第28話 エリスの告白
目覚めると、窓の外は真っ暗になっていた。
寝ぼけている仲間を両肩に乗せてから、一階に下りる。
すると、心配した様子のマスターと出くわす。
「マスター、心配事?」
「エリスちゃんが、部屋にこもってるのよ」
「調査への同行を拒否したせいですね」
「当然の判断ね。ただ、きちんとした理由があるのなら、認めてあげなさい」
マスターの言葉を背にして、ギルドを後にする。
「マロ、ペコペコ……」
「オレ、ネムネム……」
「夜食ぐらいは、食べてから行こう」
目的地に向かう途中、屋台で夜食を買い求める。
スラマロは元気を取り戻して、パクパク食べている。
ゴレスケは軽く食べると、クゥクゥ眠っている。
「下水道への出入り口には、見張りがいるぞ」
目的地には、二人の見張りがいる。
ただ、どっちもやる気がない。
その証拠に、アクビをしている。
「どうする……誰だ!」
気配を感じて振り返ると、そこにいたのは――
「エリス!」
「マスターに無理を言って、外出の許可を貰ったの」
「どうして、そうまでして来たかったんだ?」
「テーブルの上にあった指輪と人形に、見覚えがあるの」
「ひょっとして、一緒に捕まっていた子供たちのもの?」
力なく頷くエリス。
「ここに来れば離れ離れになった仲間と、再会できると思ったんだね?」
「うん、どうしても会いたいの」
エリスの力強いまなざしは、こちらに向けられている。
「いろいろ言ったのは、本当に君を守れるのかどうかわからないからなんだ」
「アルト君なら、守れるよ! それに、あたしもがんばる!」
俺とエリスは頷き合う。
「頼りになる仲間もいますよ!」
「役に立つ仲間もいるっすよ!」
「二人も言っているから、一緒に行こう!」
エスコートみたいに手を差し出すと、
「みんな、ありがと……」
エリスは涙ぐみながら手を取る。
「涙は、仲間と再会した後にしようぜ!」
そう意気込んだものの、出入り口に近づけない。
やる気はないものの、見張りがいるからだ。
中に入るためには、見張りを排除する必要がある。
「どうする?」
「色仕掛けですね!」
「エリスが?」
「オレとアネキで!」
立候補するスラマロとゴレスケ。
「スラリーヌはともかく、ゴレ美?」
「アニキ、オレたちに『性質変化』を使って!」
「わかった、『性質変化』!」
「へーんしん!」
「スラマロはともかく、ゴレスケは変わらないじゃないか……うおっ!」
ビックリする。
なぜなら、そこにいるのは――
人間化、さらに言うと、絶世の美少女と化したゴレスケ!
「ゴレアンテ!」
「ゴーレム娘かよ!」
「ダークエルフ娘ゴレ」
「ゴレ出ているぞ?」
ゴレアンテは、キュートなポーズを取っている。
「負けた……」
「エリス、魔物娘だぜ」
「絶世の美少女だよ?」
「中身は、ゴレスケだぜ」
「あたしとアルト君だと、見えているものが違うんだね」
エリスは苦笑する。
「スラリーヌ、ゴレアンテ、頼んだぞ!」
「ほーい!」
「あーい!」
スラリーヌとゴレアンテは見張りに近づく。
「すんげぇ美人!」
「すんげぇ可愛い!」
自分たちに見とれる見張りの懐に入ると――
「うりゃ!」
ハイキックを繰り出すスラリーヌ。
「おりゃ!」
ローブローを繰り出すゴレアンテ。
「「うげええええええええ!」」
隙を突かれた見張りは地面に倒れると、そのまま意識を失う。
「色仕掛けじゃない!」
「物理攻撃だよね!」
驚愕する俺とエリス。
「「作戦成功!」」
ハイタッチする二人。
「スラリーヌ、可愛かったゴレ?」
「ゴレアンテ、美しかったスラ?」
「入れ替わってる!」
突っ込むエリス。
「言いたいことはいろいろあるけど、目立つから元に戻ってくれ」
「ほーい」
「あーい」
次の瞬間――
スラマロとゴレスケに戻ると、俺の左肩と右肩に乗る。
「下水道に入ろう」
俺たちは下水道に降りた。
下水道の中は深夜だから暗かったものの、悪臭は減っていた。
本格的に調査するために、ゴミ掃除をしたのかもしれない。
その証拠に、別のにおいがする
「お香が焚かれているな?」
道路には、煙が充満している。
そのため、ほとんど視界が利かない。
その代わりに、敵に見つからずに進めそうだ。
「ゴレスケ、ミントアミュレットに変化してくれ」
「臭くないわけじゃないし、変化は必要っすね」
「それじゃあ、進もう」
ミントアミュレットの光を頼りにして、右の通路を進む。
「問題は、この先だな?」
そこは、昼間に代理人が意味深な態度を取っていた看板の前。
「魔物注意と、書かれてるよ?」
「元から魔物はいるのに、そう書かれる理由は?」
「すごく危険」
エリスの感想は、もっとも。
退路を確保しつつ、奥に進む。
しばらくすると、物騒な集団を見つける。
その中に、見覚えのある者が含まれている。
「あたしを追ってきた人たちだよ!」
それはつまり――
「今回の問題とエリスの問題と、根っこは同じみたいですね」
「スラマロちゃん、どういうこと?」
「代理人の目的は、エリスの仲間の捜索と確保でしょう」
「急がないと、まずいね? 全員捕まって、連れ戻されちゃう!」
焦るエリス。
「先を急ごう」
事態の緊迫化を受けて、俺たちは早歩きになった。
お読みいただき、ありがとうございます。
ヒロインとしてのエリスの参戦です。
アルトのみならず、エリスへの応援もよろしくお願いします。




