第23話 不可解な依頼と法外な報酬
俺は依頼書片手に、指定された場所に向かっている。
「ダーリン、報酬も不明なんですか?」
「報酬は書いてあるぞ……おぉ」
「どうしました?」
「俺たちの生活費、三か月分だ」
「三か月分!」
喜ぶスラマロ。
「アニキ、高額なんすか?」
「前回の依頼料の数倍だ」
「危険な依頼、たとえば護衛っすか?」
「その場合、先に言ってもらう取り決めだ」
「取り決め!」
驚くゴレスケ。
「ただ、護衛以外にこんな高額な依頼があるのか?」
答えに迷っている間に、指定された場所に着く。
「下水道の出入り口……なるほど」
下水道関連の仕事は3Kだから、高額なのも納得できる。
「ギルドから派遣された冒険者様ですね? 私は依頼者の代理人です」
そう名乗ったのは、冷たい印象の男。
周囲には、数人の屈強な男がいる。
探るような視線に気づいたらしく、代理人は応じる。
「彼らは護衛です。それより、両肩の魔物は?」
「仲間です」
「大丈夫なのですか?」
「もちろん、大丈夫です。契約していますし、何より気のいい連中です」
「そこまで言うのなら、あなたを信じましょう」
代理人は暗に「魔物を信じない」と伝えてくる。
「今回の依頼は、下水道の魔物の駆除です」
「下水道だから、相場よりも依頼料が高いんですね?」
「それもありますが、依頼者の慈悲によるものです」
相手の恩着せがましい態度に、俺はうんざりする。
「駆除の範囲は、下水道全域じゃないですよね?」
「もちろん、指定した範囲内です」
「それが、全域などというオチはないですよね?」
「そういった点は、心配しないでください。狭い範囲の、少ない魔物の駆除です」
俺の反応に、代理人は苦笑する。
「ただし、約束事があります」
「約束事?」
「一、私たちは独自に魔物を駆除しますから、干渉しないでください」
「二つ目は?」
「二、万が一を警戒して、あなた方は全員固まっていてください」
予想に反して、代理人の指示は優しかった。
「依頼に関しては、他言無用じゃないですよね?」
「言いふらされて困るようなことは、こちらにはありません」
「もちろん、言いふらすような真似はしません」
「期待していますよ、売り出し中の冒険者様」
一通りの説明が終わると、下水道に入る。
「我々は、左に向かいます。あなた方は、右に向かってください」
「合流は?」
「目的を達成したら、後はゆっくりしていてください」
「目的を達成できなかったら?」
「夕方には依頼を切り上げてください」
待遇のよさに、不審を覚える。
本当にこれは、相場の数倍以上の依頼なのか?
スラマロもゴレスケも怪しんでいるらしく、意味深な視線を送ってくる。
「繰り返しになりますが、指定された範囲に留まってくださいね?」
「わかりました」
念を押されると、二手に分かれる。
代理人はともかく、従者はこちらを見ている。
指示に従っているかどうかを確かめているんだろう。
「気分が悪いな」
「疑われてることですか?」
「お前たちが、危険分子扱いされたことだよ」
それが、代理人を毛嫌いする理由だ。
「ダーリン、短気は損気ですよ!」
「アニキ、笑う門には福来るっすよ!」
「お前ら、俺よりよっぽど人ができているよな?」
俺は表情を緩めると、指定された区画に向かう。
「暗いですね?」
「我慢しろ」
「臭いですね?」
「我慢しろ」
「臭さは、我慢できないでしょ!」
スラマロの文句は、もっとも。
暗さはともかく、臭さは我慢できない。
出入り口周辺はともかく、進んだ先は臭くてたまらない。
これなら、割り増しの依頼料も納得できる。
「さっきから無言だけど、ゴレスケは大丈夫なのか?」
「オレはゴーレムだから、悪臭などは遮断できるっす」
「マジかよ!」
言葉通り、ゴレスケは平然と俺の右肩に座っている。
「アニキとアネキは、悪臭に耐えかねてるんすか?」
「正直、耐えられないね」
「それなら、オレみたいに遮断するっすか?」
「そんなこと可能なのか?」
「オレの変化したアミュレットに、清涼の効果を与えればいいんすよ」
「お守りか? ゴレスケ、頼む!」
魔力の込められたアーティファクトの中には、特殊なものも少なくない。
その中には、所有者を毒から守るものもある。
ゴレスケの変化するアミュレットは、悪臭対策のお守りだろう。
「行くぞ!」
「あーい!」
息を合せる。
「「『性質変化』!」」
次の瞬間――
ゴレスケは、光を放つアミュレットに変化する!
「アニキ、ミントアミュレット!」
ゴレスケの言葉に、反応できない。
耐え難かった臭気が、消え失せたために!
「ゴレスケ、よくやったぞ! スラマロ……どうした?」
「い、息を止めるのが、げ、限界――」
「ゴレスケのおかげで、状況は改善したぞ!」
「ほ、本当ですか……ぷはぁ、助かりましたよ、ゴレスケ!」
生気を取り戻すスラマロ。
「清涼に集中すると会話も最低限になるから、他を頼むっす!」
言葉通り、ゴレスケは無言になって清涼の効果を維持する。
「この間に、依頼を達成しよう!」
俺は首にミントアミュレットをかけると、魔物を探し始めた。
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