「なんかアクセス数ふえてんすよ。こわい」
稲高裏文芸部。
すなわち春秋家の一室にて。
文芸部の女性陣が集まっていた。
「多分これ太刀じゃなくてボウガンの方がいいな?」
富士見はソファーに寝っ転がりながらゲームをしている。上は制服なのに下はパジャマだった。
文芸部のみんなは仲がいい。戦闘力もない。そして現代が舞台だ。
だから顔を合わせるだけで殺し合いを始めようとしたりはしない。キャラクターの管理を考えなくていいので、温かいおかゆのように胃に優しかった。
「え゛っ……!? 更新話でもないのに日2000近く閲覧数があるのはおかしい……」
富士見は日課になっているアクセス解析ページを確認し、怪訝そうな顔をしながらスマホを逆さまにしたり上下にひっくり返したりしていた。
更新日でも閲覧者数1500に届かない、新規を呼び込むことを完全に諦めたタイトル/あらすじしてるのに、
更新日でもないのにこんなに人が来るはずない。
いや、そんなに沢山人が来ているわけではないけど、更新日より増えてるってことは平常事態ではない。
こわい。
「こわい……」
こわい。
連休にこれ幸いと積んでいたゲームの雷龍をぶち殺していたら、なんか、こわい。平日は指先でできるスマホゲーというかelonaとウマばかりしているがやっぱり狩猟は面白い。
そこに、このこわさ。落差だった。どこから来たのかわからない……。
いや、確実にどこかから来ている。どこかで来ているに違いない。ただ、自作小説の名前で検索する気力は出てこない……。
ロボット検索システムは検索するたびに広告がカスタマイズされ、『クソヒモ』とか検索すると色々汚染されそうだし、センスが欠落している間抜けなクソ長タイトル(長めのタイトルにもセンスは出る。なんか持って回った言い回しですっきりしない)をサジェスト欄に残すのもあまり気が進まないし、
何より、こわい。
「富士見ちゃんはかわいいですねえ。毎日頻繁にアクセス解析を見て、時々増えるポイントに喜んだりしてましたのに」
「ふじちゃ、ポイントの亡者なのにね」
「違う!?」
違わなかった。
自分が作ったものが誰かの感情を動かしたと思うと喜びがあるし、その証左としてのポイントはとても嬉しい。
感想はもっともっと嬉しい。なぜならアウトプットとは労力を使うからだ。
日本国民のおよそ9割が認識することとして、読書感想文とは書いていて苦痛である。
その労力を拙作に割いてくれたことは嬉しくてならない。
「……でもエンタメを書いてはいないんだよねえ……!」
面白いと思える表現を追求するでなく、自分が面白いなと思えるものを書いている。
読者さんの理解力を信頼していると言えば聞こえはいいが、理解してもらう努力に欠けている気がしてならない。
例えば──『ニップルファックビースト』とか。
「ふじちゃ、げひんだよね」
「ううう……! でもハヤちゃんは毎回ベッドシーン書いて毎回R-15タグつけないで済ませるじゃん!」
「つけないでいいとおもう。これはドラマのやつだから。SFにはタナトスとエロスがひつよう。性欲をかんりしないディストピアは不完全なの。にくたいかんけいがあるからこその愛のかたちもあるの」
「運営の人に怒られてるじゃん!!」
「……うん。そこは、はんせいしてる。ほんとにはんせいしてる」
「うふふ。ふじちゃんのは、ちょっと品性に欠けますよねえ」
「それハルさんには言われたくないです」
「はるさんってHALみたいですてき。『2001年宇宙の旅』なの。はるさんはるさん」
「なんですかあ? はやちゃん」
「よんでみただけ。はるさん」
「うふふふ。かわいいですねえ。よしよししたげますよーう」
富士見は頭を抱えている。
……羞恥だ。滑ったネタを解説するような感覚だ。
もちろん表現の意図はある。ただの電波受信ではなく、『序盤の時点で本作の下品さの下限はこれくらいかなという指標を出す』とか『地球文明を出して東京に繋げる』とか『サキュバスの巣の更新待ってます性癖ゆがませてくれてありがとうリスペクトです』とか。アレでいろいろ意図があった。
なお東京を出したときはブクマが減った。ちょっと堪えた。
「こわい……」
富士見には、ランキングに載っている小説に憧れがある。自分の書きたいものと流行とをすり合わせているからだ。
そこには、ひとりでも多くの読者を楽しませようという意図がある。
……読者と作者の満足とを天秤に掛けて、富士見は、後者を取る。もちろん、できるだけの努力をして、驚いてもらうための伏線とか、次の更新を楽しみにしてもらうためのヒキとか、小手先の手口でなんとかなる範囲はなんとかしているけれど……。
究極的には、作者の自己満足を優先する。
ひとりの心に刺さるものを書きたい、という願望がある。幼少期の、世間的な評価はあまり高くないアニメの主題歌がいつまでも耳の中に残ってるような……そんな刺さり方をしたい。
だから、読んでくれる人が増えることは純粋に嬉しい。
しかしながら怖さはある。あるのだ……。
「と、と、とりあえず。こ、こうしん頑張りまーす…………」
富士見の声は少し震えていた。




