究極のオンラインゲーム(書き出し)/VRMMOモノ書きたい
0387 名無しさん@腐れ廃人 2021/7/7
【名前・ID】Arnold
【罪状】ボイチャ・ワードチャット
0388 名無しさん@腐れ廃人 2021/7/7
>>387
死ね
0389 名無しさん@腐れ廃人 2021/7/7
>>388
お前が死ね
・・・
・・
・
このMMOでは、あらゆる遊び方が許容される。
世界初のVRMMOオンラインゲーム《ウルティメイト・オンライン》。
美麗なグラフィック、ラグのない通信環境、ストレスのない操作入力。どれを取っても、他に類を見ないほどに優れていた。
しかし、唯一にして最大の誤算は、そこで開発チームが力を使い果たしてしまったことだ。
このゲームにシナリオはない。
超美麗なNPCたちは、皆なにか悲壮な背景がありげで、闇がどうとか世界の破滅がどうとか予期せぬ参照エラーだのと意味深なことをのたまい、そして何も始まらない。
シナリオライターが逃げたと噂された。
このゲームにバランスはない。
MOBモンスターをぶっ殺すとアイテムを落とす。時々レアアイテムがドロップする。
即ち、襲撃&略奪だ。レアアイテムの性能は乱数で定めていた。その乱数が狂っていて、ついでにダメージ計算式まで狂っていたからとんでもない火力が出た。
ゲーマーは数字が高くなればなるほど快感を得るという特殊な生態をしている。いや、ここはあえて人間存在がと換言しよう。資本主義社会はカルヴィニズムの影響を強く受けており、高い数字を出すことは即ち神に選ばれたことである。限りある余暇を無為に費やす姿は実に資本主義の豚であった。
そして、このゲームにルールはない。
開発と運営は性善説を信じていたのだろう。このゲームには《死亡時アイテムドロップ》と《パーティアタック機能》──いわゆる逆ヒールバグを仕様として公式が認めやがったのだ──が実装され、いよいよ手に負えないことになった。
ウルティメイト・オンラインにとって、他のプレイヤーとは動くタイプの宝箱だ。
キルペナルティは存在する。存在するが、名前が赤くなるだけだ。殺せば殺すほど鮮やかな赤に近づくので、自分の名前の色換えを目的にした初心者殺しは逆に流行になった。
──曰く、神ですら背負えない罪の持ち主たち。
──曰く、仏の顔面の血管がぶち切れるレベル。
──曰く、ゴミカス。
クソゲーマーは悪評を聞きつけどこからか飛んでくる。
そして、クソゲーマーによって世界は更に汚染される。
『卵が先か鶏が先か』ではない。卵が腐っているから鶏はゾンビだし、鶏がゾンビだから卵が腐るのだ。
草木の産毛まで再現された美麗なグラフィックに反する、レーティングに配慮されたチープすぎるキルムーブが、PKを加速させる。
「世界の終わりみたいなゲームだな」
その辺に湧いてたMOBを殺しながら俺は呟いた。
直後、30人のR255G0B0赤ネームに囲まれて俺は死んだ。
アイテムを落とした後も粘着されて合計70回くらい死んだ。
「ロクでもねえゲームだな。死ねよ」
「いろんなもの書きたーーい!」
部室にて。
今日も今日とて、色んなジャンルを書きたい欲を発散するため、アイデア帳に貯まっている書き出しの部分だけを富士見は書いていた。
「書き出しからして世界観が詰んでるんだが……」
岩波は素直な感想を投げた。
「いけないっすか?」
「いや、いけないことはないが。基本的に、小説にタ ブーはないだろう。もちろん、法的・あるいは公開している場所としての制限はあるけどな」
「『石に泳ぐ魚』」
「お、よく知ってたな早川。表現の自由とは無条件であらゆるものに優越する権利ではない、という事実を端的に示した判例だ。試験なんかでは結構頻出するぞ。偉いな。よく勉強してるじゃないか」
岩波は、思わず早川の髪を撫でた。
受験期に、富士見によくせがまれていた習慣が出た。早川は顔を赤らめる。
「……あっ。す、すまない早川! 嫌だったよな、本当に軽率な真似を──」
「…………あ、あぅ」
ラインの通知。
『いやじゃありません』という一文が飛んできて──、
「おほん」
富士見がジト目で咳払いをした。
「わたしの話をしてください。書いたのわたしです。わたし」
「あー、そ、そうだな。戻ろう」
「レギュレーションの問題とか引っかからないです。いちばん考えなきゃいけないのは、読者に受け入れて貰えるかどうかですよ」
「それはそうだな」
