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第5話 のじゃ姫様

「山中にある古代遺跡を探索中の、とある勇者パーティが壊滅したらしいよ」


「本当ですか!」


 異変に遭遇した俺たちは、山崩れに巻き込まれないように走って逃げた。

 安全のために遠回りして町に着くと、興奮した商人の一行と出くわした。

 その一人に何事かと尋ねると、勇者パーティの壊滅を知らされたんだ。 


「本当さ。その余波によって、古代遺跡は完全に崩壊してるよ」


「遺跡の跡地には、入れないんですか?」


「やめておきなさい。兵士による調査中だから、面倒ごとに巻き込まれるよ」


「遺跡に興味があったんですけど、駄目ですね」


 商人の説得に、俺は調査を断念する。


「兵士の話によると、身元不明の死体が三体見つかってるよ」


「身元不明?」


「遺跡の崩壊に巻き込まれたらしく、死体の損傷が激しくて確認は無理なんだよ」


「身元を特定できるような所持品は、見つかっていないんですか?」


「そっちも損傷が激しいんだよ。顔さえ潰れていなければ、可能性はあったのに」


 死体の顔が潰れていることが、身元の特定を阻む一番の理由みたいだ。


「そう言えば、勇者パーティを追放された四人目が、宝を持ち逃げしたらしいよ」


「……本当ですか?」


「そう噂されてるだけさ。実際は生き残りはいないし、宝もないよ」


 商人の反応に安心していると、


「聞きたいことがあるんだけどぉ――」


 会話に割って入ってきたのは、軽薄そうな若い男だ。


「君、勇者パーティに興味あるのぉ?」


「ありません」


「その割には、興味津々だったよねぇ?」


「興味があったのは勇者パーティじゃなく、古代遺跡です」


「ほんとぉ?」


「本当です」


 何度も否定しているのに、相手の追求は終わらない。


「君、壊滅した勇者パーティと関係があるんじゃないのぉ?」


「ない、と彼は言ってるだろ。それとも、証拠があるのかね?」


「証拠ねぇ……今はやめておく」


 商人の制止に、軽薄そうな若い男は立ち去る。


「今の男……ドルフには注意が必要だよ」


「執念深いんですか?」


「それもあるけど、悪い噂の絶えないタカリ屋なんだよ」


「そんなやつが、どうして俺に絡んできたんだろう?」


「君が例の生き残りだと勘違いして、あるはずのない宝を狙ってるんだろう」


 商人の忠告に、俺は黙り込む。


「それじゃあ、私は先を急ぐから、失礼するよ」


「いろいろありがとうございます」


 人のいい商人を見送ると、木陰に入る。

 すると背負った袋の中から、隠れていたスラマロが出てくる。

 窮屈だったらしく、不満を隠そうともしない。


「袋の中は狭いから、やってられませんよぉ」


「ごめん、ごめん、お詫びに商人から貰った果物を上げるよ」


「そんなもので懐柔できると思ってるんですかぁ……うまうま!」


 即オチするスラマロ。


「ダーリン、浮かない顔してますよ?」


「目標の一つが消えただろ」


「壊滅した勇者パーティは、ゼノンたちなんですか?」


「状況的には、ゼノンたちだ」


 ほっとしたような、がっかりしたような複雑な心境だ。

 本音を明かすと、自分の手でやり返したかった。

 それも、スカッとするざまぁを!


