第24話 依頼人の謎
「悪臭を消した上、明かりにもなる。ゴレスケは、役に立つな?」
「マロと同じぐらいには、役立ちますね」
「遠回しに自分を持ち上げるなよ!」
実際は、どっちも同じぐらいに役立っている。
「暗さと臭さを除くと、探索は難しくないな」
通路の幅も天井の高さも余裕があるため、狭苦しい印象はない。
さらに汚水の流れているところは決まっているため、邪魔にならない。
今の不満は、視界の狭さぐらいだ。
「ダーリン、天井に敵!」
「飛行できる魔物か」
「落下してきます!」
「迎え撃とう」
息を合せる。
「『性質変化』!」」
次の瞬間――
スラマロは、ブロンズソードに変化する。
「マナスラッシュ!」
ザシュ!
落下するようにして襲ってきた敵を切り倒す。
それは――
「巨大なコウモリ?」
「ジャイアントバットですね」
「コウモリの魔物だろ」
「いずれにしても、マロたちの相手にはなりませんよ!」
スラマロの言う通りだ。
ジャイアントバットは、たいした敵じゃない。
一匹ずつ確実に仕留めていく。
「このまま押し切るぞ……逃げた!」
仕留め損なった数匹が、天井に張り付いてしまう。
「汚いぞ、降りて来い!」
「ダーリン、見苦しいですよ」
「挑発以外に方法はあるのか?」
「もちろん、あります。ダーリン、『性質変化』をお願いします」
「わかった、『性質変化』!」
「へーんしん!」
次の瞬間――
スラマロの変化した武器は、ブロンズボウ!
「ボウの戦闘特技は、ショットですよ?」
「ショット? マナショットだろ」
確認を済ませると、手ごろな一匹に狙いをつける。
「マナショット!」
ビュン!
見事に撃ち落す。
「一発かよ!」
「一発ですよぉ!」
驚く俺と、喜ぶスラマロ。
「マナショット! マナショット! マナショット!」
ビュン! ビュン! ビュン!
天井に逃げたジャイアントバットを、撃ち落し続ける。
「弓はともかく、矢はどこから来たんだ?」
「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
「状況的に、シャレにならないネタはやめろ!」
「もちろん、冗談ですよぉ」
演技をやめるスラマロ。
「もしかして、分裂したのか?」
「分裂しません」
「ひょっとして、合体しているのか?」
「合体しません」
スライムの存在意義を否定するスラマロ。
「それなら、何だよ?」
「秘密です」
「暗黒物質かよ!」
「ふふふふふふ、我こそスライム次元の中心、スラマロ・カオス!」
ブルブル!
スラマロのボケにウケたらしく、ミントアミュレットは震える。
「本当は老廃物を矢として、撃ち出してるんですよ」
「リサイクル!」
「ただ、数は限られますから、無駄撃ちは避けてください」
節約を求めてくるスラマロ。
「依頼達成だな?」
見渡すと、すべてのジャイアントバットが死んでいる。
その時、心地よい音色が聞こえ始める。
テレテレッテッテッテー♪
「「「レベルアップ!」」」
この時ばかりは、全員の声が揃う。
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名前・アルト
職業・レジェンドテイマー
レベル・7
攻撃・160(レベルアップによる能力値上昇+10)
防御・160(レベルアップによる能力値上昇+10)
敏捷・160(レベルアップによる能力値上昇+10)
魔力・160(レベルアップによる能力値上昇+10)
技能・性質変化
レジェンドの眼光
レジェンドの御手
耐性・レジェンドの証
契約・あり
名前・スラマロ
職業・イータースライム
レベル・7
攻撃・75(レベルアップによる能力値上昇+5)
防御・75(レベルアップによる能力値上昇+5)
敏捷・75(レベルアップによる能力値上昇+5)
魔力・225(レベルアップによる能力値上昇+5)
技能・大食い
武器化
耐性・毒耐性
契約・あり
名前・ゴレスケ
職業・エレメンタルゴーレム
レベル・7
攻撃・80(レベルアップによる能力値上昇+5)
防御・80(レベルアップによる能力値上昇+5)
敏捷・80(レベルアップによる能力値上昇+5)
魔力・150(レベルアップによる能力値上昇+5)
技能・精霊の加護
防具化
アーティファクト化(アーティファクトに変化できる、派生スキル)
耐性・麻痺耐性
契約・あり
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今回の敵は弱いから、レベルは上がらないかもしれない。
その予想に反して、レベルは上がっている。
前回とは違い、いい意味で予想が外れた形だ。
「戦利品は、どうする?」
「さすがに探したくないですねぇ」
ブルブル!
渋っていると、ミントアミュレットが震える。
「まさか、制限時間……?」
ミントアミュレットの照らし出した先には――
古ぼけた指輪。
「落し物、か。金になるとは思えないけど、貰っておこう」
「ダーリン、守銭奴が過ぎると、ゴレスケに嫌われますよ」
「当のゴレスケが教えてくれたんだから、問題ないだろ」
依頼を達成した俺たちは、来た道を引き返す。
「「「すうぅ……はあぁ!」」」
外に出ると、一斉に深呼吸する。
「クンクン、かなりにおいますね……」
「全員、一定レベル以上の臭気っすね……」
「ギルドに向かう前に、風呂に入ろう……」
今後の予定を決めていると、代理人一行が姿を見せる。
「我々よりも先に到着するとは、さすがは売り出し中の冒険者ですね」
「相手が弱かっただけですよ」
「そう言えば、今回の依頼の意図は何なんです?」
「私の主である依頼者の望みは、魔物による人々への被害をなくすことです」
「なくす?」
言葉とは裏腹に、熱意は伝わってこない。
「現実的には被害の根絶ではなく、被害の減少でしょう。それに――」
「それに?」
「そこにいる魔物ぐらい、従順に調教すればいいのです」
「あんた――」
文句を呑む。
左右から、同時に服を引っ張られて。
「ダーリン、駄目ですよ」
「アニキ、大丈夫だから」
「お前ら……わかった」
仲間の健気さに、怒りを静める。
当事者は怒っていないのに、関係者が怒るのは筋違いだろう。
代理人はそのやり取りに気づかずに、話を進めている。
「あなたたちの活躍は、予想以上でした。その分、報酬に上乗せしておきます」
「ありがとうございます」
「次の機会を楽しみにしていますよ、冒険者様」
いろいろ引っ掛かるものの、無事に依頼を達成した。
お読みいただき、ありがとうございます。
謎の依頼は、放置されたままの問題と関わっています。
それに絡み、エリスに活躍の機会が訪れるでしょう。




