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オレと妹を育てるため、働き詰めだったおふくろ。随分苦労したと思う。
忙しさにかまけて、化粧もおしゃれもしなかったおふくろは、年より老けて見えた。
けれど、若い頃のおふくろは色白で、澄んだ目の美人だった。
そんな若い頃のおふくろの姿をさっき見た父親の姿と同じように、何度も見たのだ。
最初、おふくろの幻を見たのは、妹が生まれて間もない時だった。
父親とおふくろはまだ仲良くやっていて、平和で普通の毎日を送っていた。
オレが小学校に入学したばかりの頃だった。
ある日の夕方、オレは自分の部屋に行こうと、父親とおふくろの部屋の前を通った。
その部屋のドアが半分開いていて、おふくろが布団で横になっているのが見えた。
あれっ、と思いオレは立ち止まった。
オレに気づいたおふくろは、薄暗い部屋の布団から笑いながらオレに手を振った。
優しい、いつもと変わらないおふくろの姿だった。
でも、オレは驚き、怖くなって慌てて階段を下りた。
なぜって、おふくろがそんな所でオレに手を振るはずがなかったからだ。
おふくろは下の居間で赤ん坊の妹を抱いてあやしていたのだから。
居間に戻ると、やっぱりおふくろはさっきと同じように、赤ん坊を抱いてそこにいた。
オレの顔を見たおふくろが、どうしたの?ときいた。べつに・・。オレは今見たことを言わなかった。言ってはいけないような気がして。
しかし、オレはおふくろのあの姿に見覚えがあった。
細く白い手を布団から出して、微笑んだ顔。
あれは、おふくろが妹を産むまで、つわりで寝込んでいた時の姿だった。