6月24日は全世界的にUFOの日
「脳裏にずっしり残るフレーズいっこ作ったら勝ち、みたいなところあると思うんすよ」
「それは、なんだ。書き出しの話の延長か」
「いや、必ずしも書き出しでなくてもいいんすけど。とゆか前回、ほんとは『六月二十四日は、全世界的に、UFOの日だ』を話題に出そうと思って。引っぱりだして確認してみたら、この一文って書き出しじゃなくて。ええーっ!? ってなったんすよね」
「ひとの記憶って曖昧ですよねえ。わたしも、おとといのばんごはんが思い出せません」
春秋はぽわぽわと言った。
「『ハンバーグハンバーグ』」
早川は身を乗り出し、タブレット端末をフリップのようにばん、と横に置いた。
よほどハンバーグが好きらしい。岩波は少しやさしい気持ちになった。
「おとついだと外食っすね。パパとママとおとーとと、中華食べいったっす」
部長の岩波は、自分の食生活が栄養学的効率のみを追求した、さながら囚人のような食事だという自覚がある。
覚えていないわけではないが、食事トークをほんのり避けた。
「そんなことよりっ! 今日はUFOの日なんすよ! 全世界的にっ!」
「『ひと目でわかる日本の名作』」
富士見と早川がきゃいきゃいしている。本のジャンルとして、富士見はラノベ、早川はSFを好みとしているが、これらは親和性が高いのだった。星雲賞とは、SF者と呼ばれるやっかいな性質のひねくれもの共が、面白いがSFではないのでと無関心を装わざるをえないコンテンツに対し『これはSFであるので存分に語ってよい』といった免許状を与える宗教的儀式であり、ラノベはその祭具として選ばれることが多いのだ。
二人で両手を繋いで、ベントラーベントラーとか言ってる。
宗教じみたものを感じるのでやめてほしいな、と部長の岩波は思った。
「ほら、はる先輩も一緒にやりましょ」
「はあい。いいですよう。これ、どういう遊びなんですか?」
「こう、手を繋いで輪になって、ベントラーベントラーって唱えるんす」
「唱えると、どうなるんですかねえ」
「UFOが呼べる裏技らしいっすよ。あと、私が楽しいっす。べんとらー♪」
非生産的極まりない。もはや病的ですらある。
岩波は静かに窓を開けた。
──窓の外は、今日も雨だった。
しとしとと降っていた。
「この雨の中、UFOとやらを探す気なのか、富士見」
「べんとらーべんと──むっ。センパは非オカルトっすか! ロマンがないロマンが!」
「いや、だが。この雨だぞ。見えないだろう」
「うふふ。じゃあ、雲に隠れてしまってるのかもしれませんねえ。ほんとは呼べてるのかもしれません」
春秋は、のほほんと言う。
「中秋の空は曇ることも多いです。でも、雲に隠れて見えない月を想って楽しめますねえ」
「べんとらー」
「雨月のように、UFOの姿を想像するんですよう。文学的ではありませんか?」
雨雲の切れ間から光がこぼれた。これなら帰り際には止んでいるかもしれない。
「おおっ! あの光はきっと魔法の言葉がきいているっすね! べんとらべんとらー!」
岩波にはどうにも、太陽光にしか見えなかった。