第59話 勇者ゼノン
エリスとおしゃべりしていると、仮眠を済ませたゴレスケが目覚める。
「アニキ、オレの食事は?」
「もちろん、あるぞ」
「モリモリ!」
喜ぶゴレスケ。
「ダーリン、マロのお代わりは?」
「もちろん、ないぞ」
「シワシワ……」
悲しむスラマロ。
「スラマロ、俺の分を食べるか?」
「ダーリン、ダイエット中?」
「お前は、人の親切心を読み取れ!」
「親切心は、食べられませんよぉ」
言葉とは裏腹に、感謝するスラマロ。
「ダーリン、エリスの指摘はもっともですから、気をつけたほうがいいですよ」
「ゼノンの罠は、試合まで続くのか?」
「嫌がらせの類だと思いますけど、注意は必要ですね」
警戒するスラマロ。
「アニキ、本命の試合が始まるっすよ」
「もうそんな時間か? それじゃあ、中に入ろう」
闘技場に入ると、すごく盛り上がっている。
「前の試合は、そんなに面白かったのか?」
「アルト君、ゼノンが出場するからだよ」
「あいつ、そんなに人気があるのかよ!」
「名実ともに勇者でしょ? 圧倒的な人気だよ」
苦笑するエリス。
実態を知っていたら、苦笑するのもよくわかる。
俺自身、真実を知らなかった時は憧れていた。
今は憎んじゃないないものの、蔑んでいる。
「どうして、蔑んでるの?」
「嘘によって、塗り固めているからだよ」
「でも、みんなのウケはいいよね?」
「そりゃ、そうだよ。何しろ、大衆の望む英雄を演じているんだから」
「アルト君、辛辣だね」
苦笑いになるエリス。
「続いては、ゼノン選手の入場です!」
ワアアアァァァ!
観客の大歓声が上がる。
「やぁ、みんな、元気?」
審判の紹介に従い、ゼノンが姿を見せる。
「ダーリン?」
「アニキ?」
「間違いなく、あの悪党だ!」
俺の言葉は、周りの人には届かない。
ゼノンへの熱狂的な歓声に包まれて!
「ダーリン、頭に血が上ってると、大事なものを見落としますよ」
スラマロの忠告は、もっとも。
深呼吸して冷静さを取り戻すと、円形の舞台を見る。
そこには一定の距離を置いて、二名の選手が向かい合っている。
ゼノンはリラックスしているのに対して、相手は緊張し切っている。
「対戦相手は、雑魚かよ」
「対戦相手は、Sランクの冒険者らしいよ」
「えっ、Sランクなのにあのざまかよ!」
「ゼノンは、それだけの相手なんだよ? 念のため、ステータスを見てみよう」
エリスの助言は、もっとも。
「対戦相手は、さすがにSランクらしく強者だな? ゼノンは……嘘だろ!」
悲鳴に近い声が漏れる。
何しろ――
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名前・ゼノン
職業・勇者(デーモンヒーロー)
レベル・101(限界突破)
攻撃・1001(限界突破)
防御・1001(限界突破)
敏捷・1001(限界突破)
魔力・1001(限界突破)
技能・強欲の証(物理強化、属性強化、限界突破、欠点解消)
耐性・強欲の罪(物理耐性、属性耐性、状態異常無効、弱点克服)
契約・あり(強欲のデーモン)
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まさに圧巻だ。
勇者の中の勇者。
ゼノンさん、かっけー。
「まぁ、契約のためだろ」
「えっ、契約してるの! あたしには、契約してないみたいに見えるよ」
「契約しているだろ。――二人には、どう見えている?」
エリスの反応に困惑して、俺はスラマロとゴレスケに話を振る。
「ゼノンなら、もちろん契約してますよ」
「契約相手は、強欲のデーモンっすよね」
「どうして、俺たちは見破れるんだ?」
見破れるものと見破れないものと、違いは何だろう?
「ダーリン、『レジェンドの眼光』のおかげですよ」
「あれに、そんな効果あったか?」
「ステータス隠蔽無効と、書かれてたでしょ」
「言われてみると、その通りだな!」
俺は納得する。
「そんなことよりも、試合が始まるよ? みんな、注意して!」
エリスの指摘は、もっとも。
「さぁ、両者向かい合って。――始め!」
審判の掛け声が、開始の合図だ。
先に動いたのは、対戦相手。
ゼノンに対して、果敢に攻撃を仕掛ける。
しかし、そのいずれもゼノンは耐え切る。
それから――
しばらく、両者の攻防が続く。
一見すると、互角。
実際は、ゼノンの圧倒的有利。
「ゼノンのやつ、遊んでいるな?」
「遊んでるんじゃなく、盛り上げてるんですよ」
「エンターテイナーかよ!」
「生粋の目立ちたがり屋なんでしょ。ある意味、勇者らしいですね」
スラマロとの会話の間も、試合は続く。
「ゼノンのやつ、ためらったよな!」
「ためらったというよりも、止まったっすね」
「止まった?」
「力を溜めるみたいに、止まったんすよ。距離を取ったのも、そのためっすね」
ゴレスケとの会話の間も、試合は続く。
「ゼノンのやつ、本気を出すつもりだ!」
ゼノンは大技を仕掛けるみたいに、見慣れない構えを取る。
「みんな、ボクに力を!」
「ゼノンに、力を!」
ゼノンの呼びかけに、観客は応じる。
「ルミナスブレイズ!」
次の瞬間――
ゼノンは黒き閃光を放つ!
「うおおおおおおお――」
黒き閃光に呑まれた対戦相手は絶叫する。
「さようなら、名も知らないキミ!」
パチン!
ゼノンの指パッチンに合わせて、黒き閃光は消える。
それに伴い、対戦相手は地面に倒れる。
白目を剥いているものの、心身に異常はなさそうだ。
「勝者は、黒き閃光のゼノン選手!」
ワアアアァァァ!
勝者を称える大歓声の中、
「みんな、応援してくれて、ありがとう! 明後日の試合を楽しみにしてて!」
ゼノンは手を振りながら、闘技場を後にする。
「スラマロ、感想は?」
「白旗ですね」
「ゴレスケ、感想は?」
「お手上げっすね」
仲間の反応に、苦笑いになる。
「アルト君、どうするの?」
「もちろん、戦うよ」
「あんな化け物と、戦うの!」
「負けても殺されないし、むしろ戦わなかったら殺されるよ」
俺の言葉は、満更冗談でもない。
ゼノンは、御前試合での勝利を楽しみにしている。
試合を放棄しようものなら、存在を抹消されかねない。
「猶予は、二日ある。そのうちに、何とかするよ」
我ながらその言葉は、説得力皆無だった。
お読みいただき、ありがとうございます。
待望のゼノンの登場です。
注目ポイントは、そのステータスです。




