番外編 〜クアーラの1日(後半)〜
「これからバロン様にご予定をお伝えに行ってくる!」
逃げるように走って城へ入って行った。
◆◇◇◆
「バロン様はどこかな?」
廊下を歩き、前、後ろを交互に確認する。
廊下の曲がり角に差し掛かった時だった。
「今日は絶対逃がしませんよ」
セア様の声が曲がり角から聞こえてくる。
今日も逃げてるのかな?
曲がり角を曲がるとバロン様が飛び出して来た。
「うわぁっ」
「きゃっ」
バロン様と衝突すると小さく悲鳴を上げてしまった。
「す、すまん。このお詫びはいつか……」
バロンは私の手をとり、立たせると走って逃げていった。
「あの、お伝えしたいことが……」
そう言うが既に逃げた後だった。
「は、速い!」
うっかり声を出してしまうほど驚いてしまった。
「お、門番殿。どうしたのだ?」
話しかけてきたのはメイラ様だ。
「実は……」
メイラ様にシンさんとハルさんのことを話すと「任せるのだ」と引き受けてくれた。
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げると小走りで門へと戻った。
◆◇◇◆
門へ戻ると来客がいた。
「私はシーゴ家の者だぞ! さっさと魔王城へ入れろ!」
失礼かもしれないが太っている男がカーシュとリンを怒鳴りつけている。
「魔王様との面会のご約束は……」
カーシュが下手に周り、男に尋ねると男の顔がみるみる赤くなっていった。
「私は貴族だぞ! なぜ私が約束などしなければならないのだ!」
男の様子に呆れたのかリンが男に近づく。
「人族も魔族も貴族制は廃止されたましたよね。これ以上ここで無意味に怒鳴るならお引き取りください」
リンは男を睨む。
「この門番ごときがァ!!」
男はリンに殴りかかってくる。
「反射の盾」
カーシュが魔法を放つとリンの前に盾が現れる。
男の拳がその盾に当たると骨が折れる音がした。
男は嗚咽する。
「この、クソがァ!!」
男は大量の魔力を貯め始める。
空が黒い雲に覆われる。
あれはだめ!
「死の雷ァァ!!」
男は城ごと2人に魔法を放とうとしていた。
「絶対零度」
ありったけの魔力で魔法を放つ。
その魔法は雲ごと雷を凍らせた。成功して良かった。
「なんだと!?」
男は取り乱している。
「クアーラ!」
カーシュが駆け寄ってくる。
魔力切れ寸前で膝をついてしまった。
「今のをお前がやったのか……?」
男がゆっくり私の方を向く。
「決めたぞ、お前を私の妻にする」
男が私に手を伸ばすと漆黒の槍が男の前を通る。
この槍は……!
「おい、うちの門番達になにしてんだ?」
門にはバロン様が立っていた。
バロン様の声は明らかに怒っている。
「貴様が新しい魔王か」
男がバロン様を睨む。
「私はシーゴ家だ! 魔王は私が継ぐ! さっさと消えろ」
鼻で笑うように話している。
「嫌に決まってんだろ。このクソジジイ」
バロン様がそう言うと男は手を前に出し、魔法を放とうとした。
しかし、先に魔法を放ったのはバロン様だ。
「闇の鎖」
紫色の鎖が男を縛る。
「こんな仕打ちシーゴ家が許さんぞ!」
男は悪あがきをしている。
「許さないのはこっちだ。このバカ息子が!」
後ろから男性の声が聞こえた。
「ギルドマスターか」
バロン様が呟く。冒険者ギルドのマスターなのかな?
「家のバカ息子が誠にすいませんでした」
ギルドマスターのジョン(後々知った)さんが深々と頭を下げる。
その間にも男は「私が王になるんだ」など叫んでいた。
「この息子は私に任せて頂けませんでしょうか……」
ジョンさんは頭を下げ、半分土下座の状態で言った。
「具体的にどうするつもりだ?」
バロン様は怒っているような声のトーンだ。
「北部の開拓に携わせようと思います」
北部の開拓は主に重罪犯が働いており、最も辛い仕事だと言われている。
「私はそんなとこには……」
「最凶の悪夢」
男を眠らせると男は唸り始めた。
バロン様は相当怒っているようだ。
「今すぐにそいつを送ってやれ」
バロン様の声はとても冷たい。
「はい、わかりました」
ジョンさんは頭を下げ、その場を去った。
バロン様は私の方へと近づいて来る。
「クアーラ、大丈夫か?」
バロン様が肩を優しく掴む。
「少し寝てた方がいいな」
そう言うと優しい悪夢と呟いた。
それを最後に私の意識は落ちた。
◆◇◇◆
「ここは……?」
仕事中だということを思い出し、ベッドから飛び上がった。
「早く仕事に戻らないと!」
扉を開けようとした時だった。
「起きたのか」
バロン様が部屋に入り、微笑む。
「痛いところとかないか? あいつになにかされてないか?」
バロン様は心配している様子だ。
「はい、大丈夫です!」
元気に答える。もちろん、心配させないように。
「なら、いいんだが」
バロン様がそう言うと時計を見た。
「もう、6時!?」
倒れたのは1時頃だ。
「早く仕事に戻らないと……」
仕事をしようとするとバロン様に止められた。
「今日はもう非番でいいぞ?」
バロン様は本当に心配している声だ。
「いいえ、大丈夫です! 私はこの仕事が大好きですから!」
元気に答えると「そうか、じゃあ、大丈夫だな」とバロン様は止めるのをやめた。
◆◇◇◆
門へと戻ると2人が心配してくれた。
「クアーラ大丈夫か?」
「クアーラ大丈夫?」
「うん、もう大丈夫だよ!」
元気に答えると2人は安心したようだ。
「それよりもお昼ご飯は食べたの?」
リンがそう聞くとお腹が鳴ってしまった。
「う、ううん」
3人で笑うとクアーラは更衣室にあるバッグからお弁当を出しに行った。
「さてと、早く食べちゃおう」
このお弁当は昨日、弟に作ってもらったものだ。
「さすが好みがわかってる」
さすが私の弟。これは嬉しい。
「ごちそうさまでした」
素早く片付け、門番の仕事へと戻る。
「さて、張り切ってこー!」
大きな声だが、周りの迷惑にはならないレベルの大きさにした。
「なんでそんなにやる気が出るのか不明」
リンが少し嫌な顔をしている。
「恐らくもう誰も来ないけどな」
カーシュからかいながら笑った。
「万が一が有り得るでしょ!」
そう言うがその日、特に何も無く終わった。
「ほら、もうそろそろ4時だぞ」
カーシュがあくびをしている。交代で仮眠を取ると言っても眠い。
「ほら、来たよ」
リンが指を向ける先には次の当番の先輩が来ていた。
「ほら、交代だ」
「はい、これ!」
丁寧にカードを渡すと3人で更衣室へと向かった。
「2人とも今日はなんか用事あるか?」
着替え終えたカーシュがドア越しに聞いてくる。
「家に帰って本を読むつもり」
「私は弟と食事するつもりよ!」
淡々と答えていく。
「カーシュは何するの?」
聞くとカーシュは一言「寝る」と言った。
カーシュらしいな。
「それじゃあ、また明日な」
カーシュが手を振る。
「うん、また明日」
リンは頷く。
「また明日ね!」
2人に大きく手を振り、軽く走って家に帰った。




