第52話 出来レースを覆せ
ひとしきり喜んだ後、俺たちは冷静になる。
「喜び過ぎだな?」
「最初の一歩ですから!」
「大事な一歩っすから!」
安全を確保したから、状況の確認だ。
「ゴレスケ、シルバー系の防具なら、ゴーストの攻撃を防げますよ」
「アネキだけじゃなく、オレも活躍できるんすね? さすがアネキ!」
誇らしげなスラマロと、嬉しそうなゴレスケ。
スラマロのステータスを確認してみる。
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名前・スラマロ
職業・イータースライム
レベル・10
攻撃・110(銀鉱石捕食による能力値上昇+20)
防御・110(銀鉱石捕食による能力値上昇+20)
敏捷・110(銀鉱石捕食による能力値上昇+20)
魔力・260(銀鉱石捕食による能力値上昇+20)
技能・大食い
武器化(ブロンズ製武器 ゴールド製武器 シルバー製武器)
耐性・毒耐性
契約・あり
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「三人一組なのは、パーティにプリーストを入れる前提なんだろう」
「神聖属性が必要だなんて、聞かされてないっすよね?」
「競争相手の中にも、プリーストはいなかったな」
「必要事項の記入漏れっすか!」
よく考えると、胡散臭い状況だ。
「亡霊と戦えるようになったから、先に進もう!」
ゴーストの襲撃に備えて、俺たちは慎重に歩き出す。
「スラマロ、よく銀鉱石を持っていたな?」
「エリスに、呼ばれたでしょ? 四つ目の馬車を調べてみたんです」
「そうしたら、銀鉱石が見つかった?」
「問題はお守り用の銀鉱石じゃなく、二組の銀製の武具一式です」
「それは――」
「競争相手は用意された銀製の武具を使って、苦労することなく進んでますよ」
そう、俺たちには渡されるはずのものが、渡されなかったんだ!
「オレたち、罠にはめられたんすか?」
「罠じゃなく、策ですね。相手の想定通りなら、マロたちは逃げ帰ります」
「その間に、競争相手は遺物を手に入れるつもりだったんすね!」
敵の正体を隠した上、専用の武器を渡さない。
競争相手を勝たせるためとはいえ、汚いやり口だ。
仕組んだ連中に、プチざまぁをしてやろうと誓う。
「ここから、本番っぽいな?」
目指していた建物に着く。
この中に、遺物があるみたいだ。
割れた窓から、中に入る。
「予想以上に、中は暗いな? ゴレスケ、光を放つアミュレットになってくれ」
「ライトアミュレットっすね?」
「行くぞ!」
「あーい!」
息を合せる。
「「『性質変化』!」」
次の瞬間――
ライトアミュレットは周囲を照らし出す。
「照明に集中するから、それ以外は二人に任せるっす」
言葉通り、ゴレスケは無言になる。
「用心して、先に進もう」
俺は首にライトアミュレットをかけると、通路に沿って歩き出す。
「亡霊に襲われたのは、一度きりだな」
「襲撃は仕組まれたものだと、思ってるんですか?」
「さすがにそれは、考え過ぎだよ。おびき寄せて、袋叩きにする作戦か?」
「下級の亡霊に、そんな知能はないですよ。あるのは、防衛本能です」
会話の間も、奥に進んでいる。
「アニキ、人がいる!」
「ゴレスケ、光を抑えてくれ」
俺の指示に伴い、闇に包まれる。
「ダーリン、競争相手ですよ!」
明かりに照らされているのは、見覚えのある三人。
役割を分担しているらしく、それぞれの装備は異なっている。
リーダーは、印のついた紙切れを持っている。
「銀製の武器だけじゃなく、地図も持っているぞ」
「その上、後から来たのに追い越されてますよね?」
「近道まで教えてもらったのか」
要するに――
今回の依頼は、出来レースなんだ!
