第67話 最後の成り上がり、特務騎士アルト
王都近郊の森の中心部。
人気のない早朝の時間帯。
俺たち以外に人がいないことを確かめてから、計画を実行に移す。
「行くぞ!」
「ほーい!」
「あーい!」
息を合せる。
「「「『性質変化』!」」」
左手にゴールドガントレット、右手にゴールドソードを装備する。
「「「トリニティブレイズ!」」」
俺たちは渾身の一撃を放つ。
放たれたのは、白き閃光。
標的は、黄色の石、桃色の石、青色の石。
要するに、異界のデーモンの抜け殻を壊すためだ。
「「「ギュィィィィィィィィン!」」」
複数の悲鳴が合わさったような耳障りな声。
白き閃光は、三つの石を打ち砕く。
それこそ、塵一つ残さずに。
その威力は、ゼノンのルミナスブレイズをしのぐほどだ。
実際――
「うぎょー!」
「うにょー!」
「うひょー!」
爆風を受けて、俺たちは木の葉のように舞う。
「二人とも、大丈夫か?」
「大丈夫です」
「大丈夫っす」
俺たちはのろのろ起き上がる。
「「「おぉ!」」」
俺たちの驚きの声は重なる。
爆心地を見ると、巨大なクレーターが出来上がっている。
単純に考えても、その威力は伝説の魔物を即死させるだろう。
異界のデーモンが肩代わりしたとはいえ、ゼノンはよく耐えたなぁ。
「ダーリン、何も考えずに撃ったんですか?」
「手加減する余裕なんてなかっただろ」
「相手は弱体化してましたよね?」
「手加減したら、復活したはずだ」
「ダーリンらしいですね」
スラマロは驚く。
「アニキ、結果オーライ?」
「俺は、ゼノンを信じたんだよ」
「言い訳っすよね?」
「ごまかしだよ」
「アニキらしいっすね」
ゴレスケは呆れる。
「手加減、か」
あの時、手加減していたら、どうなっていただろう?
おそらく、デーモン化したゼノンの反撃にあっただろう。
その場合、事故に見せかけて殺されたに違いない。
そう考えると、結果的とはいえ正しい選択をしたみたいだ。
「それよりも――」
石の破壊を見届けた俺たちは頷き合う。
「「「計画達成!」」」
俺たちは喜びのあまりハイタッチする。
その時、心地よい音色が聞こえ始める。
テレテレッテッテッテー♪
「「「レベルアップ!」」」
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名前・アルト
職業・レジェンドテイマー
レベル・14
攻撃・230(レベルアップによる能力値上昇+10)
防御・230(レベルアップによる能力値上昇+10)
敏捷・230(レベルアップによる能力値上昇+10)
魔力・230(レベルアップによる能力値上昇+10)
技能・性質変化
レジェンドの眼光
レジェンドの御手
耐性・レジェンドの証
契約・あり
名前・スラマロ
職業・イータースライム
レベル・14
攻撃・130(レベルアップによる能力値上昇+5)
防御・130(レベルアップによる能力値上昇+5)
敏捷・130(レベルアップによる能力値上昇+5)
魔力・280(レベルアップによる能力値上昇+5)
技能・大食い
武器化
耐性・毒耐性
契約・あり
名前・ゴレスケ
職業・エレメンタルゴーレム
レベル・14
攻撃・115(レベルアップによる能力値上昇+5)
防御・115(レベルアップによる能力値上昇+5)
敏捷・115(レベルアップによる能力値上昇+5)
魔力・185(レベルアップによる能力値上昇+5)
技能・精霊の加護
防具化
アーティファクト化
耐性・麻痺耐性
契約・あり
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今回のレベルアップは、感慨深いものだ。
なぜなら、一連の問題の締めくくりに当たるからだ。
戦利品は、自分たちの精神的な成長だろう。
「やっぱり、力を使い果たしたな?」
異界のデーモンの抜け殻を壊すために、俺たちは力を使い果たしてしまった。
「マロ、ペコペコ」
「オレ、ネムネム」
「俺は、ヘトヘト」
俺たちは痕跡を消し終えると、森を後にした。
森を出ると、街道を通って、城門を抜ける。
一度目に許可を取っているため、二度目はスムーズだ。
ちらちら見られるのは、御前試合での勝利のためだろう。
「すっかり人気者だな!」
「ダーリン、調子に乗ってると、底辺に転落しますよ」
「アニキ、傲慢になってると、ゼノンの二の舞っすよ」
仲間の忠告に、平常心を取り戻す。
「到着」
到着したのは、ギルド連盟の本部。
ただ、いつもの本館じゃなく、なじみのない別館だ。
今日一日、こころ借りている。
「お待たせしました」
室内に入ると、
「「「勝利、おめでとう!」」」
祝福の声が重なる。
「「「応援、ありがとう!」」」
俺たちは感謝の気持ちを伝える。
臨時のパーティ会場にいたのは――
「遅かったね?」
「混んでたの?」
「買い食いしてた?」
エリス、マスター、そしてナンナ。
「エリスとマスターはわかるけど、ナンナは?」
「仲間外れ? 王都に来たら、家に寄ってと言ったでしょ」
「いやぁ、機会がなくて」
「ははぁ、可愛い女の子に会うのが照れくさくなったのね?」
「またまたご冗談を!」
「張り倒すわよ!」
俺とナンナのやり取りに、笑いが起きる。
「石は、三つとも完全に破壊したよ」
「問題なかった?」
「痕跡を隠すほうが大変だったよ」
「ひとまず安心だね!」
エリスの感想は、もっとも。
『傲慢』のデーモンへの返答じゃないけど、もしもの時は返り討ちにしてやる!
