第51話 遺物争奪戦
「ここは――」
森の中。
遠くに廃墟が見える。
雰囲気は、よくも悪くも満点だ。
「馬車は、四台あるな?」
三台は、それぞれが乗ってきたもの。
最後の一台は、用途不明なもの。
前者は人が乗るタイプなのに対して、後者は荷物を載せるタイプだ。
「意味深だねぇ」
首を傾げるエリス。
「スラゴレギルドの皆様ですね、お待ちしておりました」
丁寧に挨拶したのは、物腰の柔らかい男。
「私は、今回の依頼の責任者です。立場は、ギルド連盟の事務局員です」
「ギルド連盟?」
俺の問いに応じたのは、エリス。
「ギルドの大本だよ」
「個々のギルドの、まとめ役みたいなもの?」
「そう、役に立つ組織だから、覚えておくといいよ」
主張するエリス。
「その可愛いお嬢さんの言う通り、この機会に覚えて帰ってください」
「あなたが、今回の依頼を取り仕切るんですか?」
「私は、裏方です。実際に取り仕切るのは、彼らです」
事務局員が紹介したのは、特徴のない男たち。
「今回、あなた方と競っていただくのは、この方々です」
「どうも」
挨拶したのは、三人の男。
特徴としては、人柄のよさが挙げられる。
向かって左から、順に名乗る。
「俺たちは――」
俺たちも順に名乗る。
こちらとは違い、あちらに付き添いは見当たらない。
「スラマロちゃん!」
「何ですか、エリス?」
周囲を散策していたエリスは、スラマロを手招きする。
「実は――」
「なるほど」
エリスは、スラマロに耳打ちしている。
たぶん、俺たち以外に聞かれたくない話だ。
スラマロに伝えているのは、一番頼りになるからだろう。
「依頼について、説明しましょう。もっとも、伝えることは少ないです」
事務局員によると――
依頼の舞台は、廃墟。
そこに置き去りにされた、古代の遺物を回収する。
先に回収したほうが、勝者になる。
「遺物は、置き去りになったままのものなんでしょう?」
「今回のために、私たちが置いたわけではないですよ」
「おおよその場所は、わかりますか?」
「廃墟の中心ですね。前に調査した際、回収し損なったのです」
説明する事務局員。
「問題の遺物は、ロザリオです」
「単なるロザリオですか?」
「歴史的な価値のあるものですが、見た目の話でしょう? 純金製です」
「それなら、わかりやすいですね」
俺に限らず、競争者も頷く。
「無理そうなら、戻ってきてください。二組とも戻ってきたら、やり直します」
「そのやり直しは、今度ですよね?」
「むろん、今度です。ただその場合、自分たちは呼ばれないと思ってください」
「失敗したら、干されるぐらいの覚悟はありますよ」
俺の返答に、事務局員は満足そうに頷く。
「ダーリン、戻りました」
説明の終了に前後して、スラマロは戻ってくる。
「何の用だった?」
「乙女の秘密スラ」
ごまかすスラマロ。
「私からの説明は、以上です。皆さん、がんばってください!」
その言葉を最後に、事務局員は乗ってきた馬車に引っ込んだ。
「行くぞ!」
「ほーい!」
「あーい!」
俺は両肩にスラマロとゴレスケを乗せると、廃墟に向かって走り出した。
「先手必勝だな!」
先を急ぐ俺たちとは違い、競争相手はノンビリしている。
「舐められているな」
「本当に舐めてるんですかね?」
「別の理由があると、言いたいのか?」
「その可能性も、視野に入れておいたほうがいいですよ」
意味深なスラマロ。
「そんなことよりも、どこから調べるんすか?」
「遺物のある中心に向かって、調べるに決まっているだろ」
「問題は、その方法っすよ」
ゴレスケの主張は、もっとも。
向かう先は、元は修道院だったんだろう。
村ほど大きくないし教会ほど小さくないから、依頼の舞台としては最適だ。
問題は危険を覚悟して中を突っ切るか、安全を考慮して遠回りするか。
「二人は、どう思う?」
「マロは、後者ですね。理由は、先行きが不透明だからです」
「オレは、前者っすね。理由は、天気が不安定だからっす」
「よし、両方の意見を取り入れよう。中を進んで、危険なら回り込む」
我ながら、ナイス判断!
