誤字訂正でPV跳ねるとすっげえ申し訳ない気持ちになるんだけどどうすればいいんですかね
「う゛うううう……!!」
答えは決まっている。決まっているのだ。
連載を抱えている富士見は、だいたい3話に1話くらい誤脱字の修正をする。
時々とんでもないあほをやらかすのだが、大体は『てにをは』などのごく基本的な一語程度の修正になる。なる、の、だが……毎回修正後に、修正した話の閲覧数がちょっと跳ねる。というか本日に至っては更新日よりも一日当たりPVが伸びていた。
それは逆説的に新規顧客獲得数の低さを示していて仮にこれがマーケティングなら要改善項目なんだろうなーって思う一方、ご愛顧いただいて大変にありがたいなという気持ちがある。あります。
しかしながら──。
「修正って言っても1字2字やぞ……!! それだけの修正で読み返してもらうのありがたさ通り越して普通に申し訳ないんすけどぉ!? いーじゃんそんくらいの修正ならブクマ枠に表示しなくてぇ!!
……いやまあ押すと叩くとかはまあ、与える印象まあ変わりますよ? それにアレ詩ってことは40文字中で1字違うワケで全体で見たら2.5%違うって大きな違いだと思うっす。でも助詞の間違いですし4000字中の1字誤字なんて0.025%ってハクスラゲーのレアドロップにレアエンチャ付きましたみたいな割合じゃないすか。現在約78万字中の1字にいたっては量子力学の世界じゃないすか」
「まあっ。見てください岩波くんはやちゃん。ふじちゃんが己の間違いの正当化をし始めましたよう。かわいいですねえ?」
「てにをはってブレてても結構するする読めちゃう部分じゃん! というか意図的にブらしたりするしぃ!! なんかもうホント何より申し訳ないからやめてほしい……っ!! 通知するしない選択させてほしい……!!」
「推敲をしないのが問題なんじゃないのか」
仕様についてごちゃごちゃ喚く富士見を、岩波部長は正論でぶった斬った。
富士見はよろよろと子鹿のように震えて床に倒れ伏す。
しかしそのスカートは鉄壁だった。
「してッ……しーてーまーすぅー! ……ただまあ、推敲中に表現変えてそのせいで誤脱字をやらかすのはまあ……そうっすね。でも、確認するだけの推敲でそゆの見つけられたためしがないとゆーか……」
「ドイツの文豪、カフカは推敲にあたって朗読をしていたそうだ。試してみたらいいんじゃないか?」
「4000字は読み上げだけで15分掛かるんすよねぇ……」
「『朗読の教科書』」
早川は『自分も推敲の時に朗読している』と書影を示すことで無言で主張した。
SF者は他のSF者を重箱の隅をつついたりそもそも重箱それ自体を上から下から眺めたり舐めたりするのが趣味の──作品テーマとかより三行くらいしか出てこないガジェットにばっか目がいくやつの──クソめんどくせぇ存在で潜在的敵だと見なしているので、どうしたって推敲に力が入るのだった。
それでも推敲漏れは発生する。
哲学だった。
「センパの前で喋んないクセにこいつ……。いや、ほら。短編中編みたいに完結までのスタートとゴールのラインがしっかり定まってりゃ、そりゃあ、推敲重ねて質高めようって意識もっとバリバリわたし出るっすよ? でもほら、長編は更新性があってぇ……」
「うふふ。かわいいですねえ。ふじちゃんの馬脚が露わになっています」
「馬脚とか言われてもー?わたしケンタウロスでもサテュロスでもウマ娘でもないでーーす」
「む、サテュロス? ギリシャ神話のサテュロスであれば山羊の足だろう。そこに並ぶのはシレノス、あるいはセイレノスと呼ばれる半獣神の方だ。同じくディオニソスの従者であるという特徴はあるが──」
「しらねーーっすよ! センパの知識キャラいらなーい! そういうモンスターの知識とかぶっちゃけ浅瀬でいいんっすわー! 結局受け手のイメージのしやすさがいちばん大事でシレノスとかそんなゲームとかにあんま出てこないやつはただのムダ知識ー!! ギリギリでメガテンに出てくるトコまでですー! 犬はフェンリルで猫はケットシーくらいで十分なんすよねえぇぇーっ!!!」
なぜか勝手に追いつめられた富士見は勝手に変な方向への暴走を始めた。
「いや、結局のところ問題は推敲の不備だろ」
「う゛ううううううぅ゛……!!」
そう。
いくら言葉を重ねても、答えは決まっているのだった。




