第39話 消えた襲撃者の謎
「ナンナ、落ち着いた?」
「少しは」
「それじゃあ、守衛さんに報告しに行きましょ」
「わかった」
ナンナが落ち着くのを待って、事件現場を離れる。
本来は一人を残して、もう一人が守衛を呼びに行くべきなんだろう。
ただ、再び襲われる可能性もゼロじゃない。
ナンナも二手に分かれるのを嫌ってため、二人して現場を離れることにした。
「今日は、長いわね」
「アシュミーの一番長い日?」
「まだ日が変わってないでしょ」
「大げさね、さっきの件を抜かしたらいつも通りでしょ」
「昼間、野犬に襲われた件は?」
「すっかり忘れてた、あれも例外中の例外ね」
ナンナは苦笑いになる。
「それにしても、どうして襲われたのかしら?」
問題は――
無差別に襲われたのか、ナンナが狙われたのか。
前者ならともかく、後者なら問題だ。
何しろ、昼間の一件の真相も変わってくるから。
「わからない。一人で見回りをしてたら、いきなり襲われたの」
「目に付いたから?」
「可愛い女の子だからよ!」
「女の子はわかるとして、可愛い要素は?」
「あなた、張り倒すわよ?」
「……ごめんなさい」
ナンナの脅しに、俺は屈する。
「優等生のナンナさんは、どう感じましたの?」
「どうして、いきなりライバルキャラになるのよ?」
「いいから、答えなさい」
「思い上がりかもしれないけど、狙われたように感じたわ。ただ」
「ただ?」
「私だから狙われたのか、女の子だから狙われたのかは不明ね」
ナンナは感想はもっとも。
「連中の狙いは、セイント教会の女の子か」
「金銭目的なら、もっと別の場所を狙うわよ」
「それこそ、あたしがいた大司教の執務室でしょ?」
「そう、だから連中の目的はお金じゃないわ」
ナンナは金銭目的の犯行を否定する。
「アシュミー、本当の問題は連中の存在よ」
「どういうこと?」
「どうやって、連中は教会の奥に入り込んだの?」
「それは、昼間の野犬みたいに塀を飛び越えたのよ」
「手前はともかく、奥は物理的に閉鎖されてるわ。昼間の野犬でも無理よ」
「それは……」
俺は言葉に詰まる。
「それなら、手前側から入ったんじゃないかしら?」
「その場合、アシュミーの仲間はひどい目にあってるわよ?」
「ナンナ、不謹慎よ」
「わかってる。だから、反論として言ったの。ほら、みんな、大丈夫でしょ――」
ナンナの指摘通り、エリスもスラリーヌもゴレアンテも無事だ。
三人は見回りを済ませたらしく、守衛と話し込んでいる。
それどころか、守衛に気に入られてお茶とお菓子を貰っている。
「みんな!」
「どうしたの?」
「襲われたの!」
「襲われた……!」
ナンナの言葉に、その場の雰囲気が一変する。
「「「アシュミー!」」」
仲間が、俺を睨みつけてくる。
「ご、誤解よ!」
俺は首をブンブンと横に振る。
「今回は、本当に誤解よ」
「今回って、何?」
「襲ったのは、アシュミーとは別の変質者ね」
「別って、何!」
俺の抗議を無視して、ナンナは状況を説明する。
「確認しよう!」
話を聞いた守衛は、事件現場に向かう。
少し遅れて、俺たちも事件現場に向かう。
到着した俺たちは、顔を見合わせる。
「どういうこと……?」
なぜなら、その場には誰もいなかったからだ!
「念のために聞くが、本当にそんなやつらはいたのかね?」
「いました。その証拠に、連中が流した鼻血が残ってます」
「君たちじゃないから、他に誰かいたのは間違いないんだろう」
「あたしたちは、間違いなく襲われました!」
「疑ってるわけじゃないけど、信じられない。そいつらは、どこへ行ったんだ?」
守衛の問いに、俺もエリスも答えられなかった。
状況上、手前側に逃げたわけじゃない。
かといって、奥から外には逃げられない。
考えられるのは、どこかに隠れていること。
「探してみよう!」
手分けして探してみたものの、死体さえ見つからなかった。
ただ、幻などではない証拠に、争った際の鼻血が点々と散らばっている。
もっとも、それも途切れがちなため、古い出来事みたいに思える。
「今回の件に関しては、我々から事務長に伝えるよ」
「あたしたちは?」
「君たちは寮に戻って休みなさい」
「わかりました」
予想以上に疲れているため、俺は守衛の言葉を受け入れた。
「いったいどういうこと!」
女子寮に向かう途中、ナンナは不満をぶちまける。
「スラリーヌ、魔法やスキルによる逃走の可能性はないの?」
「ハニー、魔法もスキルもそんなに便利なものじゃないのじゃ」
「その場合、どうなるのよ?」
「ファンタジーじゃなく、ミステリーなのじゃ!」
スラリーヌの感想はもっとも。
「ミステリーだとして、犯人は?」
「オネエサマ、犯人はニンジャですわ!」
「ニンジャ?」
「ジャパーンの肉体強化魔術師ですわ!」
ゴレアンテの主張はもっとも。
「ねえ、誰かがかくまってる可能性はないのかしら?」
「アシュミーちゃん、その場合でも女子寮に逃げ込む時間はないよ」
「それなら、教会の関係者の仕業とか」
「たとえそうだとしても、短時間にどこに逃げ込めるの?」
エリスの指摘はもっとも。
「アシュミー、いずれにしても計画的な犯行よ」
「計画的な犯行?」
「突発的な犯行だと、証拠隠滅できないでしょ」
「言われてみると、確かに!」
「目的も標的も犯人も不明だけど、計画的なのは間違いないわ」
ナンナの結論はもっとも。
一通りの検討が済むころには、女子寮に戻ってきていた。
「今日はもう遅いから、調査は明日に持ち越しましょ?」
「賛成!」
俺の提案に、全員喜んで賛成した。
お読みいただき、ありがとうございます。
一連の謎は、大事件の発生に伴い解決されます。
その際のアルトとナンナの活躍に期待していてください。




