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第2話 覚醒テイマー

「どうする?」


 頭を切り替えようとして、失敗する。

 何度もひどい目にあってきたものの、今回は特別ひどい。

 ひど過ぎて、思考停止に陥っている。


「消えてる!」


 いつの間にか、光の壁は消えていた。

 俺は勇者パーティの一員としての、役目を終えたらしい。

 だが、後ろの扉はもちろん、前の扉も完全に閉まっている。


「く、苦しい……」


 光の壁の消失に合わせて、刺激臭を伴うガスが溢れ出す。

 間違いなく、毒ガスだ。

 それが、部屋全体に広がる。


「う、動けない……」


 ガスを吸い込むと、身動きが取れなくなる。

 頭も、体も、自由が利かない。

 このままだと、遠くないうちに死ぬ。


「どうする……あれは!」


 目に留まったのは、自分と同じ境遇の存在。


 それは――


 ゼリー状の生き物。

 生きている証拠に、丸っこい体は動いている。

 ただ、罠にはまっているらしく、穴から抜け出せない。


「スライム?」


 体は小さいから、子供のスライムだ。

 どういう事情なのかはわからないものの、スライムは罠にはまっている。

 このままだと俺と同じく、そのスライムも死ぬだろう。


「しょうがない――」


 力を振り絞って、スライムに手を伸ばす。

 スライムは、びくっと反応したものの身を任せる。

 やっと罠から逃れたスライムは、俺を見上げる。


「どうした?」


「――――!」


 見詰め合った瞬間――


 温かい光に包まれて、声が聞こえ始める。


 ――適応者である君は資格を示したことにより、機会を得た。


 ――適応者?


 ――私と同じく生まれながらに、『成長限界の呪い』を受けた運命の子だ。


 ――資格?


 ――先ほどの三人とは違い、己を犠牲にして苦しんでいるものを助けたことだ。


 ――機会?


 ――『成長限界の呪い』から、解き放たれることだ。


 ――そういうあなたは?


 ――君たちには賢者として知られている。


 ――叡智の賢者?


 ――君は秘められた力を引き出して、呪いに抗うことを望むかね?


 ――望む!


 直後――


 温かい光は夢みたいに消えて、刺激臭に襲われる。


「さぁ、行くんだ。お前だけでも、生き残れ」


「マロだけ生き残るのは、嫌ですねぇ」


「しゃべった……!」


 驚いていると、さらに驚くべきことが起きる。

 スライムは、飛びついてきた。

 よりによって、俺の顔に!


「苦しい……苦しくないぞ!」


 そのスライムには、毒耐性のスキルがあるらしい。

 それが顔に張り付いたため、防毒の効果を発揮している。

 要するに、窮地を救ったことへの恩返しだ!


「右の扉が開きましたから、そこに逃げ込みましょ!」


「右の扉? わかった、ガスの中を突っ切るぞ!」


 スライムマスクをかぶった俺は、右の扉に向かって走る。

 ガスの後遺症を除くと、自分でも驚くぐらいの身体能力を発揮している。

 それでも向かっている間に、扉は閉まり始める。


「俺たちは、生き残る――『性質変化』!」


 扉に向かって、手をかざしながら叫ぶ。

 それが、何を意味するのかはわからない。

 ただ、生存本能に従い、手を動かして口にしただけだ。


 すると――


 閉まる寸前の扉は、一時的に止まる。

 その僅かな隙間に、飛び込む。

 ガシャンという、扉の閉まる音を置き去りにして!


「「ふぅ、助かった……」」


 安堵の吐息は、一つじゃなく二つ。


 それが意味するのは――


「お前、本当にしゃべれるのか!」


「人の言葉ですよね? 前はしゃべれなかったんですけど、今はしゃべれますね」


「どうして、人の言葉をしゃべれるようになったんだ?」


「契約のためでしょう」


「契約?」


 スライムの言葉に、引っ掛かる。


「自身のステータスを調べてみてください」


「ステータスねぇ……うおっ!」


 ビックリする。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


 名前・アルト

 職業・レジェンドテイマー

 レベル・1

 攻撃・100

 防御・100

 敏捷・100

 魔力・100

 技能・性質変化(運命を切り開くテイマー専用レジェンドスキル)

 耐性・不明

 契約・あり


▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


「確かに契約しているな。それに、『性質変化』というスキルがあるぞ」


「『性質変化』?」


「運命を切り開くテイマー専用レジェンドスキルらしい」


「レジェンドスキル!」


 相手はびっくりする。


「すごいのか?」


「歴史上でも数例しか確認されていない、伝説のスキルです」


「そんなにすごいものなのか!」


 自分もびっくりする。


「一つの職業を極めたレジェンドクラスだけが、たどり着けます」


「歴史的には、どんな偉人がたどり着いたんだ?」


「代表例は、叡智の賢者ですね」


 俺は、いつか叡智の賢者みたいに伝説になるのか?


「それに、俺はたどり着いた?」


「たどり着いたでしょ、レジェンドテイマーなんだから」


「レジェンドテイマーだけど?」


「レジェンド表記は、その職業の頂点を示してます」


「俺は、テイマーのトップなのか!」


 覚醒のきっかけは、何だろう?


「マロと契約したからですよ!」


「破滅フラグ?」


「マロと契約して、魔法少女になってよ?」


「ヤバイだろ!」


 冗談を言い合う。


「それより――」


 スライムを真正面から見る。


「いやぁん!」


「どうして、恥ずかしがるんだよ!」


「うふぅん!」


「どうして、喜ぶんだよ!」


 スライムは体をくねらせている。


「ヒロインじゃなく、スライムだろ?」


「スライムでも、ヒロインですよ」


「乙女なの?」


「お、と、め♥」


「ハートマークいらねえよ!」


 こんなに楽しいのは、いつ以来だろう?

 それこそ、生まれて初めてかもしれない。

 今の楽しさに比べたら、勇者パーティなど無価値に等しい。


「俺は、アルト。よろしく、相棒!」


「マロは、スラマロ。よろしく、ダーリン!」


 俺とスラマロは、誓いを立てるように拳を合わせた。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 読みやすいように、分割しました。

 PV稼ぎなどではないため、ご了承ください。

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