表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/67

第52話 出来レースを覆せ

 ひとしきり喜んだ後、俺たちは冷静になる。


「喜び過ぎだな?」


「最初の一歩ですから!」


「大事な一歩っすから!」


 安全を確保したから、状況の確認だ。


「ゴレスケ、シルバー系の防具なら、ゴーストの攻撃を防げますよ」


「アネキだけじゃなく、オレも活躍できるんすね? さすがアネキ!」


 誇らしげなスラマロと、嬉しそうなゴレスケ。


 スラマロのステータスを確認してみる。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


 名前・スラマロ

 職業・イータースライム

 レベル・10

 攻撃・110(銀鉱石捕食による能力値上昇+20)

 防御・110(銀鉱石捕食による能力値上昇+20)

 敏捷・110(銀鉱石捕食による能力値上昇+20)

 魔力・260(銀鉱石捕食による能力値上昇+20)

 技能・大食い

    武器化(ブロンズ製武器 ゴールド製武器 シルバー製武器)

 耐性・毒耐性

 契約・あり


▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


「三人一組なのは、パーティにプリーストを入れる前提なんだろう」


「神聖属性が必要だなんて、聞かされてないっすよね?」


「競争相手の中にも、プリーストはいなかったな」


「必要事項の記入漏れっすか!」


 よく考えると、胡散臭い状況だ。


「亡霊と戦えるようになったから、先に進もう!」


 ゴーストの襲撃に備えて、俺たちは慎重に歩き出す。


「スラマロ、よく銀鉱石を持っていたな?」


「エリスに、呼ばれたでしょ? 四つ目の馬車を調べてみたんです」


「そうしたら、銀鉱石が見つかった?」


「問題はお守り用の銀鉱石じゃなく、二組の銀製の武具一式です」


「それは――」


「競争相手は用意された銀製の武具を使って、苦労することなく進んでますよ」


 そう、俺たちには渡されるはずのものが、渡されなかったんだ!


「オレたち、罠にはめられたんすか?」


「罠じゃなく、策ですね。相手の想定通りなら、マロたちは逃げ帰ります」


「その間に、競争相手は遺物を手に入れるつもりだったんすね!」


 敵の正体を隠した上、専用の武器を渡さない。

 競争相手を勝たせるためとはいえ、汚いやり口だ。

 仕組んだ連中に、プチざまぁをしてやろうと誓う。


「ここから、本番っぽいな?」


 目指していた建物に着く。

 この中に、遺物があるみたいだ。

 割れた窓から、中に入る。


「予想以上に、中は暗いな? ゴレスケ、光を放つアミュレットになってくれ」


「ライトアミュレットっすね?」


「行くぞ!」


「あーい!」


 息を合せる。


「「『性質変化』!」」


 次の瞬間――


 ライトアミュレットは周囲を照らし出す。


「照明に集中するから、それ以外は二人に任せるっす」


 言葉通り、ゴレスケは無言になる。


「用心して、先に進もう」


 俺は首にライトアミュレットをかけると、通路に沿って歩き出す。


「亡霊に襲われたのは、一度きりだな」


「襲撃は仕組まれたものだと、思ってるんですか?」


「さすがにそれは、考え過ぎだよ。おびき寄せて、袋叩きにする作戦か?」


「下級の亡霊に、そんな知能はないですよ。あるのは、防衛本能です」


 会話の間も、奥に進んでいる。


「アニキ、人がいる!」


「ゴレスケ、光を抑えてくれ」


 俺の指示に伴い、闇に包まれる。


「ダーリン、競争相手ですよ!」


 明かりに照らされているのは、見覚えのある三人。

 役割を分担しているらしく、それぞれの装備は異なっている。

 リーダーは、印のついた紙切れを持っている。


「銀製の武器だけじゃなく、地図も持っているぞ」


「その上、後から来たのに追い越されてますよね?」


「近道まで教えてもらったのか」


 要するに――


 今回の依頼は、出来レースなんだ!


