第4話 運命を切り開く力
俺たちは奥に進みながら、探索を続けている。
「他においしそうなものは、見当たりませんねぇ」
探索の成果は、銅鉱石一つ。
あれ以外、値打ちのあるものは見つからなかったんだ。
見逃していない証拠に、スラマロは反応していない。
「銅鉱石を見つけただけでも、儲けものだろ。それより――」
辺りを見渡す。
「ここは、何なんだ?」
「アジトみたいですね」
「アジト?」
「連中のアジトですよ」
スラマロは、ガラクタの山の向こう側を指し示す。
そこには――
「ゴブゴブ」
人間に似た、それでいて人間じゃない生き物がいる。
人間にしては背は低いし、肌も緑色だ。
その上、皮のような服を着て、棍棒のような武器を持っている。
「ゴブリン!」
「ここは、ゴブリンのアジトなんですよ」
「そうだとしたら、どうする?」
「遺跡から脱出するためには、ゴブリンの排除は必須ですね」
引き返すのも、通り抜けるのも無理だからだろう。
「覚醒したんだから、ゴブリンぐらい倒せますよ」
「前にゴブリンと遭遇した時は、逃げ出すしかなかったんだぜ」
「冒険者になるんですよね? 腕試しのチャンスです」
「その自信の根拠は、何だよ?」
「マロとダーリンが力を合せれば、不可能は可能になります!」
実際、不可能を可能にしている。
もちろん、閉まる寸前の扉を止めて、窮地を逃れたことだ。
覚醒して手に入れた、『性質変化』によって。
「よし、戦おう!」
「苦難から逃げないのは、立派ですよ!」
「武器さえあれば、何とかなりそうだな?」
肝心の武器は、残念ながら見当たらない。
「武器はあると言えばありますし、ないと言えばないですね」
「こんな時に、謎かけかよ?」
「一押しすれば、さっきの銅鉱石を役立たせられそうなんですよ」
「その一押しは、誰によるものだ?」
「ダーリンによるものです」
「俺による一押し……『性質変化』か!」
答えにたどり着く。
「行くぞ、スラマロ!」
「行きますよ、ダーリン!」
息を合せる。
「「『性質変化』!」」
次の瞬間――
スラマロは、ブロンズソードに変化する!
「運命だけじゃなく、生き物も変化するのか!」
「生き物以外も変化しますよ」
「そうなのか?」
「覚醒の間から脱出する際、閉まりかけた扉が一時的に止まったでしょ」
「それより、大丈夫か?」
「もちろん、大丈夫です」
『性質変化』してもスラマロのままだから、俺は安心する。
「ダーリン、戦闘経験はありますか?」
「補助ならある」
「それなら、いけますね!」
スラマロの言葉は、自信たっぷり。
「マロの変化した武器なら、ダーリンは戦闘特技を使えます」
「戦闘特技……スキルの一種か」
「ソードの戦闘特技は、スラッシュですよ」
「スラッシュ? マナスラッシュだろ」
呼び名を変えたのは、閃いたからだ。
武器に、自分の魔力であるマナを込めるべきだ、と。
マナを込めた刀身は、淡い光を帯びる。
「行くぞ!」
準備を済ませると、四体いるゴブリンのうちの一体に近づく。
「マナスラッシュ!」
ザシュ!
ゴブリンを切り倒す。
「狙い通り!」
閃きは、正しかった。
今の俺の腕前だと素のスラッシュでは、ゴブリンを一撃では仕留められない。
それでも仕留められたのは、魔力を利用したマナスラッシュだからだ。
「ダーリン、刀身にマナを込めたんですね?」
「込められると思ったし、込めるべきだと思ったんだ」
「マナを込めたことにより、威力が跳ね上がってますよ!」
賞賛するスラマロ。
「ゴブゴブ?」
「ゴブゴブ!」
敵襲に気づいた、二体のゴブリンに近づく。
「マナスラッシュ!」
ザシュ!
「マナスラッシュ!」
ザシュ!
四体のうち、三体を難なく倒す。
そのまま、残りのゴブリンに挑む。
こいつも、一撃だろう。
「マナスラッシュ!」
ガシッ!
