第47話 再会の誓い
誘拐された少女たちと合流すると、セイント教会を目指す。
騒ぎに巻き込まれないために、秘密の通路を利用して。
その際、彼女たちには、惨状を見せないように配慮する。
「アルト君にしては、気が利いてるね?」
「前半は、余計だろ」
「ナンナの提案だね?」
「よくわかるな!」
エリスの判断力に、俺は舌を巻く。
「連中、ボロボロだな?」
「あたしたちを連れてきた人たちでしょ?」
「うん、傭兵だよ」
グレアムに雇われた傭兵の中に、死亡者はいなかった。
ただ、大半が怪我を負っているし、全員連座して捕まっている。
兵士に力なく連行されるさまは、哀れみを誘った。
「連中からすると、生き残ったのは幸運なのか不運なのかわからないな?」
「情状酌量の余地はありますから、幸運ですね」
「日陰の道は厳しいから、不運っすね」
仲間の意見は分かれる。
「ナンナ、グレアムは前からああいう性癖だったのか?」
「少女好きということ? 前からそういう傾向は、あったらしいわ」
「らしい?」
「私は新入りじゃないけど、新参者なのよ」
「幸い性的虐待の被害はなし、か」
「少なくとも、直接的なものはなかったわ」
請合うナンナ。
「そうなると古代遺跡の一件以降、グレアムは暴走したのか?」
「欲望が増幅して、結果的に暴走したんでしょう」
「異界のデーモンとの契約を引き金にして?」
「それ以外の可能性は、考えられませんね」
「逆に言うと、異界のデーモンと契約しなかったら、何も起きなかったのか?」
「いえ、嫌な言い方になりますけど、遅かれ早かれ起きた問題ですよ」
スラマロの主張は、もっとも。
「最悪の事態を免れたと、喜ぶべきなのか?」
「反省する前のグレアムの言葉を、真に受ける必要はないんすよ」
「ゲルドと同じく、責任転嫁なのか?」
「今回の事件は、グレアムのせいなんすよ」
「誰にでも欲望はあるけど、犯罪に走るかどうかは別か」
「欲望のために少女を犯そうとしたのは、絶対に擁護できないっす」
ゴレスケの指摘は、もっとも。
「そういうあなたは、どうなのよ?」
「どうして、俺が引き合いに出されるんだよ!」
「あなた、女装してたじゃない」
「それは……潜入調査だよ!」
「ノリノリだったでしょ?」
「ビクビクしていたよ!」
ナンナの追求に、俺は必死に反論する。
「あなた、女装願望があるんじゃない?」
「ナンナちゃん、女装じゃなく、女人化だよ!」
「うそ――」
エリスの冗談に、ナンナは絶句する。
「誤解だっ!」
全員に白い目で見られる。
「ダーリン、行きますか?」
「アニキ、やるんすか?」
「どこに行くんだよ? 何をやるんだよ?」
思わず聞き返す。
「ターイへ!」
「ギーシキを!」
「行かねえし、やらねえよ!」
仲間の悪乗りに、ゲンナリする。
「「えーっ!」」
がっかりするスラマロとゴレスケ。
「どうして、がっかりしているんだよ!」
「女装家テイマーの成り上がり、読みたいでしょ?」
「女体化テイマーの成り上がり、見たいっすよね?」
「読みなくねえし、見たくねえよ!」
俺は憤慨する。
「そもそも、どうして教会と自宅がつながっているんだ?」
「大司教にとっては、どっちも我が家だったんでしょ」
「悪さをするために、つなげたわけじゃないのか?」
「大司教なりの愛情表現ね」
皮肉るナンナ。
「無事とは言いがたいけど、到着だな!」
秘密の通路を通って教会の中に入ると、憔悴した様子の事務長と出くわす。
「あなたたちは……ナンナ!」
「おばあちゃん!」
「大丈夫だったの?」
「全員、大丈夫。アシュミーたちが、守ってくれたから」
「あなた、アシュミーさんに似ているわね?」
首を傾げる事務長。
「簡単に言うと、潜入調査です。実は――」
異界のデーモンの存在を省くと、包み隠さずに事情を伝える。
「事情は、理解しました。潜入調査のよしあしは、後回しにしましょう」