「そう言えば、競争相手に付き添いはいなかったな?」


「たぶん、依頼を取り仕切る連中の中に紛れ込んでますね」


 あの時の競争相手は、ノンビリしていたわけじゃない。

 俺たちが立ち去るのを待っていたんだ。

 紛れ込んだ仲間から、武器と地図を手に入れるために。


「様子を確かめるために、もう少し近づいてみよう」


 俺たちを出し抜いて、さぞかしご満悦だろう。

 その予想は、見事に外れた。

 競争相手は、ビクビクしている。


「何でこんなに、敵に襲われるんだよ……」


「競争相手が逃げ帰ったから、こっちに集まってきてるのか?」


「文句を言ってる暇があるなら、敵を追い払え!」


 競争相手は文句を言いながら、ゴーストとの戦いに突入する。


「あいつら、何度も襲われているのか?」


「装飾品ジャラジャラのせいでしょ」


「銀製品なら、亡霊に対抗できるのに?」


「だからこそ、目立つんです。はっきり言って、間抜けですね」


「獣を避けるために焚き火をして、むしろ獣を引き寄せているみたいなものか!」


 接近に気づかれないように、慎重に進む。

 競争相手も俺たちと同じく、真ん中の部屋を目指しているんだろう。

 異なるのは俺たちは左の通路を、競争相手は右の通路を進んでいることだ。


「邪魔が入らないうちに、遺物を回収しよう」


 ゴーストに苦戦している競争相手を尻目に、真ん中の部屋に入る。


 大部屋の奥には、机。

 その上には、金色の置物。

 あれが、目当ての遺物だろう。


「思ったより、簡単――」


 言葉を呑む。


 窓に黒い影が映ったために!


「俺も、臆病だな!」


 自分の臆病さを笑い飛ばすと、金のロザリオを手に取る。


 その瞬間――


 周囲の空気が、一変する。

 乾いたものから、湿ったものへ。

 スラマロとゴレスケも気づいたらしく、息を呑んでいる。


「ダーリン?」


「アニキ?」


「できる限り、立ち止まらずに帰ろう!」


 そう決めると、競争相手のこともゴーストのことも忘れて、外を目指す。


「「「ふぅ」」」


 俺たちは建物の外に出ると、安堵の吐息をつく。


「嫌な気配を感じたけど、正体は何だろう?」


「悪霊ですね」


「悪霊?」


「亡霊よりも強く、危ない存在です」


「上位の魔物かよ!」


 立ち去り際に振り向くと、建物の中に黒い影が見えた。


「さすがに町までは、追ってこないよな?」


「追ってきたら、袋叩きにされますよ」


 辺りは薄暗いものの、気分は軽くなっている。

 依頼を達成したこともあるけど、黒い影から逃れたためだ。

 晴れ晴れとした気分のまま陣地に帰る。


「アルト君、依頼を達成したんだね!」


「エリス、君のおかげだよ!」


「えへへへ」


 照れ笑いを浮かべるエリス。


「嘘だろ……」


 一方、事務局員以外の関係者は、呆然と立ち尽くしている。


「どうしたんです、怪訝な顔をして?」


「いや、何でも……」


「目的の遺物を見つけたから、責任者を呼んでください」


「いや、それは……」


「ははぁ、俺が負けるほうに賭けていたんですね!」


 俺の嫌味に、関係者は気まずそうにしている。


 うん、いい気味だ!


「早いですね?」


 騒ぎに気づいたらしく、事務局員は馬車から出てくる。


「これが、目的の遺物でしょう?」


 金のロザリオを差し出すと、


「これです!」


 事務局員は喜びをあらわにする。


「依頼は、達成ですね。おめでとうございます、アルトさん!」


 不正とは無縁らしく、事務局員は祝福してくれる。


「「「「依頼達成!」」」」


 俺たちは喜びを分かち合った。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 アルトは仲間の助けを借りて、出来レースを覆しました。

 ただ、このまますんなりとは終わらないようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