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第49話 御前試合への参加資格を掴み取れ

 表彰式を終えた俺たちは、ゆっくりしている。

 俺とエリスは椅子に腰掛けて、お茶を飲んでいる。

 スラマロとゴレスケはソファーに寝そべって、お菓子を食べている。


「みんなの活躍によって、ウチのギルドも盛り上がってるね!」


 エリスの感想は、もっとも。


 昼からの営業開始に伴い、建物にはたくさんの人が出入りしている。

 二度の事件解決によって、ウチのギルドは注目を浴びているんだ。

 もちろん、食堂代わりのスペースも活気を帯びている。


「最近、料理の量が減りましたね……」


「最近、食事を待たされるっすね……」


 愚痴るスラマロとゴレスケ。


 注目に伴い、ギルドに届く依頼は順調に増えている。

 ただ、最近は怪しい依頼も少なくない。

 その中には足を引っ張ろうとする、同業者の罠も含まれているみたいだ。


「エリスは手伝わなくても、大丈夫なのか?」


「大丈夫、マスターの知人が手伝ってくれてるから」


「こんなに混んでいると、もう一人ぐらい雇わないと成り立たないな?」


「マスターも探してるみたいだけど、難しいみたい」


「そんなにウチは嫌がられてるのか?」


「むしろ、逆。志願者が多過ぎて、絞り込めないんだよ」


 贅沢な悩みだね、と関係者の一人であるエリスは笑う。


「マスターの話によると、国王陛下も興味を示してるらしいよ」


「俺に?」


「ギルドに」


「そりゃ、そうか」


「でも、アルト君の活躍は、国王陛下の耳に入ってると思うよ」


 話半分に聞いておくとしても、先日までとは雲泥の差だ。

 天にも昇る気持ちとは、今のような心境なんだろう。

 実際、俺はウキウキしているんだ!


