第15話 第一の標的
一度、目にしたゴーレムだろう。
巨体には似つかわしくない寂しげな様子。
やっぱり、俺に助けを求めているんだ。
「お前、俺に何を伝えたい――」
「冒険者、そいつを排除しろ」
「ゴーレムのことですか?」
声の主は、代官。
その周囲は、陽炎のように揺らいでいる。
鉱山の中だから、空気の流れによるものだろうか?
「私の貴重な時間を奪う、そのデカブツのことだ」
その言葉には、憎悪が込められている。
「ダーリン」
スラマロの言いたいことは、わかっている。
タイミングが、よ過ぎる。
最初から、このつもりだったんだろう。
代官の本当の目的は、自分の邪魔をするゴーレムの排除だ!
「――――?」
ゴーレムは心配そうに、こちらを見る。
「心配するなよ!」
ゴーレムに向かって、安心させるように微笑む。
「俺の引き受けた依頼は、ジャイアントアントの排除です」
「ゴーレムの排除は、依頼に含まれていないと言いたいのか?」
「追加料金を貰えます? 金貨にして、八万枚ですけど!」
「金貨八万枚だと……? イキがるな、小僧のくせに!」
代官は苛立つ。
「文句があるんですか? それなら、ご自由にどうぞ」
「私ではゴーレムを排除できないと、思っているのか?」
「排除できると思うのなら、今すぐ排除すればいいでしょう」
代官は激高したらしく、地面を蹴り飛ばす。
「ゴーレムの排除は、もちろん可能だ。ただし、代償は高くつくぞ?」
「俺は頼んでいませんから、金を払いませんよ」
「お前が払うのは、自分の命だ。真実を知られた以上、生かしては帰さん!」
予想外の展開に、呆然とする。
「こいつ、頭が狂ったのか?」
「ダーリン、来ます!」
「来る……? うおっ!」
スラマロの忠告と同時に――
「やれ、デーモン!」
「はい、ゲルド様!」
代官の背後に、陽炎が立ち上る。
それは、人の形を取る。
それが、地面に拳を振り下ろす。
ドーン!
その一撃はすさまじく、地面を叩き割る。
「ゲルド……まさか――」
「ゴーレムともども消えてなくなれ、いけ好かない小僧が!」
「お前は、あいつらの一人か!」
代官の正体は――
勇者パーティの一人、守銭奴のウォーリア!
「ゲルドォォォォォォォォ――」
その叫び声は、地割れにより生じた穴に吞み込まれる。
「お前? あいつら? 最期まで理解不能な小僧だ!」
ざまぁ対象の一人、ゲルドは不機嫌なまま立ち去った。
「ダーリン、このままだと、墜落死します!」
その言葉に、誇張はない。
下は、見えないぐらいに深い。
墜落死を免れても、その後死亡だろう。
「スラマロ、途中の壁に引っ掛けるぞ!」
壁に、ブロンズハンマーを打ちつける。
速度こそ遅くなったものの、落下は続いている。
このままだと、叩きつけられる!
「ほへっ?」
対処している間に、スラマロの変化が解ける。
慌てて、スラマロを抱き寄せる。
身を寄せ合った俺たちは死を覚悟する。
「スラマロ!」
「ダーリン!」
死を覚悟した時、周囲を闇が覆う。
一足早く死が訪れたのかと思ったら、違った。
ゴーレムが、俺たちを包み込んだんだ。
「ゴーレム、お前、俺たちを守るつもりなのか?」
「――――」
ゴーレムの言葉にならない言葉。
それが聞こえた直後――
ドーン!
地面に激突する。
「うぎょー!」
「うにょー!」
衝撃こそあったものの、たいしたものじゃない。
ただ、まともに受けたゴーレムの被害は尋常じゃない。
その巨体は、激突の衝撃によって砕けている。
「ダーリン……上!」
「上……今度は、土砂の雨かよ!」
地割れによる土砂の雨に、巻き込まれる。
その寸前、押し出される。
ゴーレムによって。
「ゴーレム?」
「――――!」
降り続く、土砂の雨。
さすがの巨体も耐え切れずに、押し潰される。
降り止んだ時には、ゴーレムは瀕死らしくピクピクと痙攣している。
「ゴーレム、お前は命の恩人だ! 絶対に死なせないぞ!」
「ダーリン、どうするつもりですか?」
俺には、運命を切り開く力がある!
「一緒に、冒険しようぜ――『性質変化』!」
ゴーレムに向かって、手をかざしながら叫ぶ。
「ダーリン?」
「大丈夫だ!」
果たして――
ゴーレムの巨体から、スラマロぐらいの大きさの人形が這い出してくる。
「ゴーレム……?」
「ゴーレムっす」
「しゃべった!」
「契約によって、人の言葉をしゃべれるようになったす」
スラマロと同じく、契約の影響らしい。
「危ないところを助かったっす」
「こっちこそ、助かったよ」
「お互い様っすね」
全員、安堵の吐息を漏らす。
「俺は、アルト」
「マロは、スラマロ」
「オレは、ゴレスケ」
それぞれ名乗ると、
「「「よろしく!」」
声が合わさる。
「ゴレスケは、何のゴーレムなんです?」
「元はストーンゴーレムだったけど、今はエレメンタルゴーレムっすね」
「エレメンタルゴーレム?」
「属性に特化した、非常に珍しいゴーレムなんすよ」
スラマロとゴレスケの会話に、興味を示す。
「調べてみるぞ?」
ゴレスケのステータスを調べてみる。
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名前・ゴレスケ
職業・エレメンタルゴーレム
レベル・1
攻撃・50
防御・50
敏捷・50
魔力・120
技能・精霊の加護(精霊の力を得る、レアスキル)
耐性・麻痺耐性(麻痺に対する耐性を得る、ノーマルスキル)
契約・あり(アルト)
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レベル1なのは、スラマロと同じく変化したためだろう。
推測を裏付けるように、レベル1なのに能力値は非常に高い。
『性質変化』は、メインでもサブでも役立つスキルなんだ。
「落石に巻き込まれるから、ここを離れよう。お前ら、俺の肩に乗れ」
「ほーい」
「あーい」
スラマロは左肩に、ゴレスケは右肩にそれぞれ乗る。
「それじゃあ、仕切り直そうぜ!」
俺たちは外を目指して歩き出した。
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