第55話 悪霊との激闘
人質の捕まっている建物の前。
襲撃を警戒して、全員固まっている。
その中から、俺たちだけ前に出る。
「中に入る前に、打ち合わせをしよう」
悪霊に聞かれないように、声を落とす。
絶対じゃないけど、やらないよりはマシだ。
息の合った関係を生かして、断片的に作戦を伝える。
「ゴレスケ、悪いんだけど、囮になってくれないか?」
「構わないけど、助けに来てくれるんすよね?」
「人質の安否を確かめたら、すぐに助けに行く」
「それなら問題ないっす」
頷くゴレスケ。
「スラマロ、まずは人質の安否を確かめるぞ」
「それから、ゴレスケの救出ですね」
「そして、悪霊との対決だ」
「順調にいくといいですね」
笑うスラマロ。
「それじゃあ、行ってくる!」
「みんな、気をつけてね!」
エリスを始めとした一同に見送られて、建物の中に入る。
「エリスたちは、大丈夫ですかね?」
「敵の狙いは、金のロザリオだ。狙われるとしたら、持っている俺たちだよ」
「そう思わせて、人質にする作戦かもしれませんよ」
「その場合、白旗を挙げるよ」
俺はお手上げのポーズを取る。
「それより、暗いな?」
「慣れるしかないですね」
「大部屋は明るかったから、問題はないだろ」
「無理なら、作戦変更ですね」
「今更かよ? よっぽどのことがない限り、作戦を変更しないぞ!」
言い聞かせる。
仲間に、そして自分に。
そうしないと、逃げ帰りそうで。
「闇は、人を弱くするな?」
「人だけじゃなく、魔物も弱くしますよ」
「一部を除いたら、弱気になるのか」
邪魔をするつもりはないらしく、無事に大部屋に着く。
「二人とも、作戦の通りに動いてくれ」
そう伝えてから、扉を開けて中に入る。
予想した通り、室内は明るい。
窓が多いため、外から差し込む光が強いんだろう。
これなら、作戦の実行に支障はなさそうだ。
「要求通り、金のロザリオを持ってきたぞ!」
部屋の真ん中に、見覚えのある黒い影がいる。
前回とは違い、その正体は判明している。
闇を操る悪霊だ!
「ファントムですね」
「ファントム?」
「ゴーストより、格上の亡霊です」
要するに、ゴーストの親玉だ!
「ファントムの特徴は?」
「ゴーストとは違い、一定以上の知能があります」
「インテリな亡霊、か」
当のファントムは机の上を示している。
「そこに、置けばいいんだな?」
「ノォォォ」
「そこに、投げるのかよ?」
「イェェェ」
「わかった、受け取れ!」
ゴロン!
机の上に、金色のロザリオが転がる。
「ロザリオを渡したぞ! 人質は、どこにいる?」
「イェェェ」
「よし、交換だ!」
ファントムの指示通り、部屋の隅に向かうと三人組が倒れている。
「あんたら、大丈夫か……引っ掛かるかよ!」
俺は手を伸ばして、しかし引っ込める。
直後――
手のあった空間を闇の刃が貫く!
「遠隔操作?」
驚いたものの、想定していた罠だ。
もっとも、面倒なことに変わりはない。
闇の刃を警戒しながら、人質の安否を確かめる。
「息をしているから、気を失っているだけだ」
「生かしておいたのは、罠にはめるためですね」
「俺たちへの罠?」
「邪魔者認定されたんですよ」
事実――
シルバーソードによって、迫り来る闇の刃を弾いている。
「攻撃は、自動みたいですね」
「動くものを狙っているんだろ」
「ロザリオを取られたら、二つの闇の刃に狙われますよ!」
「その前に罠から抜け出して、ファントムを倒そう!」
ゆっくりと体の向きを変えると、罠から抜け出す。
「スラマロ、ファントムを狙い撃つぞ」
「ロッドですね? ダーリン、『性質変化』をお願いします」
「わかった、『性質変化』!」
「へーんしん!」
次の瞬間――
シルバーロッドを構えると、ファントムに狙いをつける。
「マナバレット!」
パァン!
期待に反して、パレットは闇の刃によって防がれる。
ただ、完全に防がれたわけではなく、ファントムは体勢を崩している。
それでもすぐに立ち直って、ロザリオに向かっている。
「威力が足りませんね」
「協力技を使おう」
「ただ、確実に当てるためには、敵の体勢を崩す必要がありますよ」
指摘するスラマロ。
「マナバレット! マナバレット! マナバレット!」
パァン! パァン! パァン!
邪魔するように攻撃しながら、ファントムを追いかける。
「イェェェ!」
ファントムは喜びをあらわにして、ロザリオに飛びつく。
「イェェェ?」
ファントムの手から、ロザリオが滑り落ちる。
「アニキ、助けて!」
変化の解けたゴレスケが、助けを求めてくる。
そう、ゴレスケには、ゴールドロザリオになってもらったんだ!
「ゴレスケ、迎えに行くぞ!」
俺は、ゴレスケに向かって走る。
ゴレスケは、俺に向かって走ってくる。
合流を邪魔するように、ファントムが迫る。
「よし!」
ファントムに襲われる前に、合流を果たす。
「行くぞ!」
「あーい!」
息を合せる。
「「『性質変化』!」」
次の瞬間――
ゴレスケは、シルバーシールドに変化する!
「ノォォォ!」
シルバーシールドによって、闇の刃を受け止める。
「アニキ、行ける!」
「マナバッシュ!」
パコン!
予想外の一撃を受けたファントムは、その場に崩れる。
「ダーリン、今です!」
「協力技だろう?」
「もちろん!」
「チャージ――」
「バレット――」
パパパパーン!
チャージバレットはファントムを包み込む。
「ノォォォォォォ――」
ファントムは絶叫しながら消し飛んだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
悪霊の強さはわかりにくいですが、相当なものです。
ただ、アルトたちも成長しているため、余裕がありました。




