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第48話 第二の成り上がり、偉業達成

 前回とは違い、今回は報奨金を貰えなかった。

 むしろ、潜入調査を揉み消すために、セイント教会に見舞金を渡したぐらいだ。

 ただ、事務長の推薦もあって、国から再び表彰を受けることになった。


「冒険者アルト、前に出なさい」


「はい」


 指示に従い、俺は二歩前に出る。


 前回と歩数が異なるのは、そういう仕組みのためだ。

 説明によると、歩数により国への貢献度を示すらしい。

 これが一定の度合いを超えると、特務騎士に任命されるそうだ。


「冒険者アルト、今回の事件においても貴殿の活躍は、多大なものであった」


 そう告げてきたのは、見覚えのある国の使者であるお偉いさん。


 表彰の理由は、人質の救出。

 そう、グレアムの排除じゃなく、ナンナたちの安全が評価されたんだ。

 良家の子女の未来を守ったことが、一番の評価点だろう。


「よって、国は再び貴殿を表彰する」


「ありがとうございます」


 俺は再び表彰状を受け取る。


「セイント教会、並びに冒険者ギルドからの要望により、貴殿に褒美がある」


「褒美ですか?」


「セイント教会からの褒美は、感謝状である」


「報酬ですね!」


「冒険者ギルドからの褒美は、二階級特進である」


「昇進ですね!」


 嬉しいサプライズに、俺は喜ぶ。


「国からは、救出された者たちの要望によりお菓子を授ける」


「銘菓じゃなく、お菓子?」


「彼らの存在に傷ついた心が癒されたため、感謝の気持ちを伝えたいそうだ」


「彼ら――」


 振り返ると、スラマロとゴレスケは胸を張っている。


「俺への感謝じゃなく、お前らへの感謝かよ……俺にも分けてくれよ?」


「態度次第ですね」


「気分次第っすね」


 仲間の冗談に、苦笑する。


「君たちに救われた者の中には、私の娘もいる。――助けてくれ、ありがとう」


「するべきことをしただけです」


「その欲のなさを含めて、君は表彰に値する人物だ」


「持ち上げ過ぎですよ。俺は、人並み以上に欲深いんですから」


 俺は謙遜する。


「これからも、がんばりなさい。陛下も、貴殿の活躍に期待しているよ」


 そう言い残して、国の使者はギルドを後にした。


「ふぅ、疲れたなぁ」


 お菓子をテーブルに置くと、


「時間的には早いけど、お茶を用意しておやつにしましょう」


 エリスの提案によって、おやつタイムに入る。


「このクッキーは、おいしいですねぇ」


「このチョコレートは、うまいっすぅ」


「あたしにも分けてね……うまーい!」


 三人はお土産のお菓子をパクパク食べる。


「俺の分は?」


「これ、アルト君の分」


「いただきまーす……苦いぞ! 誰だよ、このお菓子をよこしたのは?」


 よく見ると、エリスに渡されたお菓子は焦げていた。


「ナンナですよ」


「手作りっすよ」


「……今の発言は、なかったことにしてくれ」


 俺は前言を撤回する。


「ダーリン、責任を持って、ナンナのお菓子を食べてくださいね」


「アニキ、それを食べ切らないと、他のお菓子を上げないっすよ」


「罰ゲームかよ!」


 ナンナ手作りのお菓子だとわかったから、俺は苦いのを我慢して食べる。


「恋ですね?」


「愛っすね?」


「誤解するんじゃない!」


 仲間の冷やかしに、ゲンナリする。


「アルト君、一つ貰うよ? 味は、まぁまぁだね」


「エリスらしくない上から目線だな?」


「恩返ししたいから、お菓子の作り方を教えて欲しいと、ナンナに頼まれたの」


「そういう事情ね!」


 俺は納得する。


「王都に行く機会があったら、ナンナの実家に寄ろうね?」


「いいところのお嬢様みたいだから、押しかけても大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ、紹介状代わりの手紙を貰ってるし」


「いつの間に……わかったよ、王都に行く機会があったら立ち寄ろう」


 俺は女子の行動力に圧倒される。


「私も、おやつタイムに混ぜてね」


 国の使者の見送りが済んだらしく、マスターはお菓子に手を伸ばす。


「マスター、アルト君の二階級特進の話、本当なんですか?」


「もちろん、本当よ」


「初ですよね?」


「初ね」


 エリスとマスターの話は、意味深に聞こえる。


「二人は、何に驚いているんだ?」


「アルト君、連続二階級特進は、すごいことなんだよ!」


「アルトちゃん、ギルドの長い歴史の中でも、史上初なのよ!」


 ギルド関係者からの賞賛に、俺は自分の立場のすごさにようやく気づく。


「スラマロ、ゴレスケ、今の話を聞いたか?」


「ハグメタスライム?」


「ゴールドトーテム?」


「スーパーレアに、ランクアップじゃねえよ!」


 仲間の反応に、がっかりする。


「アルトちゃん、すごいのは間違いないのよ。――はい、贈り物」


 「Cランク冒険者認定書」と書かれた紙片を渡される。

 マスターによると、二階級特進そのものがごく稀らしい。

 それが連続ともなると、史上初の出来事になるんだ。


「俺は、さらに成り上がったぞ!」


 成り上がりの記念として、俺は拳を突き上げる。


「「「「偉業達成、おめでとう!」」」」


 祝福の声が重なる。


「ありがとう、今回もみんなのおかげだよ!」


 俺は感謝の気持ちを伝える。


「そう言えばマスター、説明にあった特務騎士って何です?」


「簡単に言うと、国王陛下直属の騎士ね」


「元から騎士は、国王直属でしょ」


「名目上はそうなんだけど、実際は騎士団長を始めとした上層部の直属よ」


「特務騎士は、本当の意味での直属なんですね?」


「そのため、影の騎士とも呼ばれるわ」


 耳慣れない言葉に引っ掛かる。


「ドラクエ?」


「ガイコツ?」


「かげのきしじゃねえよ!」


 ボケるスラマロとゴレスケ。


「影の騎士とは、どういう意味なんです?」


「国王陛下の影として悪事を暴き、悪人を叩きのめすためよ」


「物語の中のヒーローみたいですね?」


「ただ、現在は形骸化してるわ。実際、任命されてる人はいないはずよ」


「まぁ、冒険者に過ぎない俺には、無関係な話ですね」


「そうかしら? アルトちゃんには、打ってつけの役目だと思うけど」


 冗談らしく、マスターの口元は笑っている。


「言いそびれたけど、保護した子供たちの進路が、全員決まったわ」


「急展開ですね」


「グレアムの仲介よ」


「大丈夫なんですか?」


「入念に調べたけど、本当に好条件よ。少女好きを除いたら、有能な人物ね」


「その欠点が、大問題なんですけどね!」


 セイント教会は、元トップの犯罪と性癖が発覚したために混乱に陥っている。

 当のグレアムは元の呼称からもわかるように、教会を破門されている。

 今のところ兵士の取調べには、素直に応じているみたいだ。

 

「アルトちゃん、引き続きがんばって。――エリスちゃん、後を任せるわ」


 助言を残して、マスターは奥に引っ込んだ。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 アルトは賞賛のみならず、羨望も集める冒険者になりました。

 ここから、さらに成り上がりますから期待していてください。

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