10話 〜世界の危機?〜
「さあ、バロン様。仕事しましょうか」
セアはそう言うと服の襟を掴んだ。
「これは、その、魔族に危険を脅かす魔物を倒して……」
「ダンジョンの魔物は冒険者の仕事ですよね? バロン様の仕事ではないと思います」
笑顔だがとても怖い顔でセアは言葉を遮った。
「確か、魔王の仕事に魔族の脅威になる絶対的強者に勝つて……」
「その魔物達は魔族の脅威になりませんよね?」
そうなのだ。ダンジョンの魔物はダンジョンから出ることが出来ないのだ。
今度こそ言い訳が思い付かず、黙り込んでしまった。
「さあ、バロン様。仕事をしましょうか?」
セアは顔は笑っているが声は全く笑っていなかった。
「でも、転移魔法使う分の魔力が……」
弱気にセアに言う。
「なら、風の翼」
セアが魔法を唱えるとセアの背中に白い翼が生えた。
セアはそれを確認するとメイラにも同じ魔法をかけた。
「これなら時速150kmで進めます」
セアは得意気な顔でそう言った。
まって、それ俺死んじゃう。
「でも、風圧が凄いことに……」
「空気抵抗」
セアが魔法を唱えると体に薄い風を纏うような感じがした。
「これで文句はありませんよね?」
セアはそう言うと俺を抱えながらメイラと一緒にダンジョンを駆け抜けた。
この年で女子に抱えてもらうとかなんの拷問だよ!
◆◇◇◆
「全く、ここ抜けるだけで30分も掛かりましたよ」
「魔物は対して強くなくてガッカリなのだ……」
セアは疲れているのに対し、メイラは何故か落ち込んでいた。
ほんとに脳筋だなー。
「なあ、今って何時だっけ?」
空を見ながらそう聞いた。
「まだ、1時くらいのはずですが?」
セアが不思議そうに答える。
「じゃあさ、空ってこんなに黒かったっけ?」
セアとメイラも空を見上げる。空は夜のように暗くなっていたのだ。
「翼の放っている光で全く気づかなかったのだ」
「あそこにいる人が起こしたんじゃないですか?」
セアが空中にいる上に手を翳している男に指を指した。
「見るからに怪しいな」
目を凝らしその男を見てみる。
あれ、明らかになんかの儀式なんだよなぁ。
「見るからに強そうだな!」
メイラは興奮している。
ここで少し落ち着いてもらいたい。
「いざ、参る!!」
侍のようなことを言いながら男へ突っ込んで行った。
「おい、バカ!」
咄嗟にそう言うが既に遅く、メイラの剣は跳ね返されていた。
「メイラ!!」
浮遊魔法でメイラを助けに行った。
ギリギリセーフ?
「あいつ、とてつもなく強いぞ!!」
メイラの目は輝いていた。
そうだ、こいつ馬鹿みたいに硬かったんだ。心配した方が馬鹿だったか……。
「何やってるんですか! 脳筋バカ様!」
セアはメイラのことを心拍するような声で近づいた。
「なっ! 脳筋バカだと!」
メイラは驚いていた。
「もしかしたら、死んでたかもですよ!」
セアがそう言うとメイラは黙ってしまった。
「むぅ……すまなかったのだ」
「いえ、これからは無理をしないでくださいね」
仲がいいことは良きかな。あとは嫌な予感しかしない。
「あと、バロン様。お仕事の時間ですよ?」
「え? 仕事?」
今、仕事なんて関係ない。何言ってんのかな? ははは……。
「さっき、バロン様が仰っていたじゃないですか。『魔王の仕事に魔族の脅威になる絶対的強者に勝つ』って」
背筋が凍り、顔がどんどん青ざめていくことを感じる。
「あの、なんか凄そうなやつを?」
「はい。凄そうなやつをですよ?」
「いやいや、俺死んじゃうよ?」
「バロン様なら大丈夫です」
セアが笑顔で言っている。
「はぁ、しょうがないか」
魔力を回復するポーションを飲みながらゆっくり男の方へと近寄った。
「フ……フハハ……フハハハハハハァァ!!」
男が気味悪く笑った。
まじでそんな笑い方するやついるんだな。
「これが力か……これで我は真の強者になれたぞォ」
男は気味悪く話している。一人語りしてる時点でかなり気味悪い。
「手始めにそこにいる魔王と勇者を殺してやろうではないかァ!」
こちらへ突っ込んで来た。RPGゲームの魔王かよ。一人語りして戦闘始まるのってそれくらいだぞ?
