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稲高文芸部活動記録  作者: 稲高文芸部
13/31

メリー・クリスマス!


 春秋ひととせ家の広大なリビングにて。

 稲高文芸部は、クリスマスパーティーをしていた。


「「めりくりーっ!」」


「『クリスマスおめでとう』」


「いっせーの、で引くっすよー。いっ、せー、のっ!」


 ぱあん! 大きな音と、宙舞う紙吹雪!

 そして、それより大きな笑い声!


「いやー、やっぱすごい大きいっすよねー! はる先輩のおうち」


「うふふ。そうでもないですよう」


「ソファとかすっごいじゃないっすか。この革の手触りとか!」


「富士ちゃんのおうちのやつも。ふかふかでしたよう?」


「人をだめにするやつっすからね。こっちはダメにはならなさそう」


「うふふ。だめにするなんて退廃的ですねえ。わたしも、ほしいです。でも、おへやに家具を増やすの、おじいさまが許してくれないんですよねえ」


 早川は自分で引いたクラッカーの音に目を回していたが、復帰して二人の話を興味深く聞いている。

 時折、通販カタログを見せて会話に混ざっているようだ。


「ふう……」


 わいわいと楽しむ女性陣を眺めながら、岩波はため息を吐く。

 この場がつまらない、肌に合わないというわけではない。

 ただ、色々なことがあった──つくづく色々なことがあった今年一年を、部長として、しみじみと振り返っていた。


「なーにタソガレてんすか、センパ」


「ああ、いや、すまない。ただ、今年一年色々あったな、としみじみ思ってな」


 ──岩波は、自分には小説の才がない、と考えている。

 教科書に掲載されている物語も、ただの文章題として捉えていた。

 この表現にどのような意図があるか、空欄を埋める文章は何か、登場人物の心情を答えよ──岩波にとっては、すべて、答えの定まった解を選ぶ行為に過ぎなかった。


「この一年。僕は部長をできていたんだろうか」


「はあ? メンヘラやめてくださいっすよ。センパがぶちょーやってるから、わたし、文芸部入ったんすからね」


「『人をつくるリーダー力』」


「そうですよう。先代は岩波くんを指名したんですから。この一年、りっぱにリーダーをやってくれました」


「あー、そ、そうか……いや、すまない。変なことを聞いてしま──」


「ええい辛気くさいっ! センパ! 今日は何の日っすか!」


「ええと……平日で、終業式のあった日だな」


「クリスマスっすよ! このすっごいツリーとごーかな飾り付けとでっかいケーキ見てっ、最初に出る感想が平日って!感性死んでんじゃないっすかっ!?」


「ああ」


「ああ!?」


「家の者と頑張りましたよう」


「そうなのか。確かに、これは重くて大変だっただろうな……。僕も手伝えばよかったな」


「うふふ。嬉しい申し出ですけどねえ。パーティのホストは、用意することを楽しんでるんですよう」


 そういうものか、と岩波は頷いた。

 すると──。


「めりーくりすます。ほらセンパ、復唱」


 後輩に後ろから、がっちりとヘッドロックされた。

 後頭部に、ささやかな膨らみの感触がある。


「ま、待てっ、富士見、この体勢は──」


「めりーくりすます。めりー、くりすます。はい」


「め、メリークリスマス……」


「ぎこちない! も一回!」


「メリークリスマス……」


「声が小さいっ!」


「メリークリスマス!」


「まだまだっ!」


「め、メリー、クリスマス!!」


「んもう。ずるいですよう。富士ちゃん」


「な──き、君までくっついてくるのか? その、なんだ、腕に……」


「メリークリスマスです、岩波くん」


「め、めり……くりすまっ……」


「早川までっ!?」


「メリークリスマス! メリークリスマス! さあ復唱っ!」



 そうして。

 稲高文芸部はだんごになって、おしくらまんじゅうをしながら、メリークリスマスを連呼する奇妙なサバトが開催された。

 メリー・クリスマス!




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