「手を下さなくても、ざまぁですよね」


「前向きに考えろ?」


「生まれ変わったようなものなんですから、気楽に行きましょ」


「言われてみると、その通りだな」


 自滅という点は引っ掛かるものの、気分は悪くなかった。


「引っ掛かる点があるとしたら、死体の顔が潰れてたことですね」


「遺跡の崩壊に巻き込まれたんだろ」


「死体そのものは、潰れてないんですよ。潰れてるのは、顔だけなんですよ」


「偽装工作だと言いたいのか?」


「抜け目のない連中なんでしょ? その可能性も、視野に入れておきましょう」


 追跡を逃れるための、偽装工作の可能性――


「三人の悪党、生きているとしたら、再会を楽しみにしていろよ!」


「ダーリン、その調子!」


 元気を取り戻した俺に、スラマロの表情は和らぐ。


「それよりも、お宝を盗むなんて追放されて当然ですよ」


「盗んでねえよ!」


「マロのハートを盗みましたよね?」


「うまくまとめるなよ!」


 実際のところ、お宝はスラマロとの出会いだろう。


「問題は追放された一人が、お宝を持ち去ったという噂です」


「前者はともかく、後者は存在しないだろ」


「タカリ屋が接触してきたことですし、用心しましょ」


 スラマロの懸念は、もっとも。


「町に着いたけど、どうしよう?」


 町に着いたものの、中に入るのをためらっている。


「ダーリン、実は犯罪者?」


「問題は俺じゃなく、お前だよ」


「マロ?」


「俺は冒険者じゃないから、魔物を連れて歩けないんだ……」


 冒険者の特権はいくつかあるけど、その一つが魔物との共存だ。

 冒険のパーティを組めるし、共同生活を送れる。

 テイマーともなれば、家族になれる。


「まさか、お別れですか?」


「それこそ、まさか。また袋の中に隠れればいいよ」


「また袋の中は嫌ですねぇ……変装します!」


 こういう展開になるのがわかっていたから、ためらっていたんだ。


「魔法やスキルを使わない変装なんて、すぐにバレるぞ?」


「ダーリン、マロに『性質変化』を使ってください!」


「わかった、『性質変化』!」


「へーんしん!」


「スラ子になるつもりかよ? 何も変わらないじゃないか……うおっ!」


 ビックリする。


 なぜなら、そこにいるのは――


 人間化、さらに言うと、絶世の美女化したスラマロ!


「スラリーヌ!」


「スライム娘かよ!」


「ハイエルフ娘スラ」


「スラついているぞ?」


 スラリーヌは、セクシーなポーズを取っている。


「ワラワこそ、真のヒロインなのじゃ」


「見た目どころか、中身が変わっていないか!」


「仲間内は、あっちなのじゃ。よそ行きは、こっちなのじゃ」


「のじゃスライムかよ?」


「のじゃ姫スライムなのじゃ」


 微笑するスラリーヌ。


「自称姫かよ?」


「本物の姫じゃ! ファーストキスを奪ったくせに、失礼なのじゃ」


「奪ったのは、お前のほうだろ」


「スライム女子を甘く見ないで欲しいのじゃ」


「スライム女子って、何だよ?」


 苦笑する俺。


「それより、どうなのじゃ?」


「行けるぞ!」


「ダーリンのエッチ!」


「そっちじゃねえよ……」


 くすくす笑うスラリーヌ。


「魔法少女は、この前振りかよ?」


「そう思わせて、ダーリンの女体化の前振りなのじゃ」


「冗談にならないから、フラグを立てるのをやめろ!」


「それより、食事じゃ。ワラワは、お腹ペッコペッコなのじゃ!」


 町に入ると、食堂を目指す。


 その途中、いくつもの視線を感じる。

 興味を引いているのは、もちろんスラリーヌ。

 魔物だとバレたのかと焦ったら、違った。


「いい女!」


「すげぇ綺麗!」


「美人過ぎるだろ!」


 通行人は、スラリーヌの美貌を褒め称えている。


「ダーリン、嬉しそうなのじゃ」


「嬉しくねえよ! 所詮、スラマロの変化形態だろ」


「理性は、揺らぐのじゃ」


「シャレにならないから、フラグを立てないでくれ……」


 徐々に、目的地が近づいてくる。


「酒場……ダーリン、酒好き?」


「酒場とギルドを兼用しているんだよ」


「しょぼいのじゃ!」


 スラリーヌの感想は、もっとも。


「弱小ギルドなんだよ」


「だから、万年志願者にも優しいのじゃな?」


「鋭い指摘、やめろ!」


 軽口を叩いている間に、目的地に着く。


「入ろう」


「ほーい」


 宴会代わりの食事を済ませたら、今日はゆっくりしてもいいかもしれない。

 そう思ったものの、うまくいかなかった。

 運命の変化は、続いているらしい。


「えっ、えぇっ!」


 慌てふためく。


 駆け寄ってきた少女に、抱きつかれて!

 お読みいただき、ありがとうございます。

 お知らせ以外では、後書きでは裏話を書きます。

 興味のない方は、お手数ですが読み飛ばしてください。

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[良い点] 会話の高速キャッチボールが健在で楽しい
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