第63話 エリス救出作戦
「アルトちゃん!」
「アルトさん!」
「わかっています!」
マスターと事務局員に、俺は安心させるように微笑む。
「エリス!」
「アルト君!」
駆けつけたものの、助けられない。
犯人の手には、鋭い刃物が握られている。
そしてそれが、エリスの喉に向けられているからだ。
「スラマロ、エリスを無傷のまま助ける方法はあるか?」
「もちろん、あります」
「本当か! それは?」
「マロが、代わりの人質になりまーす!」
立候補するスラマロに、俺は頭を抱える。
「お前、スライムだろ?」
「絶世の美女ですよ?」
「犯人の求める美女は、人間だぞ」
「忘れたんですか? マロは、人間の絶世の美女に変身できるんですよ!」
「言われてみると……スラマロ、行けるか?」
「最悪、刃物に刺されても、マロなら耐えられます!」
請合うスラマロ。
「ダーリン、『性質変化』をお願いします!」
「無茶だけはするなよ、『性質変化』!」
「へーんしん!」
絶世の美女と化すスラマロ。
「エルスラ!」
「エルフとスライム、どっちだよ?」
「ドワスラ?」
「切り替わった!」
俺はビックリする。
「行ってくるのじゃ! ゴレスケ、ダーリンを頼んだのじゃ」
スラリーヌは犯人に歩み寄る。
「お主、イケてるのじゃよ」
「美しい、美し過ぎる! こいつさえいれば、他の女なんかいらないぞ!」
犯人はエリスを突き飛ばすと、スラリーヌを引き寄せる。
「エリス、大丈夫か!」
床に倒れたエリスに、駆け寄る。
「あたしは、大丈夫――」
「エリス?」
「すぅ、すぅ、すぅ」
「疲れて眠っただけ、か」
駆けつけたマスターに、眠りに落ちたエリスを預ける。
「マスター、エリスを頼みます!」
「アルトちゃん、スラマロちゃんを助け出して!」
一定の距離を置いて、俺と犯人は向かい合う。
「ゴレスケ、スラマロを助け出す方法はあるか?」
「オレが人質になれば、アネキを助け出せるっす!」
「ゴレアンテ? それ、人質が入れ替わるだけだろ」
「オレを助け出す場合は、アネキと交代っすね」
「人質のループ? ダメダメだろ」
「それなら、別の方法を考えないといけないっすね」
狙い目は、石だろう。
元凶さえ潰せば、後はどうにでもなる。
問題は、奪い取る方法だ。
「ゴレスケ、石を奪う方法にアテはあるか?」
「弾くアテなら、あるっすよ」
「弾く? よし、やろう!」
息を合せる。
「「『性質変化!』」」
次の瞬間――
ゴレスケは、ブロンズグローブに変化する!
「グローブの戦闘特技は、インターセプトっすよ」
「インターセプト? マナインターセプトだろ」
確認を済ませると、犯人の持つ石に狙いを定める。
「マナインターセプト!」
パシッ!
弧を描いた一撃は、犯人の手から石を弾き飛ばす。
「石! 私の石!」
スラリーヌを無視して、犯人は石を拾おうとする。
「スラリーヌ!」
「ほーい!」
スラリーヌは足を鞭みたいに振り抜く。
ヒュン!
その一撃は石を探す犯人の後頭部に突き刺さる。
「ぐはああああああああ!」
犯人は悲鳴を上げると、床に崩れ落ちる。
「今です、捕まえてください!」
事務局員の指示に従い、犯人はグルグル巻きにされる。
「なぜ将来を嘱望されていたのに、彼はこんなことを……」
「将来を嘱望されていても、不正には手を染めるんですね?」
「まさか――」
息を呑む事務局員。
「その男こそ、不正事件の首謀者ですよ」
「言われてみると、あの三人の証言と一致しますね!」
「今回の事件は、不正に手を染めたことによるストレスのせいですよ」
「いずれにしても、ありがとうございます!」
事務員の感謝の言葉を背にして、俺はその場を離れる。
「スラマロ、大丈夫か?」
元の姿に戻った仲間は両肩に乗る。
「ははぁ、嫁を奪われそうだったから、心配してるんですね?」
「妬くわけねえだろ!」
「ドキドキしたでしょ?」
「ブルブルしたよ!」
元気そうなスラマロに、俺は安心する。
「アニキ、石を回収しといたっすよ」
「さすがゴレスケ、気が利く!」
「アネキほどじゃないっすよ」
謙遜するゴレスケ。
「壊すまでの間は、厳重に保管しよう」
「具体的には、どう保管するんすか?」
ぐるりと見渡して、スラマロと目が合う。
「マロ?」
「スラマロ、食べてみてくれ」
「マジですか……」
「マジだ」
「それなら、いただきまーす!」
パクリ!
「ふぉぉぉぉぉぉ!」
いつものように叫んだものの、スラマロの形も色も変わらない。
「ほっほっほっほっほっ!」
「スラマロ?」
「アネキ?」
哄笑するスラマロ。
「我は、異界のデーモン! この可愛いスライムの、愛らしい体を貰い受けた!」
「スラマロ!」
「アネキ!」
豹変するスラマロ。
「ぺっぺっ、マジでまずいんですけど!」
「演技かよ!」
「もちろん、消化してませんよ」
「しなかったんじゃなく、できなかったのか?」
その点に引っ掛かる。
「無理すれば可能かもしれませんけど、無理したくないですねぇ」
「目的は保管だから、無理しないでくれ」
「そういうことなら、このままにしておきます」
引き下がるスラマロ。
「ダーリン、本当にまずかったんですよぉ」
「そんなにまずかったのか?」
「演技しないとごまかせないぐらいに、まずかったんですよぉ」
「ごめん、お詫びに食事を奢るよ」
「スィーツもお願いしますね!」
機嫌を直すスラマロ。
「アネキのおかげで保管できたから、ひとまず安心っすね!」
「それもあるけど、ゼノンの攻略方法を思いついたぞ!」
俺の言葉に、スラマロとゴレスケは驚く。
「ダーリン、本当ですか?」
「アニキ、可能っすか?」
「本当の上、可能だ。試合までは一日あるから、練習して本番に挑もう!」
昼間とは打って変わって、俺の言葉は説得力十分だった。
お読みいただき、ありがとうございます。
残っている問題は、ゼノンへのざまぁです。
次回、ゼノンとの決戦になります。




