7月7日、7月8日
※本作品はボイコネというサイトの、セリフお題として書いたものを繋げたものです。
-いつかの、7月7日-
「どれだけ会えなくとも、必ず君を迎えに来る。だから、どうか待っていておくれ。」あなたは去年もそう言った。もう何度目かは数え飽きた。
私たちは愛し合う夫婦で、あなたは誠実な夫で、私は貞淑な妻であることに努めたはずだった。しかし、天は無情にも仰った。
「お前たちの愛は罪である。今後は星の大河によってお前たちを分かつ。逢瀬は1年に1度のみ。祈るもの在れば、その祈りを聞き届けよ。」
数百年、数千年たってもなお、私は天の声に納得できない。いっそ、他の男を愛そうかとも思った。しかし、無理だとわかった。私はもう彼以外を、夫以外を愛せない。夫以外を愛することなんてできないのだ。それが出来ないなら…生きる意味すらないほどに。
…彼は…どうだろうか?…いつか…川岸に船が着く音がしなくなる…それを思わなかった日はない。嫌な考えばかりが膨らんで、絹を織る手に力が入らなくなる。…あの笑顔が…他の女にも向いていたら…。
川岸に船が着く音で、物思いが止まった。急く気持ちで戸を開けると、あの日と変わらぬ腕が私を抱きしめた。この日、この瞬間、また彼の愛が心に刻まれる。くだらない物思いはかき消えて、「生きていてよかった」、そう思えるほど。
そして、彼は私の手を握って、笹の音が絶えぬ夜を2人で巡る。彼の暖かい手に包まれて、私も歩き続ける。
天は「祈るものあれば、聞き届けよ。」と言った。「お前たちの愛を祈るものがいるならば、探してみよ」と仰っているのだ。私たちはその祈りを探して回る。時に人を助け、時に人を笑顔にし、時に人の悲しみを和らげて。
けれど、私たちが再び結ばれる祈りは…1度とて…。
私は、ちゃんと笑えているだろうか?幾度、日よ登らないでと祈っても、その願いは届かない。太陽は無情に地を照らす。光が、私と彼を…隔ててしまう。
…永劫、私たちはこれを繰り返すのではないか?…彼は変わらず、私を愛してくれるのだろうか…?
また、くだらない物思いに耽る私の手をしっかりと握りながら彼は歩みをとめない。私たちの未来を諦めていないから。それが嬉しくて…思ってもいないのに涙が出る。私たちは歩き続ける。だんだんと、空が白む。彼の手も、見えなくなる。それでも、私の手を引く力は緩まない。
「今年ももうダメだった。」
せめて一言、別れを言おうと口を開きかけたその時、唐突に歩みを止まった。顔を上げると、彼は泣いて、笑っていた。彼が私に短冊を差し出す。そこには………
「ねえ、ママ、わたしのねがい、かなったかなー?」
「そうねぇ。叶うといいねぇ」
-いつかの7月8日-
「笹の葉、片しといて。」
店長の言葉に「はーい」と答える。店長といっても、幼なじみだけど…。
私たちは小さな街の、小さな商店街で育った。初めて親に連れられて、彼に会った時はなんだかムスッとしていて、「こわい」と思って母に隠れてしまった。なのに、彼はぶっきらぼうに私に手を差し出して、
「あそぼ」
と言った。それから沢山遊んで、一緒に通学して、たくさんの話をした。高校を卒業すると、彼は商店街の店を受け継いだ。私は大学に進んだけれど、なんとなく離れたくなくて、今も彼の店を手伝っている。
この気持ちに気がついたのは高校生の頃。けれど、言葉にしたら…この関係が壊れてしまいそうで…、今も言葉には出来ていない。来年、この街を離れる…、今も。
さらさらと笹の葉が踊る。たくさんのカラフルな短冊に彩られた笹を、袋に仕舞いながらふと思う。
小さな頃、「乙姫様と彦星様が、ずっと一緒にくらせますように」と、短冊に書いたことがある。七夕の日、母に紙芝居を読んでもらった私は「かわいそう」と思った。今思えば…こどもらしい幼稚な考え。「2人は好きだっただけなのに、どうして神様はそんないじわるをするんだろう?」、そんなふうに思ったのだ。
今は、そうは思わない。お互いにどれだけ好きでも、一緒に居られない恋人なんて…よくある話だ。まして…、自分の気持ちすら言葉にできない私が「かわいそう」なんて思う資格…あるわけがない…。
「あの…、これ。」
唐突にかけられた言葉に我に返る。顔を上げると、綺麗な女性が赤い短冊を私に差し出していた。
…っこれ…私の書いたやつだ!
気がついて、真っ赤になりながら受け取り、
「すいません!」
と謝る私に、
「いいえ…。…こちらこそ…本当にありがとう。」
と女性は穏やかに答えた。後ろで、柔和そうな男性が私に会釈をする。
お客さんかな?と思う私に、女性は微笑むと、2人は手を繋いで商店街の人混みに消えていった。
2人を見送りながら、「私も…言葉にできたなら…あんなふうに…」と思いかけて、首を振って短冊を袋に押し込んだ。
「店長、笹、しまったよ。今日はそろそろ降りるね。」
そういう私に、
「…あー…」
と彼は少し言い淀んだ後、
「…今日さ、夕飯、一緒に食わない?」
と言った。ぶっきらぼうな、彼らしい言葉。でも、返事を待つ彼の横顔は…赤くなっている。
7月8日。私が書いた短冊みたいに、真っ赤になった彼の顔。私は毎年思い出す。そして、その話をする度に彼は横で、真っ赤になって笑うのだ。
長すぎて、本人すら読めないお題セリフを生み出してしまいました…。繋げて編集して、エブリスタとこちらに投稿して供養(-人-)稚拙な表現などもありますが、生暖かい目で見送ってください…。皆様の願いも叶いますように…。