バッドエンドの是非
「バッドエンドすき。いっぱいあるよ。人ひとりの力じゃくるった社会のシステムはかわらないの。理性によって築きあげられた狂気は強固なんだよ?」
「絶好調だなSF者」
稲高裏文芸部。
春秋家の離れに作られた一室は、旧校舎の部室を寸分違わず再現している。
職人の手によって築き上げられたそれは、すなわち隙間風がびゅうびゅう吹きつけてきて暖房もない。
意味のないこだわりを感じる設計であった。
「バッドエンドは許されるのかもんだいー! どんどんぱふぱふー。
とゆわけで、まずわたしから。わたしは許したくないでーっす! 絶対許したくないっ!!」
「いっぱいあるよ?」
「あるケドさぁ……! あ、ハル先輩はどう思います?」
「うふふ。そうですねえ……小説とは、ひとを描くものです。栄光もあれば、葛藤も挫折もあります。嫉妬や情欲、みにくい部分に焦点を当てることも、それはそれで美しさがありますよう。
人間を描いて、描いて、描ききって……。その結末が、たとえ悲劇だったとしても。それはあくまで結果だと思いますねえ」
「小説は世界をかくものだよ。ひとは技術の付随品なの。だって人の価値観って環境によってつちかわれるものだもん。それなら技術がちがえばひとのありかただって当然ちがってくるよね。ちっぽけなにんげんふぜいはいつも技術にふりまわされてるよね。SFが描く空想の未来は現実の未来にも警鐘をならしてるんだよ。だからどんなバッドエンドでもいいんだよ。せんのうエンドでもいいの。なんか投げっぱなしエンドの代名詞みたい受け取られちゃうかもしれないけどせんのうエンドいいの。すきだから」
「わたしの目の前で純文好きとSF好きの価値観が平行線を描いている」
オトコの目がないから、こいつらは厄介さを隠そうとしない。
洗脳エンド好きすぎんだろ。ダメだよ世界観広げるだけ広げた後それやるのは投げっぱなしエンドだよ。
富士見はそう思っ──。
「──ふじちゃんは、どっちだと思いますかあ?」
「振ってきた!? えーっと、その、」
「ふじちゃはわたしの友だちだよね?」
「ふじちゃんは後輩ちゃんですよねえ? お菓子、いっぱい食べましたよねえ?」
「……あんたら人間レベル下がってるけどそれでいいのか?持論以外のところで同意得ようとしてそれで満足なのか……? そんなんどっちか選べって言われても困りますよ。普通にどっちも大事でしょ。
だいたい、バッドエンドの話ですよバッドエンドの。許されるか否かの是々非々ですよ是々非々」
「バッドエンドすき」
「許されますよう」
「いや、でも……もっと考えて? 本当に許されます? バッドエンドですよ?」
「すき」
「それはそれでよいと思いますねえ」
「…………。許したくないって言ってんですよこっちはーッ!!」
富士見は腕をぶんぶん振って叫んだ。
振った腕が机にぶつかり、悶絶する。
「痛たた……いやね? なんていうのかなぁ……バッドエンドの物語がイコール嫌いってわけじゃ勿論ないですよ。美しい悲劇ってある。ありますよそりゃ。まあバッドエンドになるだろって流れもわかる。『ジョーカー』とかあれでグッドエンドになったらだいなし……いや?逆にアリかもしれないな……でもなんてーか、それならそれで『この物語はバッドエンドになります』っていうのをしっかり、事あるごとに作中作外で示してほしいんですよね? わかる?
不意打ちみたいなマネすんのやめろ……!」
「現実の不幸はだいたい不意打ちだよふじちゃ」
「ッせーなここ現実じゃねンだワ! 小説はー、創作なーのぉ!」
「それに、予告のない不意打ちだからこそ味わえるものもありますよう。
寝取られとか」
「しねッ!!!!!
……いや言い過ぎました。ホントは言い過ぎたなんてまっったく思ってないですけど、いちおう。言い過ぎました」
「うふふふふふっ」
春秋は上品に笑った。
「……単純接触効果って、あると思うんですよ。いやこれ晄くんからの受け売りですけど。受け売りですけど、あると思う。
触れる機会、カメラに映す機会が長ければ、そのキャラのことって割かし無条件に好きになっちゃうモンだと思うんですよね。で、連載型の作品ってなおさらそれが強いなーって。だからこそ手を変え品を変えイヤなトコ出したりしてっワケですが……あっ話がズレた。
ともかく。時間をかけて好きになった相手には、報われてほしいなって気持ちがある。読者としてそう思います」
「そうですよねえ。大事に思ってくれるからこそ、喪失の痛みがより深くなりますもんねえ。痛がらせたいです」
「傷害を企図してる表現って法的にどうなのって今度晄くんに聞こ……」
「合法ですよう。ゲーテの『ウェルテル』は裁けないんです。思想信条の自由は素晴らしいですねえ。うふふふ」
「自殺がブームってすごい社会だよねはるさん。ちょっとSFみある」
「おめェーのSFセンサーの感度が3000倍なだけだよ……感覚バカになってて風吹くだけで全身にSF感じるだけだよ……。つかゲーテだって自殺者増やすために作品書きあげたわけじゃねーでしょ……」
「SFの風いいよね。びゅんびゅんふくといいよね。だけど思想警察はバッドエンドの世界だよふじちゃ。いいよね。思想警察いいよね」
「思想善導って単語には心惹かれるものがありますねえ」
「クソッ2対1じゃ追いつかねえッ……」
「ふじちゃーは、キャラが死んじゃうのもだめなひとなの?」
「ん、んー……難しいなその問い。好きなキャラはきついなぁ……。でもまあ、物語上で意味のある死なら、納得はする……かな?」
「それが作品全体に広がっただけですよう」
「うん。キャラクターは物語世界の構成要素のひとつにすぎないからいくらころしてもいいんだよ。ふじちゃもわかるよね。じゃあ、主人公もいいでしょ? だってただの世界のレンズだもんね」
「んー……、んー…………。一理あるようなないような……。
し、しかし!そもそもっ! そもそも一番大事なのは、それを投稿して読者さんが受け入れてくれるかどうかでーす! 受け入れづらいんじゃないかなって思ーう!」
「大事なのは、わたしが何を書きたいかですよう。読者さんを信じます。うふふふ」
「ダメだったら別のひとの話よんでもらえばいいよ。口なおしできるやさしい作品はいっぱいあるよ。すごいよね。SFだよね」
「SFではない。……んー、んー………………。色々考えると、バッドエンドを許容できるかどうかって、何よりも連載形式が大きい、かなぁ……。一度に読み切れるなら許せるかもしれない。
連載形式にしても……、ゆる……、ゆ……やっぱダメだ! 許しません! 許したくないっ!! もちろん作者さんの判断が尊重されるべきですけどそれはそれとして許したくなーい!!」
「もー。ふじちゃーはわがままなんだから」
「いいえ。狭量さが少し改善されましたよう。素晴らしいことです。
その調子で、癖をどんどん広げていきましょうねえ、ふじちゃん」
「ヒエッ……」




