節分・リテイク
「おにわぁー、そとー!」
部室にて。
三人の女子が、部屋に煎り豆を撒いている。
「すまない、部長でありながら遅れ──」
担任と会話していて到着が遅れた岩波は、ドアに向かって投げられた大豆の雨を浴びた。
「待て待て待て待て。君たち、何してるんだ」
「え? ああ。今日は節分っすよー、センパ」
2021年2月3日。
「──今日は節分じゃない」
「は???」
部長である岩波の言葉に、
富士見は『ついにおかしくなっちゃったのかなこのひと』と思った。
「説明しよう。節分とは、二十四節気で表されるところの季節の分け目を示しており、立春の前日を指す。立夏・立秋・立冬の前日も節分に当たるが、現代ではそう言われなくなった」
「はあ。そうなんすね」
「今年の立春は2月3日。今日は立春だ」
「なんで……?」
しらない。
きーてない。
「暦について説明せねばなるまい。1年間における、地球が太陽を周回する運動は365.2422日。つまり、約6時間ほどズレがあるんだ。それを埋めるのが4年に一度の閏年になる。ここまではいいな?」
「ごちゃごちゃうるせーっす」
「だが、閏年では逆に進みすぎてしまう。0.2422*4は0.9688。1-0.9688は──そう、すなわち44分ほど進むんだ。そこで、先人たちは400年の間に訪れる100回の閏年を97回に減らして調整することにした。100回の閏年で約3日分時間が進むことになるからな。だから100で割り切れる年は平年に、400で割り切れる年は閏年に、ということになった」
「スケールでかくてぴんとこねーんすけど」
「そこで2000年だ」
「『2000年問題のすべて』」
「2000年は100で割り切れる年でもあり、400で割り切れる年でもある。そのため、閏年となった。1900年を平年にして蓄積された時間は消化されたが、100年分続いた、44分の進みが蓄積され続けることになったんだ」
「全然ぴんとこねぇ」
「つまり──それに合わせる形で、立春もズレるようになった。これからは4年に1度、2月2日が節分になる」
「なんで……!?」
「まさに今その理由を説明しただろう、富士見」
富士見は顔を真っ赤にして震えた。
思い出される記憶。
──先週末、他の二人に『センパに黙って豆まきしようぜ、2月3日にしようぜ、部室でしようぜ』と連絡をしていた記憶。
早川は目を逸らし、春秋はいつものように笑顔を浮かべていた。
──二人は知っていたやつだ。富士見は耳まで真っ赤になった。
「おかしいでしょ! 立春より豆まきの方がずっと国民に根付いてるでしょ!最近えほーまきとか出ましたけどあんなのコンビニがここ10年で作ったブームじゃないっすか! あとなんかいかがわしいっっ!!」
富士見は豆を岩波に投げつける。
「待て、今節分じゃないと──」
「うるせーーーーっ! しらねーーーーーっ!!!!」