第18話 決戦・悪代官ゲルド
地上に出ると、そこは屋敷の裏庭だ。
見覚えがあると思ったら、ゲルドの屋敷だった。
鉱山に向かう際に通りがかったから、覚えている。
「不正の証拠を探そう」
予想に反して、屋敷は無人だ。
兵士はもちろん、家政婦なども見当たらない。
秘密を隠すために、追い出したのか?
「追い出したんじゃなく、逃げられたんですよ」
「逃げられた?」
「鉱山の労働者に対する仕打ちを思い出してください」
「ひどいな」
「ひどいですよね? 夜逃げされたんですよ」
「だから、屋敷は荒れ放題なのか!」
スラマロの指摘に、俺は納得する。
「ゲルドは、給料を出し惜しみしたんすね」
「ケチかよ?」
「それどころか、タダ働きっすね」
「ブラック経営者かよ!」
「ワータミをリスペクトしてるんすよ」
「今は、ホワイトらしいぞ」
ゴレスケの説明に、俺は苦笑する。
「中に入ろう」
鍵のかかっていない扉から、屋内に入る。
中は広いものの、一人暮らしの安宿みたいに狭く感じる。
金の延べ棒が、至るところに積み上げられているからだろう。
「競争社会とはこういうものだとしても、納得できないな」
「そこに明らかな不公平があるとしたら、最低ですね」
「それが犯罪行為によるものだとしたら、最悪っすね」
突き詰めると、問題は社会のルール。
ゲルドの行いは、違反の極みだ。
だからこそ、俺たちは憤っている!
「これ、不正蓄財の証拠だろ?」
「言い逃れのできない証拠ですね」
「そんなものを見せびらかすなんて!」
「ゲルドは、狂ってるのかもしれませんね」
潜入というよりも、侵入だ。
そのため、武装している。
左手にブロンズシールド、右手にブロンズソード。
「思ったよりも、簡単だったな?」
「アニキ、地割れに吞み込まれた挙句、オークの群れを差し向けられたんすよ?」
「言われてみると、大変だな」
「助かったのは、三人の力を合わせたからっすね」
一人でも欠けていたら、目的を達成できなかっただろう。
「これから、どうする?」
「屋敷に火をつけて、騒ぎを起こしましょ」
「過激だな」
「ゴレスケたちを散々苦しめて、ダーリンを罠にはめた悪党ですよ?」
「悪党に人権はない、か」
スラマロのみならず、ゴレスケも頷く。
「容赦すると、足をすくわれますよ」
「小僧とは違い、そのスライムは賢いな? もっとも、時すでに遅しだが!」
声のしたほうを向く。
予想に反して、ゲルドのみ。
ただ、主人を守るように陽炎が揺らめいている。
その正体は、異界のデーモンだろう。
「ゲルド!」
「呼び捨てにされるほど、私はお前と親しかったか?」
「お前は覚えていなくても、俺は覚えているぞ!」
「どこか見覚えがあるな……くっ、頭が痛い――」
よろめいたゲルドは陽炎に支えられる。
「小僧、お前の顔を見ると、頭が痛くなる。だから、お前たちは確実に消す!」
「敵対認定とは光栄だよ!」
「光栄に思ったまま死ね!」
距離を置いて、俺とゲルドは睨み合う。
「デーモン、やれ!」
「はい、ゲルド様!」
人型になった陽炎は、こちらに向かってくる。
「二度も通用するかよ!」
デーモンを避けて、ゲルドに狙いを定める。
「デーモンを無視だと……? デーモン、戻れ!」
「その前に、終わらせる!」
一気に距離を詰める。
「マナスラッシュ!」
ザシュ!
「ぐはっ!」
ゲルドを切り倒す。
「止めだ……デーモンかよ!」
止めを刺す寸前、ゲルドの元にデーモンが戻る。
「デ、デーモン……ち、力をくれ……!」
「あなたの血となり、肉となりましょう!」
直後――
ゲルドは金ピカの鎧に覆われる!
「デーモンが、変化したぞ!」
「変身するなんて、マロたちみたいですね!」
「アニキの力、『性質変化』に似てるっすね!」
警戒する俺と、哄笑するゲルド。
「はっはっはっはっはっ! この力さえあれば、私の夢も叶う!」
「お前の夢?」
「貧しかった幼いころに夢見た、世界一の金持ちになることだ!」
「たくさんの人を犠牲するのは、そんな下らない夢のためかよ!」
「私の夢は、人々の夢と一緒だ! お前も、私の夢の礎になれ!」
金ピカの鎧により傷は癒えたらしく、ゲルドはこちらに迫って来る。
「マナスラッシュ!」
キンッ!
金ピカの鎧によって、ブロンズソードは弾かれる。
「弾かれた! そんなに硬いのか?」
「ダーリン、硬いんじゃなく、効かないんです!」
「物理耐性みたいなものか?」
「それこそ、物理無効ですね」
「確かめてみよう」
ステータスを確かめようとして、失敗する。
すべての項目に、靄がかかっている。
スラマロの指摘通り、特殊能力を持っているらしい。
「ダーリン、ステータスの把握は無理ですね」
「靄がかかっているんだろう?」
「異界のデーモンの能力ですね」
「それなら――」
俺の言葉は途切れる。
「死ね!」
ゲルドに殴りかかられて。
「死ぬかよ!」
ブロンズシールドによって、ゲルドの一撃を受け止める。
ドーン!
デーモンに勝るとも劣らない強烈な一撃。
「「「くっ!」」」
俺たちは窓を突き破り、外に吹っ飛ばされる。
「二人とも、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
「大丈夫っす!」
「こちらの攻撃は通らない上、あちらの攻撃は強い――どうする?」
俺は覚悟を決めると、ゲルドを睨んだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
すみません、決着は次回に持越しです。
ただ、次回はすぐにお届けします。




