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第50話 グレアムの罪と罰

 翌日の早朝。

 終日休業の看板が出されたギルドの前に、俺たちは集まっている。

 これからクエストが始まるというのに、俺以外はなぜかグッタリしている。


「マロ、ペコペコ……」


「オレ、ネムネム……」


「あたし、クタクタ……」


「みんな、だらしないぞ?」


 俺は笑う。


「食事抜きは、ダーリンのせいなんですけど!」


「寝不足は、アニキのせいなんすけど!」


「残業は、アルト君のせいなんだけど!」


「俺のせいじゃないだろ?」


 俺の抗議に対して、三人は機嫌を損ねる。


「朝食は、屋台で買おう。寝不足は、馬車で寝よう。残業は、手伝うよ」


 俺の譲歩を受けて、三人は機嫌を直す。


「今回は、エリスも同行するのか?」


「もちろん、同行するよ」


「もちろん?」


「付き添いを一人用意すること。それが、条件の一つなの」


「それじゃあ、向かおうぜ」


 馬車の発着場所に向かう。

 待っていたのは、乗合馬車じゃない。

 ギルドの用意した、専用の馬車だ。


「「「「VIP待遇!」」」」


 無邪気に喜ぶ俺たち。


「皆さん、出発します!」


 俺たちが乗り込むのに合わせて、馬車は出発する。 

 エリスも知らない目的地に向かって。

 無事に出発したため、安心して食事を取る。


「うまうま」


「ウマウマ」


「馬馬」


「馬馬って、何だよ?」


 俺のツッコミをよそに、移動も食事も快適だ。


「馬と言えば、ウマ娘はいつ出走ですかねぇ」


「それは、触れちゃいけないネタだろ!」


「スラ娘なら、マロの参戦は確定ですよぉ」


「他に、どんなやつがいるんだよ?」


 食事を済ませると、それぞれの時間を過ごす。


 スラマロは食い足りないらしく、お菓子に手を伸ばしている。

 ゴレスケは満腹になって眠くなったらしく、クゥクゥと眠っている。

 エリスは残った仕事を片付けるため、書類を取り出している。


「そう言えば、特別枠は文字通り特別なんだろ」


「本来は、上級騎士や上位冒険者が選ばれるね」


「よくねじ込めたな?」


「参加枠じゃなく、参加資格枠だよ」


「本当に大丈夫なのか?」


 不正に関わっているんじゃないのかと、俺は勘ぐる。


「日程もそうだけど、条件も怪しいだろ。裏ありなんじゃないのか?」


「参加資格枠でもねじ込めたのは、アルト君だからだよ」


「俺のおかげ?」


「偉業を達成したでしょ? その褒賞だよ」


「なるほど、そういうことか!」


 俺は完全に納得したため、エリスの仕事を手伝う。


「そう言えば、グレアムの処遇が決まったね」


「興味はあるけど、マスターに聞かないといけないよな?」


「大丈夫だよ、あたしが知ってるから」


「自分も関わった問題だから、興味を示したの?」


「アルト君が興味を示すと思ったから、マスターに聞いておいたの」


「さすがエリス、気が利く!」


 俺の賞賛に、エリスは微笑む。


「グレアムはゲルドと同じく、ソドム行きの特級犯罪者だね」


「だから、教会から破門されたのか?」」


「罪が罪だから、普通に破門されるよ」


「そりゃそうか、教会にとって一番好ましくない罪だし」


「ただ、今回の決定を一番支持したのは教会らしいよ」


「臭いものには蓋をしろ、か」


 それにしても、どうしてグレアムは少女に固執したんだろう?


「同類?」


「将来?」


「お前ら……」


 仲間の軽口に、がっかりする。


「グレアムは、子供のころに同級生を事故で亡くしてるね」


「わざわざ持ち出すんだから、事件と関係があるんだろ?」


「その事故をきっかけにして、グレアムは聖職者になったんだよ」


「その亡くなった同級生は、女の子?」


「もちろん、女の子」


「初恋、か」


 初恋の同級生の事故死。

 それが、事件の根っこなのは間違いない。

 エリスも同感らしく、浮かない様子だ。


「もしかして、グレアムにさらわれたのは、初恋の同級生と同じ年頃の少女?」


「アルト君、鋭いね? その通りだよ」


「ただ、ナンナが狙われた理由は不明だな」


「ナンナには内緒だよ? 実は、亡くなった女の子とナンナは似てるらしいの」


 エリスの言葉に、心当たりがあった。

 グレアムの執務室に飾られていた肖像画だ。

 見覚えがあるように感じたのは、ナンナに似ていたからだろう。


「見た目だけじゃなく、性格も似てるらしいよ」


「生まれ変わりとでも思ったのか?」


「初恋の女の子に似た相手を襲うなんて、どういうつもりなんだろうね!」


 エリスじゃないけど、どういうつもりだろう?

 本当に生まれ変わりとでも思ったのか。

 いずれにしても、グレアムには一切共感できなかった。


「同族嫌悪ですね」


「身内批判っすね」


「お前ら……」


 仲間の冗談に、ゲンナリする。


「アルト君、今の心境は?」


「虚しいね」


「虚しい?」


「初恋の女の子に固執したから、グレアムは問題を起こしたんだろ」


「固執を通り越して、妄執になってるよ」


「決して得られないのに、求め続けるのは虚しいよ」


 グレアムの中では、亡くなった女の子は神格化されているのかもしれない。


「それよりも、あいつは自由になって何がしたかったんだろう?」


「旅に出たかったみたい」


「何の旅だよ?」


「自分を見つめ直す旅だって」


「都合のいい旅だな!」


「でも、旅って恥をかきすてるから、どれも都合がいいものだよね?」


 エリスの言葉は、皮肉そのもの。


 いずれにしても、ナンナには教えられない話だ。

 もっとも、ナンナからしたら聞きたくもないだろう。

 未来を夢見るナンナと過去に縛られたグレアムと、まったく正反対なのだから。


「気持ちのいい風」


「ダーリン、ラッキースケベ期待ですね?」


「俺は、そんなにエロくないぞ!」


 目的地を隠すつもりはないらしく、窓は開け放たれている。

 そのため、景色を楽しみながら向かう。

 街道を通りながら少しずつ離れて、旧街道に入る。


「綺麗な景色」


「アニキ、ドッキリハプニング希望っすね?」


「俺は、そんなに間抜けじゃないぞ!」


 いつの間にか、景色は変わっていた。

 薄い緑から、深い緑へ。

 気づいた時には、馬車は止まっていた。


「目的地に到着しました。皆さん、降りてください」


 御者の言葉に従い、俺たちは馬車を降りた。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 前回の事件の顛末が語られました。

 グレアムも、生かさず殺さず一生監獄暮らしでしょうか。

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