「ダーリン、こういう時ほど謙虚に行きましょ?」


「アニキ、ツイてる時ほど慎重を心がけましょ?」


「ワクワクするのはいいけど、ウキウキするのはまずいな!」


 仲間の指摘に、我に返る。


「エリス、俺は御前試合に参加するよ!」


「……アルト君、いつ参加資格を得たの?」


「参加資格なんて、あるのかよ?」


「もちろん、あるよ。何しろ、御前試合だし」


 エリスはため息をつく。


「今更かもしれないけど、説明する?」


「おさらいしたいから、頼む」


「御前試合とは、国王陛下の前で行われる決闘形式の試合だよ」


「基本は一対一だけど、複数対複数もあるんだろ?」


「ごく稀に、一対複数もあるね」


 見物人の好みによって変わる、試合という名のお祭りなんだろう。


「御前試合には、一般枠と特別枠の二つの参加資格があるの」


「それぞれ、どういうものなんだ?」


「前者は公募、後者は推薦。もっとも、どっちも紹介状が必要だね」


「紹介状がないから、俺は無理なのか?」


「アルト君が参加するとしたら一般枠なんだけど、すでに締め切られてるの」


「嘘だと言ってよ、エリスゥゥゥゥゥゥ――」


 予想外の事態に、俺は呆然とする。


「覚醒テイマーの成り上がりは?」


「ミカンですね!」


「男坂っすね!」


 ボケるスラマロとゴレスケ。


「タイミングが悪かったね」


「他の方法は? たとえば、乱入とか」


「アルト君、国王陛下の御前だよ? 処刑されちゃうから、やめて!」


「冗談だよ、冗談」


「アルト君が言うと、冗談に聞こえないよ!」


「……ごめんなさい」


 本気で心配するエリスに、俺は反省する。


「ダーリン、現実的な方法を考えましょ?」


「アニキ、実行可能な手段を探りましょ?」


「引き締めたつもりだったけど、浮き足立っていたな!」


 仲間の助言に、平常心を取り戻す。


「国王に、頼めないか? 俺たちの活躍に、興味を示しているんだろ」


「話のネタとして、興味を示したんだよ」


「それなら、どうすればいいんだ?」


「地道に実績を積めばいいんだよ」


 エリスは言い聞かせてくる。


「本当はそうしたいんだけど、次の御前試合に参加したい理由があるんだ」


「特別な理由なの?」


「うん、特別な理由。ゼノンが、次の御前試合に参加するんだ」


「宿敵にざまぁして、悪の道から抜け出させる二度とないチャンスだね」


「だから、どうしても次の御前試合に参加したいんだ」


「アルト君の事情は理解したけど、無理なものは無理だよ」


 エリスの説得に納得しかけた時、


「エリスちゃん、無謀かもしれないけど、無理とは限らないわよ」


 マスターが話に割って入ってきた。


「アルトちゃんの頼みだから、チャンスを与えましょう」


「マスター、何者?」


「あなたにとっては、信頼の置けるギルドマスターよ」


「そういうことじゃなく、そんなこと可能なのかと聞いているんですよ」


「私が与えられるのは、チャンス。それを生かせるかどうかは、あなた次第ね」


 マスターは意味深に微笑む。


「エリスちゃん、アルトちゃんにこの依頼を紹介してあげて」


「わかりました」


「それじゃあ、私は仕事が残ってるから、部屋に引っ込むわ」


 忙しいらしく、マスターは奥に引っ込んだ。


「今回、アルト君に紹介するのは、特別クエストだね」


「特別クエスト?」


「一般には出回らないクエストだよ」


「大丈夫なのか?」


 思わず尻込みする。

 念願が叶うかもしれないのに、チキンヤロウ?

 怖いものは、怖いんだよ!


「危険だから出回らないんじゃなくて、貴重だから出回らないものだよ」


「お気に入りの冒険者に、優先的に紹介するクエストなの?」


「簡単に言うと、そうだね」


 安心させるように微笑むエリス。


「それじゃあ、クエストの中身を説明するよ?」


「頼む」


「古代の遺物を回収すること」


「以上?」


「うん、以上」


 頷くエリス。


「詳しい内容は、現地に到着した後に明かされるね」


「本当に大丈夫なのか?」


「特別クエストだから、秘密を徹底してるんだよ」


「他の情報はあるの?」


「参加条件があるね。三人一組だって」


「三人必要とするクエスト?」


 俺は首を傾げる。


「マロ、ゴレスケ、エリスの三人ですね」


「オレ、アネキ、マスターの三人っすね」


「俺は、どこへ行った!」


 留守番なら楽だけど、クエストは失敗に終わるだろう。


「幸運のスラマロを舐めないでください!」


「奇跡のゴレスケを侮らないでくれっす!」


「幸運と奇跡以外の可能性はないのかよ?」


 順当に行くなら、参加するのはいつもの三人。

 エリスとマスターは?

 残念ながら、戦力にならないんだよ!


「肝心の報酬は?」


「もちろん、御前試合への参加資格」


「すでに締め切れているから、インチキ?」


「締め切られてるのは、一般枠だよ。これは、特別枠」


「そうか、特別枠があったか!」


「文字通り、最後の一枠だね」


 僅かに残った可能性に、俺はほっと胸をなでおろす。


「成り上がりたい者からすると、今回の報酬は喉から手が出るほど欲しいよな?」


「だから、今回のクエストには別の参加者がいるね」


「ライバル登場?」


「言い忘れたけど、今回のクエストは争奪戦だよ」


 悪戯っぽく笑うエリス。


「クエストの開始は、いつなの?」


「明日の早朝だよ」


「ずいぶん急だな。俺たちが参加しなかったら、どうしたんだろう?」


「その場合、競争しないクエストに変更だね」


「ちょっと怪しいな?」


 俺の問いに、全員頷く。


「今日は、このままゆっくりしましょ。みんな、食事のリクエストはある?」


 忙しいマスターの代わりに作ってくれるらしく、エリスは聞いてくる。


「俺は、イキリステーキ!」


「マロは、伝説のスラドン!」


「オレは、ゴレランチボックス!」


 俺たちのリクエストに、


「みんな、ふざけ過ぎ……」


 エリスは呆れる。


「どうぞ!」


「おいしそー、いただきまーす!」


 ほどなく、テーブルにエリス手作りの料理が並ぶ。

 仲よく分け合って、食事をする。

 こうして俺たちは、久しぶりのゆったりとした時間を過ごしたんだ。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 今回は、来るべき決戦に備えた休憩回です。

 非日常が続いた分、貴重な日常を楽しんでください。

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