「俺たちは?」
「事態が収拾するまでは、ナンナたちと一緒に隠れていなさい」
「わかりました、後を頼みます」
事務長の勧めに従い、俺たちは教会の一室に閉じこもる。
それから――
今回の事件を公表した後の混乱は、想定の範囲を超えていた。
ギルドの介入により潜入調査を隠せたものの、ナンナたちの誘拐は隠せない。
セイント教会には野次馬が殺到して、関係者は対応に追われている。
「お別れね」
馬車の発着場。
東に向かうものと西に向かうものと、二つの馬車が止まっている。
それぞれ、俺たちとナンナたちの乗るものだ。
「お別れだ」
下種の勘繰りを嫌った教会は、預かった少女たちを親元に帰している。
ナンナも、その一人だ。
実家に帰る少女たちと一緒にいる。
「ナンナは、事務長と二人暮らしじゃなかったのか?」
「そんなこと言ったかしら?」
「強いて言うと、孤高の雰囲気を漂わせているから」
「孤高の雰囲気って、何よ?」
「独り身?」
「そこ、行き遅れみたいに言わない!」
憤るナンナ。
「それなら、親はいるのか?」
「もちろん、いるわよ。教会への奉公は、親の方針ね」
「花嫁修業?」
「どうして、すぐに結婚と結びつけるのよ! まさか――」
顔を赤らめるナンナ。
「どうしたの、赤くなって?」
「本当に惚れちゃった?」
「またまたご冗談を!」
「張り倒すわよ!」
怒るナンナ。
「実家は、王都にあるのよ」
「これから、君は王都に帰るのか?」
「家に着いたら、しばらく休養ね。その後は、私次第」
「君次第?」
微妙な返答に引っ掛かる。
「今回は親の方針に従ったから、今度は私の方針に従ってもらうの」
「冒険者になるつもりかよ?」
「それはさすがに反対されるし、邪魔されるわ」
「いいところのお嬢様かよ!」
俺はビックリする。
「セイント教会に預けられた子女は、全員いいところのお嬢様よ」
「貧乏人を見下しているのね!」
「どんなキャラよ?」
呆れるナンナ。
「今度、王都に来なさい。いろいろ案内するわ」
「田舎者を見下すつもりね!」
「どんなキャラよ!」
呆れ返るナンナ。
「近いうちに御前試合も行われるから、王都を満喫できるわよ」
王都に来るように仕向けるナンナ。
「アイスを食べたいですねぇ」
「ジュースを飲みたいっすぅ」
「マンキツじゃねえよ!」
ボケるスラマロとゴレスケ。
「さよなら、エリス、スラマロ、ゴレスケ、それにアシュミー!」
「アシュミーじゃねえよ!」
「ごめん、アシュミーちゃん!」
「お前……またな!」
「またね!」
その言葉を最後に、ナンナを乗せた王都行きの馬車は出発した。
「馬車に乗ろうぜ」
もう一台の馬車に、俺たちは乗り込む。
「この町での暮らしは悪いこともあったけど、いいこともあったね?」
「前者が事件の発生だとしたら、後者は事件の解決か?」
「後者は、ナンナとの出会いでしょ!」
突っ込むエリス。
「ダーリンは、ナンナに厳しいですね? もしかして――」
「アニキは、ナンナに冷たいっすね? ひょっとして――」
「お前ら、フラグを立てるなよ!」
俺の言葉に、全員笑う。
「それじゃあ、ギルドに帰ろうぜ」
第二の目的は、達成だ。
前回とは違い、パーティの類はなかった。
ただ、不思議と満足している。
「パーティは、ナンナと再会した時にやればいいんだよ」
満足しているのは、ナンナとの出会いのためだろう。
向かう先は異なるものの、俺たちの道は交わっている。
そう、遠くないうちに再会の時は訪れるんだ!
「俺たちは、前に向かって進む。グレアム、お前も前に向かって進め!」
馬車の出発に合わせて、俺はグレアムが好きだった花をセイント教会に捧げた。
お読みいただき、ありがとうございます。
うーん、前回よりも今回のほうが、一区切りっぽいですね。
次回は、第二の成り上がりになります。




