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第41話 ナンナの失踪

「私はこっちの荷物を持つから、あなたはそっちの荷物を持って」


「アシュミー、パンより重いものを持てなーい」


「こういう時だけか弱いふりをしない!」


 叱るナンナ。


 見ての通りナンナと一緒に、買い物に出かけている。

 簡単な用事なのに一人じゃないのは、俺がこの町に不慣れだからだ。

 言い忘れたけど、セイント教会のある町は、ギルドのある町とは別物だ。


「一つと言わずに二つとも持ってくれても、いいんじゃない?」


「婚約者との結婚に備えて、ブリブリ転向ね」


「婚約者はいないし、結婚もしないわ! 事務長から頼まれた用事があるのよ」


 怒るナンナ。


 二度も体を張って守ったため、好感度が上がったと思っていた。

 だが、ナンナの態度に明確な変化はない。

 それだけ元の印象が悪かったんだろう。


「もしかして、修繕を頼んだ衣服の受け取り?」


「そう、受け取るのに時間がかかるから、その間ゆっくりしてて」


「それじゃあ、そこらへんを散歩してくる」


 ナンナと別れると、俺は路地裏に入る。


「女の子を付け回すなんて、何のつもりだ――ハンス?」


 振り返ると、そこにいるのは手を引いたはずのハンス。


「今の私の立場は、お前の支援要員だ」


「依頼人に、俺への協力を求められたのか?」


「それもあるけど、あんたのところのマスターからの協力要請もある」


 ハンスは、マスターの署名入りの依頼書を掲げてみせる。


「ひょっとして、ずっと接触しようとしていたのか?」


「してたけど、無理だった。あの教会、守りが堅いな」


「そこに野犬が入り込んで、騒動になったんだぜ」


「野犬が入り込むのは無理だ。おそらく、そいつは魔物だ」


 事件を示唆するハンス。


「そう言えば、大司教には少女売春の疑いがあるぞ」


「元締めじゃなく、個人的に少女を買っているのか?」


「よくわかるな、複数の目撃情報があるんだ」


 感心するハンス。


「もしかして――」


 大司教は、ナンナを狙っているんじゃないのか?

 もちろん、自分の欲望を満たすために。

 そして、その邪魔になる事務長を消そうとした!


「あんたの仮説が正しい場合、まずいことになるぞ」


「直接、ナンナを狙ってくるんだろ?」


「狙われるのは、その子に限らない。セイント教会の少女は、全員狙われる」


 警告するハンス。


「証拠を見つけたら、連絡をくれ。教会に、武装した兵士をなだれ込ませる」


「捕まえるんじゃなくて、殺すつもりだろ?」


「俺の依頼人の指示じゃなく、あんたのところのマスターの指示だ」


「マスターは確実に危険を取り除くつもり、か」


「そういうことだから、がんばれよ」


 立ち去るハンス。


 今のところ、証拠は見つかっていない。

 代理人が、あの世に持っていってしまったからだ。

 ただ、代理人の身元を特定できれば、見つけられるかもしれない。


「代理人の身元、か」


 店の前に戻ると、ナンナは待ちくたびれた様子だ。


「遅い! 何してたのよ?」


「ごめん、そこらへんをブラブラしてたの」


「重いから、荷物を持って!」


 追求されると困るから、素直に荷物を持つ。


「用を終えたから、帰りましょう」


 並んで歩いていると、人だかりを見つける。


「何だろう?」


 怪我を負った少女が、手当てを受けている。

 ただ、最悪の事態は逃れたらしく、安堵した様子だ。

 話によると、男に襲われ犯されそうになったらしい。


「いずれも未遂とはいえ、三日連続だろ」


「状況上、同一犯の仕業だろ」


「被害者は、今回も家出中の少女か?」


「いや、今回は習い事帰りの少女らしい」


「被害は拡大中、か」


 三日連続。

 その日付に意味があると、俺は考える。

 なぜなら『野犬』に襲われた後から、事件は起きているからだ!


「アシュミー、私、怖い……」


 ナンナが、ギュッと抱きついてくる。


「ナンナ……」


 怯えるナンナと、怪我を負った少女の姿が重なる。

 俺は、この子を守れるのか?

 弱気になるんじゃない、守ってみせろ!


「君、セイント教会の下働きだろう?」


「そうですけど?」


「事件に関連して、話を聞きたい。詰め所に、ご同行願おう」


「えっ……!」


 数人の兵士に、取り囲まれる。


「どういうことなんですか? 待ってください!」


 ナンナの制止を無視して、俺は詰め所に連行される。


 それから――


「だから、無関係だと言ったじゃないですか……」


 事情聴取の後、俺は自由の身になる。


「ダーリン、見損なったのじゃ」


「アニキ、リアル犯罪者ですわ」


 身元引き受けに来た仲間に、白い目で見られる。


「俺は、悪くねぇっ!」


 俺の魂の叫びをよそに、日は暮れつつある。


「ナンナは?」


「エリスに伴われて、先に帰ったのじゃ。途中、屋台に寄るそうじゃ」


「俺たちも帰ろう。助けに来てくれたお礼に、屋台で骨付き肉ぐらいは奢るよ」


 セイント教会に向かって、俺たちは歩き出す。


「どうして、俺が疑われたんだ?」


「兵士によると、通報があったらしいのですわ」


「通報?」


「アシュミーというメイドが、事件に関わってるかもしれない、と」


 説明するゴレアンテ。


「ハンスと接触したんだけど、大司教には少女売春の疑いがあるらしい」


「当たりじゃ。情報源も犯人も、大司教なのじゃ」


「手足となって働いてくれる代理人がいなくなって、暴走し始めたのか!」


 根拠のない通報を兵士が信じたのは、情報源が大司教だからだ。


「どうしましょう?」


 セイント教会の敷地に入ると、慌てふためいている事務長に行き当たる。


「事務長、どうしたんです?」


「アシュミーさん、いいところに来ました。ナンナたちが、行方不明なの!」


「行方不明!」


 俺たちは呆然とその場に立ち尽くした。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 今回、物語が大きく動きました。

 この後は、黒幕との対決まで一気に進みます。

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