第16話 異界のデーモン
地上を目指して、道なりに進んでいる。
道は狭くないものの、非常に暗い。
そのため、夜目の利くゴレスケの誘導に従っている。
「左肩にスラマロ、右肩にゴレスケ、しっくり来るな」
「百人乗っても、安全ですね」
「百年待っても、安心っすね」
非常事態なのに、不安はない。
戦力が増えたこともあるけれど、それよりも仲間の加入が挙げられる。
頼もしさとともに、嬉しさを覚えるんだ。
「ゴレスケ、事情を説明してくれないか?」
「問題の始まりは、中央から赴任した役人の汚職っす」
「代官の不正蓄財だろう?」
「アニキ、勘がいいっすね」
「アニキ……いい呼び名だな!」
不満げなスラマロ。
「マロの指摘なんですけど?」
「アネキの指摘っすか」
「アネキ……いい響きですね!」
満足げなスラマロ。
「共闘してる人間によると、当初は許容の範囲内だったらしいんすよ」
「共闘しているのは、代官への抵抗のためだろう?」
「魔物側は、知性のある魔物。人間側は、鉱山ギルドの関係者」
「それ以外は、中立か?」
「中立を装った、オレたちの協力者っす」
代官以外は、味方。
そのくせ、敵側の有利に進んでいる。
その背景には、権力とコネが見え隠れする。
「ある時からあいつは利益を独り占めして、仕事だけを押し付け始めたんすよ」
「それでも耐え続けたけど、ついに耐えられなくなったのか?」
「無茶なノルマによって、魔物にも人間にも犠牲が出始めたんすよ」
ゴレスケの表情は深刻だから、犠牲者はたくさんいるんだろう。
「ゴレスケ、ゲルドの被害者の中に、命を落としたものはいるのか?」
「誰も命を落としてないっすね」
「今のところだろ?」
「このまま行くと、たくさんの命が失われるっすね」
「その前に、何とかしないといけないな」
俺とゴレスケは頷き合う。
「ゴレスケ、不正の告発をしなかったんですか?」
「アネキ、すべて握り潰されたんすよ」
「賄賂による口止めですね!」
納得するスラマロ。
「ゲルドは、どうおかしくなったんだ?」
「簡単に言うと、金の亡者に成り果てたんすよ」
「人間から怪物へと、生まれ変わったのか?」
「今のあいつは魔物の命も人間の命も、金より軽いと思ってるんすよ!」
憤慨するゴレスケ。
「ゲルドがおかしくなった理由に、心当たりはあるのか?」
「理由はわからないけど、時期ならわかるっす」
「それは、いつごろ?」
進むにつれて、道は明るくなっている。
「休暇の後っすね。具体的には、二週間ほど前っすね」
「俺を罠にはめた時か!」
「それ以降、人が変わったみたいなんすよ」
ゲルドの変化は、勇者パーティ壊滅の噂と関係があるんだろうか?
「そう言えば、ゲルドはデーモンと一緒にいたな」
「デーモン?」
「陽炎のように立ち上って、地面を割ったやつだよ」
「そいつは、悪魔っぽかったですか?」
興味を示すスラマロ。
「悪魔というよりも、ゲルドの分身みたいだったよ」
「……異界のデーモンですね」
スラマロの言葉は、深刻そのもの。
「異界のデーモンだとしたら、代官の首を飛ばせますよ」
「首に追い込めるんすか?」
「文字通り、首が飛びます」
「斬首!」
驚愕するゴレスケ。
「昔、異界のデーモンによって、大災害が引き起こされたらしいんですよ」
「だから、異界のデーモンを使役すると、厳罰に処されるのか!」
「ただ、異界のデーモンは昔話の存在です。証明する手立てがありません」
「それなら、どうする?」
「当初の予定通り、悪事の証拠を手に入れましょ」
単純だけど、大変な方法だ。
それでも――
俺たちなら、やり遂げられる!
「見覚えがあると思ったけど、ゲルドとは思わなかったな」
「ダーリン、忘れっぽい人?」
「勇者パーティが壊滅したと、噂を耳にしただろ」
「その噂は、ゼノンたちの流したフェイクニュースですね」
スラマロの指摘は、もっとも。
「勇者パーティ? 二人とも、何言ってるんすか?」
話についていけないゴレスケに、事情を説明する。
「使い捨てにするための仲間……ひどい話っすね!」
「それでも目障りだからといって、人を殺そうとするやつじゃなかった」
「今は銅貨一枚の利益のために、人を殺そうとするやつですよ」
「本当のクソヤロウになったみたいだな」
「あいつは悪い意味で変わって、アニキはいい意味で変わったんすね!」
進むにつれて道は、明るいものの狭くなってくる。
「ダーリン……何か飛んできます!」
「飛んでくる……矢か!」
ヒュン、ヒュン、ヒュン――
大量の矢が、降り注ぐ。
「まずい……!」
道が狭いために、退くことも避けることもできない。
「アニキ、息を合せて!」
「息……わかった!」
息を合わせる。
「「『性質変化』!」」
次の瞬間――
ゴレスケは、ブロンズシールドに変化する。
「これなら、行けるぞ!」
ブロンズシールドによって、降り注ぐ矢の雨を受け止める。
「敵は、人間か?」
「ダーリン、敵は人間じゃなく、魔物です!」
スラマロの指し示した先には――
「ブヒィィィ!」
人型の豚の群れ。
背は小さいものの、体は大きい。
ずんぐりとした体型は、肥満体を思わせる。
「オーク!」
オークの群れは、弓矢を構えている。
「ジャイアントアントと同じく、ゲルドの手駒っすね」
「ジャイアントアントも?」
「ジャイアントアントは破壊担当、オークは懲罰担当」
「山賊は?」
「山賊は、集金担当っすね」
「山賊のみならず、魔物を使って嫌がらせかよ!」
ゲルドの裏工作に、俺は嫌悪感を抱く。
「オレの変化した防具なら、アニキは戦闘特技を使えるっす」
「スラマロのみならず、ゴレスケも使えるのか?」
「シールドの戦闘特技は、バッシュっすよ」
「バッシュ? マナバッシュだろ」
「使い方は、敵の攻撃にうまく合せるっす」
「カウンター技、か」
ヒュン、ヒュン、ヒュン――
再び、大量の矢が降り注ぐ。
「マナバッシュ!」
パコン!
飛んできた矢を打ち返す。
「ブヒ……?」
打ち返した矢は、オークの群れに突き刺さる。
大半のオークは、即死こそ免れたものの瀕死だ。
ほどなく、オークの群れは壊滅するだろう。
「すごいぞ、ゴレスケ!」
「ガーン、マロの立場が奪われた……」
スラマロは落ち込んだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
新しい仲間であるゴレスケの活躍に期待してください。
ただ、相変わらず活躍しているのはスラマロですね。




