表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
稲高文芸部活動記録  作者: 稲高文芸部
29/31

武侠山月記/AIのべりすと使用感


「ふじちゃんがウケたいウケたいうるさいので、わたし、書いちゃいましたあ」


「まーた珍妙なモン書きましたね。いや、なんかハルさんナリに色々考えてンでしょーけど。あと、そんなにウケたいウケたい言ってないっす。うるさくはない」


「うふふふ。ウケウケきてきてでーす」


 春秋はふわふわ笑った。


「……しかし、これは君の作風からブレていないか? 君はどうも、描きたい作品の方向性として、純文学を志向していたような──」


「純文学ですよう?」


「『日本語の大疑問』」


 春秋の迷いない言葉に、すかさず早川がテロップのように書影を置いた。

 おおよそ日本語の解釈を誤っているのではないかという疑問だった。



「はい。確かに、ぞんびさんが大好きなふじちゃんから聞いたマッシュアップ小説にその端を発しています。ですけれど、古典作品を題材にし、再解釈を行うことは、純文学の世界ではよくあったことですっ。現に『山月記』も『人虎伝』の換骨奪胎ですよう。いいですよねえ、換骨奪胎。響きが、よき。です」


「……なかなか大胆な発言来たっすね、センパ……」


「ああ、そうだな……」


「そして、ヒトを描くこと。それだけを主軸にしたんですねえ。だから、今回のやつには骨子になるようなテーマがありません。ただ、戦うヒトをのみ、描いたんです。武侠要素はあくまで調味料ですねえ」


「いや……調味料にしては、味つけが濃すぎやしないか」


「『味覇』」


 早川が調味料の写真をタブレットに掲載した。新パターンである。


「あとは、中島敦先生の文体のまねっこですねえ。文体のクセとして、読点の置き方が現代文のそれよりもやや多めなんですよう。前半はそれを意識、でも、大変申し訳ないのですが、バトルシーンからはテンポと読みやすさ志向にシフトしましたあ。あとは読後感ですねえ。ラストは『文字禍』や『名人伝』とかを意識したんですよう。それからそれから──」


「『バーナード嬢曰く』」


 早川が写した書影は、第98話だった。

 SFを定期的に取り上げてくれるので早川はとても大好きなのだった。


「そうですそうですっ。『爪と牙こそが本物』『李徴は虎をエンジョイすべきだった』って言葉、すごく新鮮だったんですよねえっ。じゃあ、エンジョイしたらどうなるのでしょうねえ?──こうなると思いましたあっ! でも、ただの殺戮者じゃつまらないのでカウンターパートを置いて、それからそれから──」


 こうして、春秋の思想が開陳されていく。

 文芸部の面々は、まあ、いつものように大してウケないんじゃないかなと思った。

 零細文芸部は、今日もニッチな方向にばかりボールを投げていた。





「それはそーと。AIのべりすとの使用感についての話、してないっすね」


「なかなか隔世の感があるよな」


「『すばらしい新世界』『未来からのホットライン』『バベルの図書館』」


 早川の手は次々に書影を行ったり来たりしている。テロップのように置くタブレットも、中途半端な角度で他の3人にはよく見えない。それだけ、未来技術に興味津々だった。

 ドローンとかラズパイとか、色々と興味があっても、手先が不器用で臆病な早川は手が出せないのである。AIのべりすとはいい。何がいいってしんどいディープラーニング周りを既に整えてくれてるのがいい。


「うふふ。プリセットファイルにあった『中島敦MOD』を使った感想としては──ぱぱぱーっと次の展開を用意してくれるという訳ではない、ということですねえ。こざかしい時間稼ぎみたいなのが多いです。『次の瞬間』で止まる、みたいな。ただ、時折よいなあと思える表現が出てくるので、それを手直しして展開に混ぜる、といった具合でしたあ」


「新展開の考案も工夫次第じゃないんすかね。ほら、いわゆるAI拓也とか──」


「……何だそれは?」


「あ、センパは知らなくてもいいっすよー。なんというか、倫理的には割と……その、どうなのかなって類のコンテンツですし。ただ、AIのべりすとってWebサービス活用する上で、あそこに言及しておかないのは上辺を撫でてるだけだと思ったので」


 当人が書いたように見せる技巧を凝らす姿勢という意味では、言及が避けられないだろうと思う。

 そして、人間ではひり出せない言語感覚がギャップによる笑いを惹起する──その勘所を、模倣できるのであれば模倣したい。

 もっとも、AIを何度も虐待した結果出てきた文書が、果して人間にとって面白いか否かを判断する編集者の存在が必要なのだが。編集者的な目線で自作を判断する能力を養いうると考えると、これまた有用に思える。


「ディープラーニングに必要な文字数が大体30000字程度って話っすけど。となると長編80万字ぶちこんでサンプル作れば、よりわたしに近づくんすかねぇ?」


 富士見は、物語の基本は反復にあると考えている。とりわけ長編小説はそうだ。

 で、あれば、AIによって精査された自作の中より、反復に足るネタが発掘できるのではあるまいか?


「正直、わたしはわたしとぶん殴り合いながら文字打てたらすごく楽しそーだなって思うんすよね。出直せわたし!ってしたい。人が作った作品へのコメントは、どこまでも自分ごとですし、個人的な好み以上のモノを押し付けるのは傲慢でしょう。でも、自分2号ならボコボコにぶん殴れますし、AIくんも『この展開思いつかねえだろクソ人類』とわたしを殴り返してくれたら……もっと良いものができるっすよね!」


 割とすごく夢が広がっている。


「藤井聡太になりたーーいっ!」


 壮大な夢を見ながら、富士見はバカでかい寝言を吐いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