「アルトちゃん、ゼノンの取り調べは順調よ」
「ゼノンの様子は、どうです?」
「すごく素直らしいわ。それが、ゼノンの素顔のようね」
マスターによると――
ゼノンと支援者は、どちらも素直に取り調べに応じているようだ。
「全員揃ったから、パーティ開始ですか?」
「まだよ、あいつが来てないでしょ」
「マスターの幼馴染である事務局員ですか?」
「紹介したい人がいるらしく、連れてくるわ」
「婚約者だとしたら、残念ですね?」
「アルトちゃん、さすがの私でも怒るわよ」
気分を害したマスターに、俺は謝罪する。
「皆さん、お待たせしました」
事務局員に伴われてやってきたのは――
「国王陛下……!」
俺たちは呆然とする。
「長居するつもりはないから、緊張する必要はないぞ」
「そういうことではなく、どうしてこんなところに?」
「久しぶりに友の娘である、君の顔を見たかったこともある」
「本命は、私ではなくアルトちゃんでしょう?」
「そう、冒険者アルトだ」
国王は、こちらを向く。
「冒険者アルト、前に出なさい」
「はい」
「ちなみに、三歩だ」
「三歩? わかりました」
指示に従い、俺は三歩前に出る。
「冒険者アルト、一連の事件における貴殿の活躍は、多大なものであった」
そう告げてきたのは、もちろん国王だ。
「よって、私は貴殿を表彰する」
「ありがとうございます」
俺は表彰状を受け取る。
「ギルド連盟、並びに冒険者ギルドからの要望により、貴殿に褒美がある」
「褒美ですか?」
「ギルド連盟からの褒美は、報奨金である」
「報酬ですね!」
「冒険者ギルドからの褒美は、二階級特進である」
「昇進ですね!」
感激のサプライズに、俺は小躍りする。
「私からは、貴殿に爵位を授ける」
「爵位……?」
「もっとも、形式上のものだ。君は、特務騎士の爵位を受けるかね?」
「特務騎士……!」
「世間ではいろいろ言われているが、名誉職だ。それでも、受けるかね?」
「喜んで受けさせてもらいます!」
俺は勲章を受け取る。
「引き続きがんばりなさい。私も、貴殿の活躍に期待しているよ」
そう言い残して、国王は別館を後にした。
「三連続の二階級特進は、偉業中の偉業ですよ! アルトさん、贈り物です」
事務局員は、ケースから皮袋と紙片を取り出す。
皮袋には、信じられないぐらいの額のお金が入っている。
紙片には、「Aランク冒険者認定書」と書かれている。
そして胸元には、国王から授けられた勲章がある。
「スラマロ、ゴレスケ、俺はすごいだろ?」
「メタキン?」
「ゴルスラ?」
「ウルトラレアに、ランクアップじゃねえよ!」
仲間の反応に、がっかりする。
「爵位のあるAランク冒険者? 俺は、本当に成り上がったぞぉぉぉ!」
俺は拳を突き上げる。
「「「「「「本当におめでとう!」」」」」」
祝福の声が重なる。
「ありがとう、本当にみんなのおかげだよ!」
俺は感謝の気持ちを伝える。
「それじゃあ、パーティを始めようぜ!」
今日は、一つの区切りだ。
古い自分を捨てて、新しい自分を始めるための。
願わくは――
この先に、輝かしい未来が待っていることを!
物語の一区切りまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
毎日投稿の終了のみならず、一旦完結です。
いい機会ですから、読者の皆様、今回の物語を評価してください。
元の構想に沿ったIFバージョン「覚醒テイマーのやり直し」を投稿しました。興味のある方は、リンクをたどってみてください。




