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第22話 最初の成り上がり、スター冒険者誕生

 初クエストの報酬は、残念ながら貰えなかった。

 ゲルドは捕まってしまったし、山賊は逃げてしまったからだ。

 その代わりと言ってはなんだけど、国から表彰されることになった。


「冒険者アルト、前に出なさい」


「はい」


 指示に従い、俺は一歩前に出る。


 今まさに表彰式が行われている。

 飾り立てられたギルドには、関係者が揃っている。

 俺、スラマロ、ゴレスケ、エリス、マスター、そして国からの使者。


「冒険者アルト、今回の事件における貴殿の活躍は、多大なものであった」


 そう告げてきたのは、国の使者であるお偉いさん。


 役職は説明されたものの、難しくて覚えていない。

 ただ、マスターとは顔見知りらしく、気さくにしゃべっていた。

 いい人だとわかっているけど、何者だよ、マスター?


「緊張しますね?」


「緊張するわね?」


 エリスはもちろん、マスターも緊張している。

 それだけ国からの表彰は、珍しいんだろう。

 成り上がりの象徴かもしれない。


「ドキドキ!」


「ワクワク!」


 スラマロとゴレスケは別だ。

 いつも通り、ソファーに寝転んでいる。

 ただ、企んでいることがあるらしく興奮した様子だ。


「よって、国は貴殿を表彰する」


「ありがとうございます」


 俺は表彰状を受け取る。


「採掘ギルド、並びに冒険者ギルドからの要望により、貴殿に褒美がある」


「褒美ですか?」


「採掘ギルドからの褒美は、謝礼金である」


「報酬ですね!」


「冒険者ギルドからの褒美は、二階級特進である」


「昇進ですね!」


 嬉しいサプライズに、俺は驚く。


「国からは、貴殿の要望により銘菓を授ける」


「俺の要望?」


「王家御用達の銘菓のため、仲よく味わって食べなさい」


「まさか――」


 振り返ると、スラマロとゴレスケは満面の笑みを浮かべている。


「お前ら……俺の分も残しておいてくれよ?」


 食欲最優先の仲間に、苦笑する。


「これからも、がんばりなさい。我々は、貴殿の活躍に期待しているよ」


 そう言い残して、国の使者はギルドを後にした。


「ふぅ、緊張したなぁ」


 銘菓をテーブルに置くと、


「お茶を用意するから、おやつにしましょう」


 エリスの指示によって、おやつタイムに入る。


「スラスラ!」


「ゴレゴレ!」


「エリエリ!」


「スラスラとゴレゴレはともかく、エリエリって何だよ?」


 俺のツッコミを無視して、三人は銘菓を堪能している。


「もう食べてるの? 全員、食いしん坊ね!」


 国の使者の見送りが済んだらしく、マスターはお茶に手を伸ばす。


「マスター、さっきの話は本当なんですか?」


「報酬と昇進の件なら、本当よ。もしかして、疑ってたの?」


「散々騙されてきたから、疑り深くなっているんですよ」


「心配しなくても、大丈夫。もう届いてるし、もう決まってるわ」


 マスターはカバンから、皮袋と紙片を取り出す。


 渡された皮袋と紙片の中身を確かめる。

 皮袋には、見たことがないぐらいの額のお金が入っている。

 紙片には、「Eランク冒険者認定書」と書かれている。


「マジだ、マジだ、マジだ、マジで俺は成り上がったんだ!」


 俺は喜びのあまり拳を突き上げる。


「「「「初クエスト達成、おめでとう!」」」」


 祝福の声が重なる。


「ありがとう、みんなのおかげだよ!」


 俺は感謝の気持ちを伝える。


「報奨金と二階級特進なんて、大盤振る舞いですね?」


「それだけ今回の事件は、国にとってショックだったのよ」


「口止め料ですか?」


「むしろ、逆。あなたは、汚点を隠すための英雄に選ばれたの」


「俺は、英雄ってガラじゃないですよ」


 成り上がりたいと、心の底から思っている。

 でも、成り上がることと祭り上げられることは別物だ。

 俺は、ゼノンみたいに勇者じゃないんだぜ?


「一つ、残念な報告があるわ。もちろん、異界のデーモンに関するものよ」


「警告と追跡は、うまくいかなったんですね?」


「ゲルドは素直に取調べを受けてるけど、その点に関しては期待できないの」


「それじゃあ、グレアムとゼノンの行方も不明ですか?」


「他の二人に関しては、一応調べてみたわ」


「結果は?」


 俺は期待せずに聞く。


「グレアムは、偽名ね。本名が不明だから、追跡できないわ」


「ゼノンは? 冒険者としても、勇者としても有名でしょう」


「ゼノンは国の上層部の中にもファンがいるから、黙殺ね。ただ――」


「ただ?」


「最近は、ずっと引きこもってるらしいわ」


「ゼノンは、欲望に押し潰されつつあるんですよ」


 俺は指摘する。


「そういうアルトちゃんも、欲望に押し潰されないように気をつけなさい」


「頼りになる仲間がいるから、大丈夫ですよ」


「それなら、いいわ。――エリスちゃん、後を任せるわ」


 マスターはエリスに後を任せると、奥に引っ込んだ。


「今回紹介するのは、マスター経由の依頼だね」


「前回も、マスター経由の依頼だろ?」


「マスターの人脈はすごいから、いろいろ回ってくるんだよ」


 警戒する俺と、説得するエリス。


「それに最近、ウチのギルドの評価が上がってるの」


「もしかして、俺の活躍のため?」


「うん、アルト君の活躍のため」


「二人とも、今の話を聞いたか?」


 仲間に話を振ると、


「ダーリンは、メタメタスライムですね」


「アニキは、ゴルゴルゴーレムっすね」


「レアモンスター扱いかよ!」


 仲間の評価に、がっかりする。


「心配しなくても大丈夫だよ、興味本位の依頼はマスターが断ってるから」


「俺の評価は、微妙なのかよ!」


「それよりも、今回の依頼だね。内容は、依頼者から聞くといいよ」


「今回は、依頼者も同行するの?」


 その点に引っ掛かる。


「正確には依頼者じゃなく、代理人。だから、注意が必要だね」


「ゲルドみたいに?」


「マスターによると、同行を希望するのは気難しい人らしいの」


「そっちの注意ね」


 中身は不明だけど、マスター経由の依頼だから危険じゃないだろう。


「そういうことだから、丁寧に接してね?」


「俺は新人の冒険者だぜ? 誰にでも丁寧に接するよ」


「お菓子を作って、帰りを待ってるよ!」


「おぉ、楽しみ!」


 俺たちは上がったテンションのまま依頼に向かった。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 やっと待望の成り上がりをお届けできました。

 ただ、これは最初の一歩に過ぎません。

 ここから、どんどん成り上がっていきます。

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