
「この8年間、いつも身につけてたんですか?」
セアは手を目から離す。
「ああ、いつも必ずつけてたよ。汚れてきたら誰にもバレないようにこっそり洗ったりもしたな」
袖を元に戻す。
セアの方を見ると笑っていた。満面の笑みだ。だが、その瞳からは1粒、涙がこぼれ出していた。
「久しぶりだな、セーちゃん」
「うん、久しぶり、バロン」
まるで別れの日と同じように西側の空が橙色に染まり、神秘的で美しい情景を作り出していた。
まるで2人の再会を祝うかのようだ。
「それじゃあ、帰りましょうか」
「……そうだな」
この時、今日なら仕事をしてもいいと思えていた。
◆◇◇◆
「バロン! どこに逃げていたのだ!」
メイラはサンタクロースにも負けないような大きな袋を抱えていた。
「ちょっと待て、その袋はなんだ?」
「これは魔物の死体だが?」
メイラは首を傾げている。
「はぁ、体の1部でいいんですよ。耳の欠片とかで良かったんです」
メイラは大きく肩を落とした。
「私の苦労はなんだったのだ……」
誰が見ても分かるほど落胆していた。
「まあまあ、今わかったんだから良かったじゃん」
メイラを慰めるように言った。
「むぅ、そうだな」
メイラは立ち上がった。それと同時に後ろに人影が現れた。
「お兄ちゃん、これはどういうこと?」
人影の正体はアモネだ。アモネは拘束された俺の分身を捕まえていた。
「よ、容赦ないな」
「偽物だから別に手加減する必要はないからね」
アモネは拗ねているように顔を逸らした。
それにしても俺の分身を縄でグルグル巻きにするとは……。
「ま、それよりも今日だけは仕事するか」
そう言うと3人は目を丸くした。
何だよ、みんなして。
「バロン、変なものでも食べたのか?」
「ほんとに本物のお兄ちゃん?」
「頭でも打ちましたか?」
3人とも疑っていた。てか疑い過ぎだろ。
「さすがにそう言われると来るものがあるな」
苦笑しながら仕事部屋へと向かった。