「何も考えてませんよね?」
「適当に決めたんすよね?」
「深謀遠慮だよ!」
仲間の冷たい視線をよそに、俺は廃墟に向かう。
「どうして、廃墟になったんだろう?」
「ここが荒れ果てた理由よりも、遺物を回収し損なった理由が気になりますね」
「冒険者を必要とするぐらいだから、魔物に襲われたんだろ」
廃墟に入ると、荒れ果てた道を進む。
「そうだとしたら、その魔物は強敵ですよ」
「遺物の回収よりも、生存を優先したから?」
「それもありますけど、今回の依頼の報酬は破格ですから」
スラマロの言葉は、不吉に聞こえる。
「何か来るっす!」
ゴレスケの指し示した先には――
宙に浮いた、白っぽい影。
「ゴーストですね」
「実体のない魔物だろ?」
「その通りです。問題は――」
「来るぞ!」
話を打ち切って、戦いに入る。
襲撃に備えていたため、スラマロは武器に変化している。
俺は、ブロンズソードを構える。
「マナスラッシュ!」
スカッ!
予想に反して、手ごたえはない。
事実、刃はゴーストの体を素通りしている。
当たっていないんじゃなく、効いていないのか?
「どういうことだよ!」
「ダーリン、相手は亡霊なんだから、普通の攻撃は効きませんよ」
「どうして、先に言ってくれなかったんだ?」
「言おうとしたら、話を打ち切ったでしょ」
「それは……」
俺は言葉に詰まる。
「ゴーストを始めとした亡霊は、厄介ですよ」
「どう厄介なんだ?」
「一部の攻撃を除くと、追い払えても消し去れないんです」
「光属性は、効かないのか?」
「残念ながら、効きませんね。確実に効くのは、神聖属性です」
襲い掛かってくるゴーストをやり過ごしながら、打開策を探る。
「ゴレスケ、神聖属性を扱えるか?」
「神聖属性に関する経験が不足してるから、扱えないっす」
「スラマロにたとえると、特定の鉱物を食べないといけないのか!」
牽制のためにブロンズソードを振り回しながら、ゴーストから距離を取る。
経験の不足。
こればっかりは、どうしようもない。
一度、陣地に戻るべきだろうか?
「ふふふふふふ」
「スラマロ?」
「アネキ?」
いきなり笑い出したスラマロに、俺とゴレスケはビックリする。
「ここは、マロの出番ですね? 銀鉱石、いただきまーす!」
スラマロは、どこかから取り出した銀色の石を丸呑みする。
パクリ!
「ふおおおおおお!」
叫び声に続いて、スラマロの色と形が一時的に変わる。
色は、水色から金色へ。
形は、丸から三角へ。
今回は、さすがにまずいか?
「シルバー・スラマロ・チャリオッツ!」
スラマロは、レイピアを持った剣士みたいなポーズを取っている。
「ダーリン、シルバー系の武器なら、ゴーストを消し去れますよ」
「神聖属性を付加しなくても?」
「銀に亡霊に対抗する力が備わってるんです!」
胸を張るスラマロ。
「行くぞ!」
「ほーい!」
息を合せる。
「「『性質変化』!」」
次の瞬間――
スラマロは、シルバーソードに変化する!
「――――」
ゴーストは、声なき声を上げながら襲い掛かってくる!
「マナスラッシュ!」
ザシュ!
ゴーストを消し去る。
「「「やったー!」」」
俺たちは亡霊を倒しただけなのに、竜を倒したみたいに喜んだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
御前試合への参加資格を賭けた、遺物争奪戦の開幕です。
裏ありみたいですから、前哨戦とはいえ目を離さないでください。




