第33話 セイント教会への潜入作戦
第二の目的達成。
そのためには、情報を集める必要がある。
俺は、ハンスへの聞き取りを続ける。
「手がかりぐらいは、あるんだろう?」
「人さらいから逃れた子供の大半は、セイント教会に保護されてる」
「セイント教会?」
「セイント大司教の管轄だ」
「セイント教会と人さらい、両者に関係はあると思うか?」
「わからない。ただ、保護された子供は、男女問わずかなりの人数だ」
それなら、セイント教会に探りを入れてみよう!
「私はしばらく休んだら、ギルドに戻って依頼人に報告するつもりだ」
「今回の一件からは、手を引くんだろ?」
「もちろん、手を引く。お前とは違い、私に信念はない」
「俺にも信念はないよ。ただ、しないといけないことをするだけさ」
ハンスとの話を終えると、両肩にスラマロとゴレスケを乗せる。
「ダーリン、見栄を張りましたね?」
「アニキ、いい格好をしたっすね?」
仲間が、そう茶化してくる。
俺は苦笑しながら、一階に向かう。
階段を下ると、カウンター席に座る。
「マスター、三人分の食事をお願い」
「やる気を出したのは、手がかりを得たから?」
「それもあるけど、俺たち以外だと問題を解決できないから」
手早く用意された料理を食べながら、マスターの愚痴を聞く。
「数十人ともなると、住む家を探すだけでも大変ね」
「それは、将来的に住む家でしょう?」
「もちろん、将来的に住む家よ。そういう意味では、住み込みの仕事が理想ね」
今のところ子供たちは、マスターの知人の家に分かれて住んでいる。
「そう言えば、全員、身寄りがないんですか?」
「全員じゃないけど、大半は身寄りがないわ。それも、苦労する一因ね」
「人さらいは身寄りのない相手を選んだ、か」
その方針に、怒りを覚える。
「君と同じく、あの子たちも人として価値がないんだよ」
そう見下されているように感じるんだ!
「ダーリン、人間不信ですか?」
「アニキ、情緒不安定っすか?」
スラマロとゴレスケは、こちらを心配そうに見ている。
「大丈夫だ。心配してくれて、ありがとう」
仲間に向かって、笑ってみせる。
「こういう時、国は動かないんですね?」
「動かないというよりも、動けないのよ」
「同じですよ」
「手厳しいわね」
苦笑するマスター。
「身元の引き受けを持ちかけてきた、公的な機関もあるのよ」
「ふうん、どこ?」
「教会」
「教会……!」
顔を見合わせる俺たち。
「ひょっとして、セイント教会?」
「よくわかったわね?」
「実は――」
マスターに、ハンスの話を伝える。
「大司教と人さらい、両者に接点があるとしたら大変よ」
「また狙われるんですか?」
「それ以前の問題。裏から手を回されて、子供たちの身柄を奪われるわ」
「そんなこと可能なんですか!」
「弱者の救済を掲げている、教会だからこそ可能な離れ業よ」
マスターの表情は、深刻そのもの。
「もっとも、人さらいに関与しているなら、国に罰せられるわ」
「それは、いつですか?」
「いつか、よ」
「そんなの待てませんから、子供たちを守る手段はありませんか?」
「そうねぇ――」
考え込むマスター。
「いっそのこと、セイント教会に潜入してみたら?」
予想外の提案。
この人、本気か?
「下働きの募集があるから、それに応募してみればいいわ」
「ちなみに、応募条件は?」
「若い女の子に限る」
「エリスに任せるんですか?」
首を横に振るマスター。
「全員」
「スラマロとゴレスケも?」
「もちろん、アルトちゃんも」
「俺……」
俺は呆然とする。
この人、正気か?
「ダーリン、女装!」
「アニキ、男の娘!」
「……冗談だろ?」
ニンマリとする三人。
「待って、待って、待って! ちょっと待ってぇぇぇ――」
抵抗する間もなく、マスターの部屋に連れて行かれる。
気づいた時には――
「あたし、アシュミー……」
女装させられて、帰宅したエリスと対面していた。
「ひょっとして、アルト君?」
「……アシュミー」
「似合ってるよ?」
「取ってつけたように、褒めるなよ!」
「だって、あはははははっ!」
こらえきれずに笑い出すエリス。
「あはははははっ!」
釣られて笑い出す仕掛け人たち。
「こんなに笑われるんだから、潜入は無理だろ!」
当然の指摘に対して、
「ダーリン、ギャップに笑っちゃうんですけど、見た目はグーですよ……プッ!」
「アニキ、声さえ何とかすれば、女の子に見えなくもないんすよ……プッ!」
「アルト君、黙って笑ってれば、それなりの美人だよ……プッ!」
「アルトちゃん、専用の飴を舐めれば、隠し通せるわ……プッ!」
意外な答えが返ってくる。
「手を加えれば、行けるんだな?」
「プー、クスクスクスクス!」
「お前ら、全員ぶん殴る!」
追いかける俺と、逃げ回る四人。
「そういうことだから、探りを入れましょう」
「具体的には、どうするんですか?」
「紹介状を手に入れるから、それを持ってセイント教会に向かいなさい」
「下働きとして、合法的に潜り込むんですね?」
追いかけっこに飽きたため、本題に戻っている。
さっきのやり取りは、時間の無駄?
俺にとっては、必要なことなんだよ!
「本当に俺も、潜り込むんですか?」
「情報を集めるだけなら、エリスちゃんだけでもいいわ」
「でも、もしもの場合を考えると、全員で潜り込んだほうがいい?」
「スラマロちゃんとゴレスケちゃんが加わっても、戦力に変化はないでしょ」
言われてみると、その通りだ。
「そもそも、子供たちを連れて帰れたのは、アルトちゃんのおかげよ」
「みんなのおかげですよ」
「あなたがいなければ、失敗していたわ。――そうでしょう、エリスちゃん?」
マスターは、エリスに話を振る。
「今回の作戦には、アシュミーちゃんは必須です!」
「アシュミーちゃんはやめて……」
「そういうことだから、アルト君、協力して?」
「わかった、協力する」
仕方ないから、受け入れる。
「ダーリン、喜んでますよ?」
「アニキ、嬉しそうっすよ?」
「お前ら、怒るぞ!」
俺の抗議を無視して、四人は楽しそうに笑った。
お読みいただき、ありがとうございます。
潜入作戦の元ネタは、鬼滅の刃の遊郭潜入作戦です。
新ヒロインも登場しますから、期待していてください。