「そう言えば、競争相手に付き添いはいなかったな?」
「たぶん、依頼を取り仕切る連中の中に紛れ込んでますね」
あの時の競争相手は、ノンビリしていたわけじゃない。
俺たちが立ち去るのを待っていたんだ。
紛れ込んだ仲間から、武器と地図を手に入れるために。
「様子を確かめるために、もう少し近づいてみよう」
俺たちを出し抜いて、さぞかしご満悦だろう。
その予想は、見事に外れた。
競争相手は、ビクビクしている。
「何でこんなに、敵に襲われるんだよ……」
「競争相手が逃げ帰ったから、こっちに集まってきてるのか?」
「文句を言ってる暇があるなら、敵を追い払え!」
競争相手は文句を言いながら、ゴーストとの戦いに突入する。
「あいつら、何度も襲われているのか?」
「装飾品ジャラジャラのせいでしょ」
「銀製品なら、亡霊に対抗できるのに?」
「だからこそ、目立つんです。はっきり言って、間抜けですね」
「獣を避けるために焚き火をして、むしろ獣を引き寄せているみたいなものか!」
接近に気づかれないように、慎重に進む。
競争相手も俺たちと同じく、真ん中の部屋を目指しているんだろう。
異なるのは俺たちは左の通路を、競争相手は右の通路を進んでいることだ。
「邪魔が入らないうちに、遺物を回収しよう」
ゴーストに苦戦している競争相手を尻目に、真ん中の部屋に入る。
大部屋の奥には、机。
その上には、金色の置物。
あれが、目当ての遺物だろう。
「思ったより、簡単――」
言葉を呑む。
窓に黒い影が映ったために!
「俺も、臆病だな!」
自分の臆病さを笑い飛ばすと、金のロザリオを手に取る。
その瞬間――
周囲の空気が、一変する。
乾いたものから、湿ったものへ。
スラマロとゴレスケも気づいたらしく、息を呑んでいる。
「ダーリン?」
「アニキ?」
「できる限り、立ち止まらずに帰ろう!」
そう決めると、競争相手のこともゴーストのことも忘れて、外を目指す。
「「「ふぅ」」」
俺たちは建物の外に出ると、安堵の吐息をつく。
「嫌な気配を感じたけど、正体は何だろう?」
「悪霊ですね」
「悪霊?」
「亡霊よりも強く、危ない存在です」
「上位の魔物かよ!」
立ち去り際に振り向くと、建物の中に黒い影が見えた。
「さすがに町までは、追ってこないよな?」
「追ってきたら、袋叩きにされますよ」
辺りは薄暗いものの、気分は軽くなっている。
依頼を達成したこともあるけど、黒い影から逃れたためだ。
晴れ晴れとした気分のまま陣地に帰る。
「アルト君、依頼を達成したんだね!」
「エリス、君のおかげだよ!」
「えへへへ」
照れ笑いを浮かべるエリス。
「嘘だろ……」
一方、事務局員以外の関係者は、呆然と立ち尽くしている。
「どうしたんです、怪訝な顔をして?」
「いや、何でも……」
「目的の遺物を見つけたから、責任者を呼んでください」
「いや、それは……」
「ははぁ、俺が負けるほうに賭けていたんですね!」
俺の嫌味に、関係者は気まずそうにしている。
うん、いい気味だ!
「早いですね?」
騒ぎに気づいたらしく、事務局員は馬車から出てくる。
「これが、目的の遺物でしょう?」
金のロザリオを差し出すと、
「これです!」
事務局員は喜びをあらわにする。
「依頼は、達成ですね。おめでとうございます、アルトさん!」
不正とは無縁らしく、事務局員は祝福してくれる。
「「「「依頼達成!」」」」
俺たちは喜びを分かち合った。
お読みいただき、ありがとうございます。
アルトは仲間の助けを借りて、出来レースを覆しました。
ただ、このまますんなりとは終わらないようです。




