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第64話 王都決戦・怪物勇者ゼノン

 御前試合。


 それは、試合という名の儀式だ。

 勝者は名誉を得られるけれど、敗者は後悔を強いられる。

 運命の分岐点と言っていいだろう。


 これから、俺たちはそれに挑む。

 俺たち――

 俺、スラマロ、ゴレスケ。


「スラマロ、ゴレスケ、行けるか?」


「今日の夜は、戦勝パーティですね!」


「その時は、どんちゃん騒ぎっすね!」


 仲間の言葉に、平常心を取り戻す。


「チームアルトのみなさん、舞台に進んでください」


「わかりました。さぁ、行こう!」


 円形舞台に、俺たちは進み出る。


 周囲は、人、人、人。

 さながら、人の海に投げ出された気分だ。

 大海で揺れる小船みたいに、心細さを覚える。


「アルト君、勝ってね!」


「アルトちゃん、がんばって!」


「アシュミー、負けたら承知しないわよ!」


 知っている者は少なく、知らない者が大半だ。

 前者は、エリス、マスター、それにナンナ。

 後者は、国王を始めとした国の上層部。


「ほぉ、あの少年が噂の冒険者か!」


「陛下、確かに優秀ですけれど、ゼノン殿に勝利するのは不可能かと」


「噂が本当だとしたら、奇跡を起こすかもしれないぞ!」


 観客の声が届くのは、試合の前だからだ。

 試合が始まったら、歓声に呑み込まれるだろう。

 それも、ゼノンの活躍を後押しする一方的なものに。


「御前試合の最終戦は、ゼノン選手の要望により、三人一組のチーム戦です!」


 指示に従い、円形舞台の中央に立つ。


「挑戦者は、チームアルト。何と人間と魔物の、混成チームです!」


 ワアァ!


 観客の歓声が上がる。


「強そうなテイマーだ!」


「可愛いスライムよ!」


「美しいゴーレムね!」


 観客の評価は悪くないけど、珍獣扱いだ。


「続いての入場は、何とチームではなく単独出場、ゼノン選手一人です!」


 ワアアアァァァ!


 観客の大歓声が上がる。


「やぁ、みんな、元気?」


 ゼノンが姿を見せる。


「ゼノン!」


「誰?」


「お前の敵だよ!」


「ボクの敵? へえぇ、面白い。がんばって、試合を盛り上げてね!」


「試合を盛り上げるから、今度は俺の名前を忘れるなよ!」


 名乗れと、ゼノンは顎をしゃくる。


「俺は、アルト!」


「マロは、スラマロ!」


「オレは、ゴレスケ!」


 俺たちは順に名乗る。


「ボクは、ゼノン。名前ぐらいは覚えて帰ってね、ポンコツトリオ!」


「「「上等だ!」」」


 相手の挑発に乗る。


「さぁ、両チーム向かい合って。――始め!」


 審判の掛け声が、開始の合図だ。


「「「『性質変化』!」」」


 次の瞬間――


 左手にはブロンズシールド、右手にはブロンズソードを装備する。


 ウオォ!


 観客の反応が、一変する。

 ゼノンへの期待から、俺たちへの興味へと。

 俺の意図した通りに。


「魔物の武装化? これは、一本取られたね!」


 言葉とは裏腹に、不満げなゼノン。


 戦闘直後の武装化の目的は、挑発だ。

 目立ちたがり屋のゼノンなら、乗るはずだ。

 実際、観客の声援を取り戻すために、演技を優先する。


「みんな、ボクに声援を!」


「ゼノンに、声援を!」


 ゼノンの呼びかけに、観客は応じる。


「ルミナスブレイズ!」


 次の瞬間――


 ゼノンは黒き閃光を放つ!


「ダーリン?」


「アニキ?」


「大丈夫だ!」


 俺の頭上を越えて、黒き閃光は天空に突き刺さる!


「うおおおぉぉぉ!」


 黒き閃光の威力を目の当たりにした俺は、絶叫してみせる。


「よく避けたね?」


「これぐらいは、避けられるよ!」


「うんうん、その調子!」


 観客のどよめきに、ゼノンは機嫌を直している。


「第一関門、突破」


 道化を演じたのは、時間稼ぎのためだ。


「行くよ!」


「来い!」


 先手を取ったのは、ゼノン。

 一息に距離を詰めると、愛用の黒剣を振るう。

 その威力はすさまじく、風圧で吹き飛ばされそうになる。


「最初から、全力かよ!」


「もちろん、手加減しているよ」


「嘘だろ?」


「本当だよ!」


 俺の反応に、満足げなゼノン。


 まだ倒すつもりはないものの、攻撃を当てないつもりもないみたいだ。

 力を温存しているゼノンとは違い、こちらは力を振り絞る。

 時に攻撃を避けて、時に攻撃を防いで、ゼノンの猛攻を切り抜ける。


「よく避けるし、よく防ぐね?」


「見下していられるのは、今のうちだぞ? 今度は、こっちの番だ!」


「そうそう、その調子!」


 俺の反撃に対して、ゼノンは喜ぶ。


「マナスラッシュ!」


 ガキン!


 当たり前のように、受け止められる。


「マナスラッシュ! マナスラッシュ! マナスラッシュ!」


 ガキン! ガキン! ガキン!


 当たり前のように、すべて受け止められる。


「スラッシュなのに、すごい威力と速度だね!」


「褒めているのかよ?」


「もちろん! もっとも、ボクのものよりは格段に劣るけど!」


「世迷言を!」


「世迷言じゃないよ? ほら、マナスラッシュ!」


 ザクリ!


 ゼノンのマナスラッシュによって、石の舞台が切り裂かれる。

 それどころか、その亀裂は地中深くまで達している。

 その一撃は、要塞さえ両断するだろう。


「感想は?」


「怪物……」


 俺は冷や汗をかく。


「次は、ボクのターンだね?」


「ターン製バトルのつもりかよ!」


「攻守を入れ替えると、試合は盛り上がるのさ!」


 繰り返される、ゼノンの猛攻。

 徐々に、それでいて着実に追い詰められていく。

 腐っても、SSSの冒険者だ!

 お読みいただき、ありがとうございます。

 勇者ゼノンは、一つの国を滅ぼせる存在です。

 そんな化け物に対して、アルトはどう勝利するのでしょう?

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