予想に反して、攻撃を受け止められる。
「同じゴブリンだろ……どうして!」
「ダーリン、同じゴブリンじゃないですよ」
「ゴブ男と、ゴブ吉の違い?」
「そいつはノーマルゴブリンじゃなく、ゴブリンチーフです!」
警告するスラマロ。
よく見ると、他のゴブリンとは違う。
もっとも、違いは少しだけだ。
チーフはノーマルよりも大きく、そして強い。
「どうする?」
攻撃を避けつつ、ゴブリンチーフから距離を取る。
「ダーリン、協力技を使いましょ」
「協力技?」
「マロとダーリンの力を合せるんですよ」
「さっきみたいに、息を合せるんだな」
俺たちの意思疎通は、ばっちり。
「行くぞ!」
「ほーい!」
「ダブル――」
「スラッシュ――」
ガシッ!
一撃目は、ゴブリンチーフに受け止められる。
しかし、ほどなく次の一撃が、ゴブリンチーフを襲う。
ザシュ!
「ゴブ――」
ダブルスラッシュによって、ゴブリンチーフを切り倒す!
「倒したぞ!」
見渡すと、いずれのゴブリンも死んでいる。
その時、耳慣れない、それでいて心地よい音色が聞こえ始める。
テレテレッテッテッテー♪
「トラップ?」
「ダーリン、レベルアップの音ですよ!」
「レベルアップ……どうして?」
「ダーリンの能力は、変動するようになったんですよ!」
「つまり、待望のレベルアップか!」
歓喜に震える。
実際――
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
名前・アルト
職業・レジェンドテイマー
レベル・2
攻撃・110(レベルアップによる能力値上昇+10)
防御・110(レベルアップによる能力値上昇+10)
敏捷・110(レベルアップによる能力値上昇+10)
魔力・110(レベルアップによる能力値上昇+10)
技能・性質変化(対象の変化、パーティ入手経験値倍増、パーティ成長率上昇)
耐性・レジェンドの証(成長限界の呪い打ち消し、性質変化の派生スキル)
契約・あり(スラマロ)
名前・スラマロ
職業・イータースライム
レベル・2
攻撃・35(レベルアップによる能力値上昇+5)
防御・35(レベルアップによる能力値上昇+5)
敏捷・35(レベルアップによる能力値上昇+5)
魔力・185(レベルアップによる能力値上昇+5)
技能・大食い
武器化(武器に変化できる、性質変化の派生スキル)
耐性・毒耐性
契約・あり(アルト)
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
レベルアップに伴い、能力が成長している。
スラマロはもちろん、俺も。
覚醒した俺は、『成長限界の呪い』に打ち勝ったんだ!
「マロの見立て通り、ダーリンはすごいですねぇ」
「褒められるほどか?」
「『成長限界の呪い』に打ち勝った偉人として、歴史に名を残します!」
「叡智の賢者に続いて、二人目?」
「最悪の呪いに打ち勝った、覚醒テイマーの誕生ですよぉ」
感激するスラマロ。
「ダーリン、能力値もすごく上がってますよ」
「10の上昇は、すごいのか?」
「すごいですよ。何しろ、普通は1か2、高くても5ですから」
「スラマロは、その高い5の上昇だぞ」
「『性質変化』の成長率上昇効果もありますけど、突き詰めると才能ですね!」
絶賛するスラマロ。
元から強い上、さらに強くなる。
このまま強くなり続ければ、英雄も夢じゃない。
俺は、本当に伝説の存在になれるんだ!
「次は、戦利品を回収しよう!」
レベルアップの余韻に浸った後、金目のものを探す。
中には、そっくりそのまま金もある。
殺した冒険者から、奪い取ったものだろう。
「これなら、しばらくは不自由することなく暮らせるぞ」
「それじゃあ、今日は宴会ですね!」
「初日から、豪遊かよ?」
「マロとダーリンの、運命の出会いを祝福するんですよ!」
ゴブリンのアジトを抜けると、脱出は目前だった。
本来のルートからは外れたものの、脱出のルートには入っていたらしい。
遺跡を離れると、さすがに安堵した。
「それじゃあ、町に向かおう……何だ?」
町に向かう途中、異変を感じて、振り返る。
地面というよりも、大気が震えている。
天変地異の前触れだろうか?
「ダーリン、どうしました?」
「三人の悪党へのリベンジを誓ったんだよ」
「やり返しましょ!」
「やり返そう!」
おぅ、という掛け声は消えた。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
遺跡が崩壊する轟音によって。
「「えっ、ええっ、うそっー!」」
俺とスラマロは呆然と立ち尽くした。
お読みいただき、ありがとうございます。
投稿時刻は、特に決まっていません。
また、投稿回数も特に決まっていません。