「なあ、今まじでだるいんだ。一瞬で終わらせるぞ」
ため息をしながら男の方へ手を向ける。
「我が攻撃を喰らえッ! 終焉の闇ォ!!」
魔法を唱えるが魔法は発動しなかった。
「何故だァ! 何故我が攻撃が発動せぬのだァ!」
男は取り乱している。
「言っただろ? 一瞬で終わらせるって」
視界が紫色に輝いている。
「俺は吸収魔法を使った。 意味が分かるか?」
出来るだけ威圧感を出しながら、男へと近づく。
「この力は凄い疲れるんだ。だから……」
視界が紫色から黒色へと戻る。
男の方へ手を出す。
「異次元転移!」
そう唱えると男は異次元へと消えて行った。
さすがに無理し過ぎたか。
魔力切れだから相手から奪い取った魔力を変換。で、その魔力を全て次元転移に使ったと。
そう考えると同時に意識を失った。
◆◇◇◆
「……あれ? ここは部屋か?」
目覚めると自分の部屋のベッドだった。
あら、不思議?
「確か、魔力切れで気失ったんだ」
だんだん思い出していく。
すると、扉が開く音がした。
「お兄ちゃん!」
アモネは俺の顔を見ると涙目で駆け寄って行った。
「なんか、心配させてごめんな」
こんな顔を見ると申し訳なくなってくる。
「ところで今何時だ?」
「今日はお兄ちゃんが眠り始めてから36日目だよ」
え? まじ?
あ、え、あ、な、は?
「な、なんだと!?」
「冗談だよ」
アモネが笑っていた。
この妹め……。
「ビビらせんなよ」
つい、笑ってしまう。
「で、本当は何時なんだ?」
「午後4時だよ」
4時だと2時間半近く眠っていたことになる。
うわぁ。
「もうそんなに経ってたか」
「ちなみに城下町では救世主バロン様って賑わってるんだからね!」
「冗談はやめ……」
「冗談じゃないよ?」
アモネの声のトーンは普通だ。どうやら本当らしい。
「まさか、あれ、皆見てた?」
「うん。しっかりテレビでも報道されてるよ?」
これで全世界が俺の強さを知ったことになる。
これって自宅警備員からだんだん遠ざかってないか?
「でも、声までは入ってなかったからなんて言ったかはわからないよ!」
不幸中の幸いかとそこはほっとした。
今、思い出したけどセリフがちょっと恥ずかしいやつだからなー。
「これってタキシードとか着た方がいいかな?」
「いつも通りでいいと思うよ」
2人はいっしょに軽く笑っていた。
◆◇◇◆
「心配かけて悪かったな」
まずセアとメイラに謝った。
「いえ、私が無茶なことを言ったのが悪いです」
「私も無闇に突っ込んだのが悪いのだ」
2人は申し訳なさそうに謝った。
「いや、2人がいなくてもやることには変わりなかったよ」
少し笑顔でそう言った。
スマイルは大切だよね。
「そういえば、城の前にマスコミの人集りが出来ていたぞ?」
メイラが確認するかのように言う。まじかよ、これは籠城がベストだな。
「それなら問題ありません。既にお帰り頂いています」
セアは窓に指を指す。
「ほんとだ。誰もいない」
アモネは窓の外を見て呟く。
「代わりにバロン様が明日、何があったか言う必要がありますが」
俺を真っ直ぐに見ながらセアは言った。
「仕方ないか」
苦笑しながら言う。これが記者会見か?
まあ、違うだろうけど。
「メイラ」
そうだ、あれを忘れるとこだった。
「なんなのだ?」
メイラは不思議そうに振り向いた。
「明後日、2人で街へ行くぞ」
そう言うとメイラの目は輝いた。
あれだな。遊んでもらえるときの犬だな。




