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第四話 鞍月さんは負けず嫌い

修人・矢切ペアVS鞍月・辻本ペアの激闘は終盤に差し掛かっていた。

セット数はお互いに2-2ずつ取っており、ファイナルセットはともに9点という互角の戦いを繰り広げていた。

穴と思われていた修人の相方の矢切は、サッカー素人でありながら予想を上回る活躍を見せていた。

基本的に修人が前衛で点を決め、矢切が後衛でカバーするというフォーメーションであったが、修人が取りこぼしたボールをことごとく拾って敵陣に返していた。これには修人も大いに助かっていた。

しかし、そんな矢切にも限界が近づく。


「わりぃ片桐。そろそろ…足が動かねぇ…」


「いや…ありがとな姉御。ここまで善戦出来てるのは姉御が後ろでボールを拾い続けてくれたからだ。

ここまで来たら負けらんねぇ…!後は俺に任せてくれ。」


修人は久しぶりに、忘れかけていた闘志を燃やしていた。

それを見た鞍月は修人に声をかける。


「言い忘れてたけど、私たちが勝ったら監督になってもらうからね!」


「はぁ!?ちょっと待て!そんなこと聞いてないぞ!」


「んじゃ、続き行くよ!」


修人の反論を遮って鞍月はサーブを打った。


「くそっ!人の話を聞きやしねぇ!オラァっ!」


修人は鞍月のサーブをトラップせず、鋭いボレーシュートで敵陣に叩きこむ。

鞍月・辻本はこれに反応できず、修人・矢切ペアに得点が入る。

これで10-9のマッチポイントとなった。


「もうそのスピードには慣れたよ。これでマッチポイントだ。」


「やっぱり強いですね片桐くんは。流石、武人様のご子息です。」


辻本も修人の技術を見て、改めて驚いていた。


「いや、違うよ辻本さん。俺は何者でもないただの一般人、片桐修人だ。これからはそう見てもらえると嬉しいな。」


「そうでしたね…失礼しました。でも、この勝負は負けませんよ!修人くん!」


「ああ!俺も今後の高校生活が掛かっているからな!負けるわけにはいかねぇよ!サーブ行くぞ鞍月!」


修人は鞍月に呼びかける。


「来なよ片桐くん…私たちが絶対に勝つ!」


修人は鞍月に向かってサーブを打ち込んだ。

レシーブの鞍月はボールを胸でトラップし、勢いを殺す。

そして、修人の頭上を高々と超えるフワッとしたボールを返してきた。


「なっ…!ループボールだと…!くそっ間に合わねぇ…」


足に限界が来ていた矢切は動けず、悔しそうに唇を噛んだ。


「大丈夫だ姉御、予想通りだ。後は俺に任せてくれ。」


そう言って修人は後ろに飛んだボールを追いかけた。


「そんな体勢からどうやってボールを返すんだ!?無茶だ!」


「イメージ通りに行けば問題ないよ。これで決まりだ。」


修人は身体を投げ出し、天高く右足を上げ、それを宙に浮くボールにミートさせ、敵陣に返す。

アクロバティックな体勢から放たれたシュート性の鋭いボールは鞍月、辻本ともに反応できず、ただ見送ることしか出来なかった。


「バ…バイシクル・キック…!」


鞍月は驚きを隠せずただただ呆然とするだけだった。

そして審判の宇田川から試合終了の合図が入る。


「ゲームセット!勝者、片桐・矢切ペア!」


合図を聞いた修人は力尽きたようにその場に崩れ落ち、うずくまってしまう。


「おい!片桐!大丈夫か!?」


心配して駆け寄る矢切を制し、右膝を抑えながら修人は大丈夫だと答える。


「ちょっと無理して一瞬痛んだだけだ。自分で立てるよ。」


それよりも、と修人は言葉を続ける。


「こっちの完全勝利だ。これでもう諦めてくれるよな?鞍月。」


鞍月は悔しさで顔を滲ませていた。

負けたのが相当堪えているようで、隣にいる辻本はどうしたらいいか分からずにオロオロしていた。

鞍月は悔しげに修人に質問をぶつける。


「一つ質問いいかな?最後のボール、なんで私がループボールで返すってわかったの?」


修人は少し考えた後、言葉を選びながら鞍月の質問に答える。


「このゲームを通して思ったことだが…鞍月、お前は勝つことに対してすごくストイックだよな?こちら側に初心者がいようがお構いなしに、確実に点を取るために最適な選択をする。」


「そうだよ…練習だって、負けるのは嫌だもん…!でもそれって悪いことなのかな!?」


鞍月は修人に食ってかかる。


「違う、そういうことを言いたいんじゃない。貪欲に勝ちにいくという精神はむしろ選手にとってなくてはならない大事なものなんだ。それは全く悪いことじゃない。

俺が言いたいのはな鞍月、お前はそれが表面に出過ぎてるってことなんだよ。

割と早い段階で分かったよ。お前は常に取りづらく、嫌な位置にボールを蹴り込んでくる。

それが分かったら後は簡単だ。わざとスペースを作って、そこを狙わせればいい訳だからな。」


「つまり…私は手の平の上で踊らされてたって訳…?」


鞍月は苦々しく呟いた。

それを聞いた修人は苦笑しながら言葉を続ける。


「そういう言い方されるとなんか嫌な感じだが、まあ概ねそんな感じだ。狙いがわかれば対処は簡単だからな。

最後のループだってそうだ。後衛の姉御の足が限界だとわかっていたから、俺の足が届かないループを狙ったんだろ?

こっちがマッチポイントってこともあったし、ほぼ確実に決めてくると思った。あのバイシクル・キックも咄嗟にやったんじゃなくて、サーブを打った時からそうやって勝つってイメージは出来てたんだよ。」


修人の説明を聞き終えた鞍月は小さくフフッと笑った。


「片桐くんの中ではあの時既に勝利の方程式が出来上がってたんだね…完敗だよ。本当に流石だね、片桐くんは。それと矢切さんも。とても未経験者とは思えない程のボール捌きだったよ。」


鞍月は矢切を手放しで褒め称えた。


「や、そんなことねーって…片桐がフォローしてくれたおかげで何とかやれたっつーか…マグレだマグレ!ハッハッハー!」


矢切は照れを隠すため、大きな声で笑った。


「それで、どうかな?ぜひ我が女子サッカー部に来るっていうのは?」


「ったく、転んでもただじゃ起きねーなコイツは。」


熱心に矢切を勧誘する鞍月を見て、修人は呆れ返っていた。

そんなやり取りをしていると、いつのまにかひとりの女子生徒が女子サッカー部員たちの前に立っていた。


「九条生徒会長…!」


辻本は、その女子生徒の名前を呼んだ。

九条と呼ばれた女子はサッカー部のキャプテンである鞍月の前に歩み寄る。


「鞍月…これは一体どういうことかな…?女子サッカー部は今年度から廃部だと言ったはずだが?」


九条から発せられた思わぬ言葉に修人は鞍月の方を見やる。


鞍月は反論もせず、ただうつむいているだけだった。


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