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第53話 ゼノンの暗躍

 辺りは、闇に包まれている。

 木々に囲まれているため、遠くまで見渡せない。

 ただ、陣地は照明によって、昼間みたいに明るくなっている。


「競争相手の失敗を踏まえると、格好の的ですね」


「襲撃フラグを立てるなよ」


「フラグを立ててるんじゃなく、フラグをへし折ってるんです」


「違いは、何だよ?」


「襲撃されるとわかってれば、窮地から逃れられます」


 ポジティブに考えるスラマロ。


「アルト君、ずっと森の中にいるのは危険だよ」


「危険なのはわかっているよ。でも、このまま帰るわけにもいかないだろ」


「あの人たち、ほんとに遅いね」


 心配するエリス。


「あの三人、死んでるんじゃないっすか」


「お前、厳しいな?」


「生きてても、大変な目にあってるっすね」


「皮肉だろ?」


「推測っすよ。何しろ、あそこには悪霊がいるんだから」


 ネガティブに考えるゴレスケ。


「帰ってきませんね」


 心配している裏方とは異なり、事務局員はうんざりしている。


「念のために聞きますが、競争者同士の争いは起きましたか?」


「争いの起きる余地がありませんね」


「なぜ?」


「競争相手がゴーストを引き付けてくれている間に、遺物を持ち帰ったからです」


「ゴースト……? あそこには亡霊がいるのですか!」


 驚いている事務局員とは異なり、裏方は怯えている。


「心配無用ですよ。武器のみならず、地図も持っていましたから」


「地図を持っていた……? どういうことです!」


「俺に聞かれても、わかりませんね。お仲間に聞いてみたら、どうです」


「彼らのことですか? 彼らは、一時的につけられた部下です」


 事務局員はそう説明すると、部下に鋭い視線を向ける。


「素直に事情を話してください。隠し立てすると、ギルドから追放しますよ」


 事務局員の脅しに、


「すいません、実は――」


 部下は屈した。


 不正に関わった連中の説明は、一点を除くと予想した通りだった。

 唯一の例外は、計画の立案者。

 競争相手ではなかったし、裏方でもなかったんだ。


「それなら、誰の発案なのです?」


「仲介者の発案です」


「その仲介者を紹介したのは、誰なのです?」


「ゼノンさんです」


 裏方に紛れ込んだ競争者の付き添いの告白に、


「「「「ゼノン!」」」」


 俺たちは顔を見合わせる。


「そのゼノンとは、SSSランクの冒険者ゼノンのことですか?」


「あの人はうだつの上がらない俺らに、成り上がる方法を教えてくれたんです!」


「まさか、御前試合での八百長を持ちかけられていませんよね?」


「むしろ出場権を確保したら、全力でかかってきてくれと念を押されました!」


 お前らは、騙されているよ。

 それは、美談なんかじゃない。

 あいつの虚栄心の表れだ!


「確実に勝利できる相手を用意しただけですよね?」


「さらに、その相手に恩を売りつけるためだろう」


「親切を装った偽装工作ですね」


「あいつは、本物の悪党だよ」


 俺の感想に、仲間は同意するように頷く。


「黒き閃光のゼノン、ですか」


「黒き閃光?」


「SSSランクの冒険者ゼノンの通り名です」


「その通り名は、有名なんですか?」


「有名ですね。ただ、その分問題も多いですよ」


 事務局員の言葉は皮肉混じりだ。


「短期間のうちにSSSに上り詰められたのは、有り余る自信のためでしょう」


「不正じゃないですよね?」


「強引なところはありますが、不正ではないですね。強いて言うと、豹変です」


「豹変?」


「ある日を境に、黒き閃光と称されるほどの実力を発揮し始めたのです」


 SランクからSSSランクへの成り上がりは、異界のデーモンのおかげだろう。


「あなた方の不正に関しては、ギルドに戻った後に対応します」


「今は?」


「あの三人を探し出すのが先決でしょう」


 事務局員は話を聞き終えると、方針を決定する。


「あの三人を探し出すとして、ギルドからの応援を待つんですか?」


「ギルドからの応援を待つまでもなく、頼れる冒険者がいます」


 エリスの問いに、事務局員は応じる。


「あなたのことですよ、アルトさん」


「よりによって、俺? 冗談は、休み休み言ってくださいよ」


「あなたの主張は、もっともです。それでも、依頼を引き受けてくれませんか?」


 懇願してくる事務局員。


「二人は、どう思う?」


「報酬によりますね」


「態度によるっすね」


「エリスは、どう思う?」


 スラマロとゴレスケに続いて、エリスに話を振る。


「依頼を抜きにしても、あの三人を探し出すべきだと思う」


「助けられる人を見捨てられないから?」


「アルト君には、信賞必罰を心がけて欲しいから」


「今回の場合、見捨てるほど重い罪じゃない、か」


「もっとも、謝罪は必要だね。そうしないと、納得できないでしょ?」


 条件を突きつけるエリス。


「不正に関しては、すみませんでした! アルトさん、力を貸してください!」


 不正に関わった連中が、深々と頭を下げてくる。


「わかった、依頼を引き受ける」


「スター冒険者らしい、バランスの取れた判断です」


 賞賛する事務局員。


「それじゃあ、三人を探し出してくる!」


「みんな、気をつけてね!」


 エリスを始めとした一同に見送られて、俺たちは廃墟に向かった。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 ゲルド、グレアムと来ましたから、もちろんゼノンです。

 今回の黒幕は待望のゼノンですから、ご期待ください。

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