17話 〜シンとハル〜
魔王城、門前での事件から3日後。
俺は2人の人族と面会していた。まあ、普通の人族とは違うが。
「はじめまして、バロンだ。よろしく、だな」
砕けたように2人に話しかける。
おそらくこれがベストなはず。
「はじめまして、し、シンです」
シンと名乗った少女は緊張しているようだ。
「はじめまして、俺はハルです」
ハルと名乗った少年は横目にシンを見ている。なんだろう、心の中で笑っているような気がする。
「別に敬語なんて使わなくていいんだぞ?」
微笑む。俺、怖くないよー。
「多分、同い年だし、なんせ住んでる世界が違うんだから」
「……」
2人は無言で頷く。
あれー? やっぱり怖いか?
「別に別の世界の奴だから殺そうだとか利用してやろうとかじゃないぞ?」
2人の目を覗き込んでみる。
「これからどうしたいんだ?」
すると2人は俺を真っ直ぐ見た。
「この世界、この魔界で暮らしたい」
シンが強気に言う。
大抵のそういう立場のやつはすぐに帰ろうとするはず……。何かあったのか?
「そうだな、1つ条件がある。それが出来るならタダで戸籍と家をプレゼントしよう」
書類が入っている鞄から1枚、プリントを出した。
「その条件は俺の代わりにたまにでいいから仕事をしてくれ」
2人にプリントを差し出した後に手を合わせ、頭を下げる。
これが秘伝の奥義の1つ土下座の1段階前だ。
「え? でも……え?」
2人の目は丸くなっていた。
シンは言葉にもならない言葉を呟いている。
「仕事は簡単だ。ただ書類を確認して印鑑を押すだけ……だァァ!」
痛いィ! 待って、変な声出ちゃった?
後ろにはセアが立っていてハリセンのような物を持っていた。
「あのセアさん? 凄い痛かったんですけど……?」
痛みのあまり床に転がってしまったのでセアを上目に見る。
「手に持っているそれは何……?」
セアの持っているハリセンのような物を見る。
「針戦機ですよ?」
針戦機を掲げると針が姿を現す。
「ちなみに犯罪を起こした人に使っていたらしいですよ」
そう言うとセアは針戦機の針をしまった。
「ちなみにどこで手に入れたんだ?」
立ち上がりながらそう尋ねた。まあ、何となく検討が付いているが。
「ミマ様からいただきました」
セアはすぐに答えた。てか、即答だった。
「バロン様、仕事をサボるために悪あがきしないでください」
セアは俺の襟を掴む。
「まだ、まだ話が終わってないから」
すると今まで何も話していなかった2人から笑い声が聞こえる。
「そんなに笑うことじゃないぞ!」
少しふざけ気味に笑いながら言った。
よし、柔らかくなったな。
「条件は仕事ではなく、もしも魔界が危機が迫ったら応戦する、です」
セアが条件を言い換えると2人は迷うことなく書類に承認の印を記入した。
◆◇◇◆
「せっかく真面目には仕事してくれるやつを見つけたと思ったのに」
ふてくされた態度でセアと話す。
「まったく、嫌な予感がすると思ったら……」
セアがこめかみを押さえ、ため息をついた。
「これからは誰かがついて行った方が良さそうですね」
目を細めながら俺を見てくる。
「その必要はないって」
「ははは」と笑うように言った。
話していると目的の場所へ辿り着いた。
「で、話は戻るがなんで俺が戦うんだ」
辿り着いた場所とは城にある闘技場だ。シンとハルの2人が書類に印を押した後、メイラが部屋に入ってくるなり戦闘力を測った方がいいと言ってきたのだ。
2人は少し引きながら承諾したが……。
「じゃあ、軽くやるか」
俺はとても強いということをセアが言ったことにより2人同時に戦うことになった。
「よろしく頼むぞ」
ハルは鎧に着替え、丸く白く塗装している木の盾を構えていた。
横のシンを見ると背中に大剣を背負い、手には魔法でできたマイクを持っていた。
すると3人が戦うと聞いてアモネがとても急いで闘技場へやってきた。
「何やってるのお兄ちゃん!」
観戦席から飛び降りる勢いで話しかけてきた。
「う〜ん、わからん」
つい、苦笑する。
「わからないって……」
「まあ、30分以内に終わるさ」
そう言い終わり、手を高くあげた。
するとメイラが出てきた。
「うむ、今からルール説明をするぞ!」
メイラが目を輝かせながら大声を出す。
「致命傷になる攻撃の寸止めあるいは相手の無力化が条件なのだ。 魔法の使用は可能だが、木刀以外の道具は使用禁止なのだ!」
メイラはシンとハルの手元を見た。
何かを思い出したようだ。
「今回は木でできた盾と音声の拡張のみで使われるマイクなら使えるのだ」
メイラは言い終えると手を高く掲げた。
てか、ほぼこの前のセアと同じこと言ってね?
「じゃあ、始めなのだ!」
メイラが開始の合図をすると床を蹴る。ハルはそれを盾で受け止めようとしている。
剣がハルの盾に当たりそうになった時だった。
「~~♪」
可憐な歌声が聞こえてくる。
シンの方を見るとピンクの髪を揺らしながら華麗にステップを踏んでいる。
「ッ!!」
反射的に大きく飛び退いたた。
剣を地面に突き刺し、膝を付く。
体がとても重い。
「これは……弱体魔法か?」
解析している間にハルが剣を構え、向かってくる。
「せあぁぁぁ!!」
剣はまだ素人なのかハルは剣を大きく振り落とす。
そのお陰で簡単に剣で受け流すことができた。
「体がだるい」
多分だが弱体魔法を使っているのはシンだろう。てか、シン以外いなくね?
「優しい悪夢」
シンに向けて魔法を放つとハルが受け止めた。見事なコンビネーションだな。その絆、俺とアモネに負けないレベルだな。
まあ、俺たちの方が上だろうがな。
とまあ戻るが魔法は盾に当たると霧散した。
「光魔法か……?」
いくつか同じ魔法を複製し、放ってみる。
「漆黒の槍」
10つの槍がシンの方へ向かう。
シンはそれを見ると歌をピタリとやめ、大剣を構えた。
「狂想曲!」
シンが叫ぶと目が威嚇している猫のように鋭くなり、真紅色に染まる。
口元はニヤリと笑い、槍を全て撃ち落としていく。
「これで体は軽くなったが……」
右からはハルが盾を構えて突進を左からはシンが大剣を振り回しながら迫ってきている。
「ちっ、しょうがないか」
視界が紫色に変わっていく。というか変えている。
「72柱――2柱目……アガレス」
俺を中心にして地震が起こす。
2人は突然、対応出来ずに転んでしまった。
転んだのを確認するとまず始めにシンの方へ向かった。
「優しい悪夢」
するとシンは意識を失う。
ハルが立ち上がると共にハルの首のうなじを叩いた。
ハルも意識を失った。
「バロンの勝ちなのだ」
シンにかけた魔法を解除し、ハルを揺すり起こした。
ハルも魔法にすべきだったか……。
「ん、あれ、試合の途中じゃ……?」
シンは座り、何かを考えている。
「負けたっぽいな」
ハルは悔しそうな仕草をするが声は悔しそうではない。
「これって不合格?」
俺の顔を恐る恐る見ながら聞いてくる。
「いや、合格だろ。2人合わせてメイラと互角くらいなら強いくらいだ」
苦笑しながらメイラを見る。メイラは大きく首を縦に振っていた。
「じゃあ、これからよろしくな」
右手を差し出す。
2人は「よろしく」と言って1人ずつ手を握った。




