第3話 テイマーとスライム
俺とスラマロは道なりに進んでいる。
通路は、狭いものの暗くはない。
そのため、不自由することなく先に進める。
「ダーリンの話からして、扉を開けるための方法は二つありますね」
「二つ?」
「一つは、苦しむものを見捨てること。もう一つは、苦しむものを助け出すこと」
「勇者パーティは前者を選択して、俺たちは後者を選択した?」
「そう考えると、扉が開いた説明がつきます」
今なら勇者パーティの、不可解な対応も理解できる。
過剰な心配も異常な期待も、俺を『仲間』にするための演技だ。
そうしないと、扉を開くための条件を満たせなかったんだ。
「レジェンドテイマーなのに、扉を開くための生贄にされたんですか?」
「人生が好転し始めたのは、お前と出会ってからだよ」
「マロと出会う前は、そんなにひどかったんですか?」
「『成長限界の呪い』のために、能力が成長できないんだよ」
「最悪の呪いですね!」
思い返してみると、俺の人生は苦難の連続だった。
それが、急激に変わりつつある。
スラマロとの運命の出会いによって。
「ダーリンが狙われたのは、その性格のためですね」
「問題は、俺の性格?」
「連中は、向上心のある素直な少年を選んだんですよ」
「『成長限界の呪い』を受けた、孤児を選んだんじゃないのか?」
「結果論ですね。前提条件は、騙せること。ダーリンは、人がよ過ぎるんですよ」
「これからは、気をつけるよ。それに引き止めてくれよ、相棒」
俺の言葉に、スラマロは満足げに笑う。
「話を先に進めると、問題はレジェンドスキルですね」
「『性質変化』に、問題があるのか?」
「『成長限界の呪い』なのに、運命変化のスキルですよ」
「運命が切り開かれたと、スラマロは言いたいのか?」
「個人的には、そう考えてます。当事者であるダーリンの考えは?」
「そう願いたいよ。すごいスキルを貰っても、レベル1のままなのは困るから」
俺たちの進んでいる道は、勇者パーティが進んでいる道とは異なる。
勇者パーティは左の扉に、俺たちは右の扉に、それぞれ入ったからだ。
「本来は英雄だから、レジェンドスキルを得られるかもしれないんです」
「ふむふむ」
「ダーリンの場合、レジェンドスキルを得たから、英雄を目指すんです」
「俺は、強制的に英雄への道を歩まされるのかよ?」
使い捨てるだけの仲間を用意するような、悪党とは異なる道。
それが、大切なことのように思える。
「ダーリン、英雄になりたくないんですか?」
「英雄以前に、冒険者になりたいよ……俺は万年志願者だ」
「今のダーリンなら、SSSランクの冒険者でもなれそうですよ」
「過大評価だよ」
「マロとダーリンの力を合せれば、間違いなくなれますよ!」
スラマロに言われると、本当になれそうに感じる。
そこには勇者パーティのような、打算がないからだろう。
「そういうスラマロは、どうして罠にはまっていたんだ?」
「叡智の儀式のために洞窟に向かったところ、転送装置が発動したんです」
「叡智の儀式?」
「一族に伝わってる儀式です。試練を突破すると、叡智を得られるんです」
成人の儀式みたいなものだろう。
「ちなみに無知の賢者という存在から、叡智を得られるそうです」
「無知なのに、叡智?」
「無知の知でしょ。知らないものほど知ってるし、知ってるものほど知らない」
「スライム哲学かよ?」
博識のスラマロの一族らしい儀式だ。
「転送装置が発動したのは、スラマロのイタズラのせいか?」
「濡れ衣ですね。気づいたらこの遺跡に飛ばされて、あの部屋にいました」
「それなら、家に帰りたいんだろう?」
「寄りたいですけど、帰りたくはないですね」
スラマロの返答は、不可解そのもの。
「儀式は、続いてます。ダーリンとの出会いは、その一環でしょ」
「スラマロの役目は、俺の冒険を手助けすること?」
「ダーリンは、間違いなく運命の相手です」
「俺は、賢者じゃないぞ?」
「叡智の賢者に、力を引き出してもらったんでしょ? 事実上の後継者ですよ」
話の区切りに合わせて、開けた場所に着く。
そこには、ものがたくさん散らばっている。
その中には、鉱物らしきものも含まれている。
「マロの出番ですね!」
「スラマロ?」
止める間もなく、スラマロは石を丸呑みする。
パクリ!
「ふおおおおおお!」
叫び声に続いて、スラマロの色と形が一時的に変わる。
色は、水色から赤銅色へ。
形は、丸から四角へ。
大丈夫なのか?
「ふふふふふふ」
「スラマロ……?」
「ブロンズ・スラマロ・セイント!」
スラマロは、鎧をまとった拳闘士みたいなポーズを取る。
「心配させるなよ!」
「食べられると思ったし、食べたいと思ったんですよぉ」
「そんなに食い意地が張っているのか?」
「これが、イータースライムの性質なんですねぇ」
「イータースライム?」
聞き慣れない言葉に、引っ掛かる。
「食べることにより、強くなるスライムですよ」
「食費、すごそうだな!」
「元はロイヤルスライムだったんですけど、今はイータースライムですね」
「変化したのは、契約のためか?」
「それ以外考えられませんね。念のために、ステータスを調べてみてください」
スラマロの言葉に従う。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
名前・スラマロ
職業・イータースライム
レベル・1
攻撃・30(銅鉱石捕食による能力値上昇+10)
防御・30(銅鉱石捕食による能力値上昇+10)
敏捷・30(銅鉱石捕食による能力値上昇+10)
魔力・180(銅鉱石捕食による能力値上昇+10)
技能・大食い(食べることにより力を得る、レアスキル)
耐性・毒耐性(毒に対する耐性を得る、ノーマルスキル)
契約・あり
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
「スラマロも、俺と同じくレベル1か」
「イータースライムになった時に、レベル1に下がったんです」
「レベル1なのに、能力値が非常に高くないか?」
「魔力はともかく、それ以外はダーリンのほうが高いですよね?」
「俺?」
「レベル1なのに、能力値が異常に高いんですよ!」
スラマロの指摘は、もっとも。
何しろ、レベル1の平均的な能力値は10。
才能のある人でも、倍の20。
レベル1なのにオール100なのは、天才を超えている。
「どうして俺たちの能力値は、こんなに高いんだろう?」
「ダーリンの場合、今までに努力した分が、能力に反映されてるんですよ」
「スラマロの場合、今までのレベルアップ分が、能力に反映されているのか」
「だから、これは誇るべきことなんです。何しろ、汗と涙の結晶なんですから」
努力したからこその、非常に高い能力値。
今までの努力は、決して無駄じゃなかった。
そうわかっただけでも、今回の一件は重要だ。
「『性質変化』も、すごいですね」
「どうすごいんだ?」
「パーティの入手経験値倍増と成長率上昇……さすがレジェンドスキル」
「そんなにすごいのか?」
「サブ効果なのに、メイン効果並みにすごいんですよ!」
感激するスラマロ。
「それより、食べる時には断りを入れろよ」
「金目のものは、取っておきたいんですか?」
「お前の身が、心配なんだよ」
「これからも心配かけると思いますから、生暖かく見守っててくださいね!」
「プロポーズかよ!」
言葉とは裏腹に、俺はワクワクしている。
なぜなら、スラマロのような対等の存在は、生まれて初めてだからだ!
お読みいただき、ありがとうございます。
今後の方針についてお伝えします。
物語として一区切りつくところまでは、毎日投稿する予定です。