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第36話 女子寮

「ナンナが――」


「襲われた――」


「ダーリンに――」


 驚く仲間に対して、


「襲われたのはナンナだけど、襲ったのは俺じゃねえよ!」


 俺は誤解を解く。


「アルト君、襲われたのは事実なの?」


「事実だよ。襲ったのは、野犬だ」


 日時は、奉公初日の夜。

 場所は、教会の女子寮。

 割り当てられた一室に、関係者が集まっている。


「アニキ、いつ襲われたんすか?」


「お前たちと別れた後だよ。雑用を押し付けられただろ」


 エリスは、椅子に腰掛けている。

 俺は、ベッドにもたれかかっている。

 スラマロとゴレスケは、ベッドに寝転んでいる。


「ダーリン、襲われたのは教会の外ですか?」


「教会の中だよ。雑草を抜いている最中だ」


 ナンナ?

 関係者じゃないし、事務長に付き添って医者に行っている。

 そろそろ帰ってくるころだろう。


「そもそも、襲われたのはナンナだけじゃない、事務長も襲われたよ」


 俺はその時の詳しい状況を語る。


 前回のケースとは違い、緊張感はない。

 それもそのはず、襲われたのはこの面々じゃないからだ。

 かくいう俺も、その場に居合わせただけだ。


「ダーリンは、狙われなかったんですか?」


「俺は間違いなく狙われなかった」


「珍しいですね、断言するなんて」


「あいつは、俺を飛び越えて二人を狙ったからだ」


「なるほど、テイマーなのに犬に無視されたから、ひがんでるんですね!」


「誤解の上に誤解を重ねるんじゃない!」


 そう言えば、俺のテイマー要素はどこにあるんだろう?


 スラマロとゴレスケと契約したから、テイマーなのは間違いない。

 さらに魔物の力を引き出せる『性質変化』も、その立場を裏付ける。

 問題はテイマーのトップ、レジェンドテイマーだということ。


「他にテイマーがいないから、どれぐらいすごいのかわからないな?」


「ダーリン、自虐的ですね」


「そもそも、テイマーなのにテイムしないよな?」


「女の子モンスターをテイムしたいんですか? ダーリンのエッチ!」


「完全に誤解だ!」


 誤解した三人は顔をしかめている。


「ダーリン、本当に野犬だったんですか?」


「野犬じゃないとしたら、何だよ?」


「軍用犬」


「物騒だな。どうして、そう思うんだ?」


「ダーリンの蹴り上げに耐えたんでしょ? 普通の犬なら、即死ですよ」


 スラマロの指摘はもっとも。


「アニキ、本当に狙いはナンナなんすか?」


「ナンナじゃないとしたら、誰だよ?」


「事務長」


「陰謀論だな。どうして、そう考えたんだ?」


「事務長は公平だけど、厳しいっすよね? 心当たりはありそうっすよ」


 ゴレスケの主張はもっとも。


「アルト君、問題は目的じゃなく、首謀者だよ」


「首謀者……? 本当に陰謀なのかよ!」


「何しろ、教会の中に野犬が入り込んだんだよ」


「おかしいと言いたいのか?」


「おかしいよ。だから、意図的なものだね」


 エリスの見解はもっとも。


「いずれにしても、厄介だな?」


 俺の言葉に、全員頷く。


 教会は、カゴだ。

 ナンナたちは、カゴの中の小鳥だ。

 猛獣に狙われたら、ひとたまりもない。


「ダーリン、エリスと同室じゃないのを怒ってるんですね?」


「アニキ、ナンナと寝起きできないのを恨んでるんすね?」


「俺を襲撃の首謀者に仕立て上げるなよ!」


 この部屋は、三人部屋だ。

 アシュミー、スラリーヌ、ゴレアンテに割り当てられている。

 幸いエリスは、ナンナと一緒の二人部屋だ。


「昼間はともかく、夜間はエリスに任せるよ」


「もしもの時は、アルト君に助けを求めるよ」


 俺の求めに、エリスは応じる。


「ダーリン、ラッキースケベ期待ですね?」


「アニキ、ドキドキハプニング要望っすね?」


「お前ら、時と場合を考えろ!」


 エリスとは違い、スラマロとゴレスケはボケる。


「男は、狼――」


「生きてる限り、雄神――」


「いつの時代の、何のネタだよ?」


 たぶん、全盛期のオオカミネタだろう。


「ネタに走るのは、尺稼ぎだね?」


「その尺稼ぎに乗るのは、ヒロインの役割じゃないだろ?」


「今回は、メインじゃなくサブだし」


「自虐的過ぎる!」


 エリスのボケに、俺は苦笑する。


「ダーリン、そんなことよりも夜食にしましょ!」


「それ、俺の食事なんだけど……」


 スラマロの提案に、俺は苦笑いになる。


「このミートパイ、おいしいですねぇ!」


「このフィッシュフライ、うまいっすぅ!」


「このスィーツ、すごーい!」


 聞き取りのために食事を食べ損ねてしまい、夜食を差し入れされている。

 ただ、俺は空腹じゃないから、ほとんどスラマロとゴレスケが食べている。

 エリスも女子らしく、珍しいお菓子に手を伸ばしている。


「教会なのに、肉食禁止じゃないんだな?」


「ダーリン、頭グレタ?」


「グレタ信者から抗議が殺到するからやめろ!」


 実際のところ――


 大司教を始めとした聖職者たちは、肉を食べないみたいだ。

 ナンナを始めとした小間使いたちは、別枠なんだろう。

 肉はもちろん、魚も問題なく食べている。


「肉食禁止なら、反乱を起こしますよ!」


「野菜強制なら、夜逃げするっすよ!」


「お前ら、過激過ぎ……」


 スラマロとゴレスケの主張に、俺は辟易する。


「こういうところのお菓子は、おいしいね」


 エリスの感想に興味を引かれて、俺はお菓子を口に入れる。


 うん、確かにおいしい!


「どうして、おいしいんだろう?」


「全部、一から手作りしてるからだよ」


「全員、料理が得意なのか?」


「ナンナは、料理だけは苦手みたいだね」


 優等生のナンナも、完璧超人というわけじゃないらしい。

 エリスも、洗濯は苦手らしいし。

 ちなみに、スラリーヌとゴレアンテはすべて得意だ。


「スライムワイフ!」


「ゴーレムメイド!」


「まったく嬉しくないんだけど……」


 元の姿に戻っているのが、余計そう思わせるんだろう。


「いずれにしても、協力してナンナたちを守ろう!」


 俺たちは覚悟を決めるように頷き合った。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 ところどころ話が飛んでいたため、合間の話を書き加えました。

 今回の話も、書き加えた話の一つです。

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