「公開しないで一人で楽しむなら、それを考える必要はないで……ないっす。でも公開した以上、受け手のことはやっぱり考えなきゃなって気持ちはあるんすよ。で、わたし、倫理観投げ捨てた剥き出しの本能とか好きなんすけど、これ結構毒味があるっすよね」
振り落とさずに振り回したい、という気持ちがある。
「でも毒味を捨てたくはない。センパ風に言うなら、『ベニテングダケのイボテン酸はうま味成分』ですし、チャン=ハヤ風に言うなら『極端さは面白さ。突き詰めた1984年は至高の作品で不朽の名作』。
で、VRMMOって舞台にすることでワンクッション置けばその辺りはかなり受け入れやすくなるよなーって。人の生き死にが容易く許される世界観っす。
Web小説の読書形態……多分通勤通学中とか、空き時間に読むってタイプが多いと思うんすけど。それなら、やっぱり色々軽い方がいいなーとは思うんすよね。思うだけっすけど」
1話1話の構造・展開が軽い上で、複雑なダイナミズムを感じさせるような作品がWeb小説という媒体において理想型なのだろう……とは思う。思ってはいる。というか、本来そういうつもりで書いてた。
葛藤を抱えさせるのと奥歯にモノを詰めたような世界観が非常に好きなので難しいのだが、そういう点をしっかり意識したものも書きたい。
「書きたい」
「はあ。ついてこれるひとだけ。ついてきてもらえばよいのでは?」
「だからはるさん先輩担当のやつはアレなんですよ」
「ええー? でも、100人から1回好きって言われるより、1人に100回好きって言われた方が嬉しいですよう」
「……その重さ普段は隠した方がいいですよ?」
富士見は岩波に聞こえないように囁いた。
春秋はふわふわ笑っている。
富士見は方向を戻した。
「あとは、純粋に黎明期のオンラインゲームの空気感に惹かれるところがあるっす。
逆ヒールとアイテムドロップは元ネタあるっすよ。DC版PSOって神の神の神ゲーっす」
「いや、お前生まれてすらなくないか」
稲高文芸部に所属しているのは高校生だ。
そういう建前がある。
「あー、まあ。まあ、まあ。はい。そゆことで。
あ、でもっすね。体験してないからこそのロマン、というのもやっぱりあると思うんすよ。現実のネトゲから効率って概念はもう切り離せないでしょうし、ロールプレイヤーは絶滅して珍獣扱い。コミュニケーションのためにチャットがあるのに使うと迷惑行為に当たる有様っす」
「それはそれで偏見があるような……」
「まあ、隣の芝はいつだって青いっすね。迷惑行為は即座に取り締まられた方がいいですし、ストーリーは凝ってた方がいい。快適なゲームを楽しみたい。具体的には街と街の移動で時間とかかけたくない。洗練されてると思うっすよ。
でも、例えば……。
ウルティマの演説中のGMを殺害したやつこと『ロードブリティッシュ殺害事件』とか。WoWのボスの凶悪デバフがバグで世界中に蔓延した『corrupted blood事件』とか。運営が突然デスゲーム主催にクラスチェンジした『血のバレンタイン事件』とか。
どうすか? 聞くだけでワクワクしません?」
運営が荒いことで生まれた出来事には、洗練された運営にはない──本来あるべきではないのだろう──参加者によって作られたドラマがある。
……しかし、きっとそれはもう、創作の中にしかないのだろう。プレイヤーも運営も、オンラインゲームのサービス形態に慣れきってしまっている。
だからVRMMOモノを読むとき、筆者は郷愁に似た想いに駆られたり駆られなかったりする。
「ほんと書きたいんすよねぇー、ほんといろいろ、書きたいんっすよねぇーー」
「……いやしかし、すまんな。僕はゲームがよくわからない」
「あんだけ沢山入れたスマホゲーの起動した痕跡が全然ないっすもんね、センパ」
「アイコンが邪魔なのでなんとかしてほしい」
「elonaやろうっすよー。ヘルメスの血に課金してがぶ飲みするっすよー」
「うふふ。もう運も生命成長もカンストしちゃいましたよう」
「それは課金しすぎですよはるさん先輩? というかelonaに課金とかいらないですし……いやするけど……だってペット限定だし……鯉のぼりとか……いや初限定が鯉のぼりて……elonaみを感じる……」
「『スマホゲーム依存症』」
「あ?ステラリス廃人がなんか言ってる。チャン=ハヤの好きな感じのやつがスマホゲーにないだけでしょ。ハードSFとか即サ終だよ。損益分岐点超えらんないよ」
「『怒り』」
稲高文芸部は、今日もわちゃわちゃしていた。