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第13話 山賊の関所

「意外だな?」


 予想とは違い、代官からの仕事は簡単なものだった。

 大変なのか危険なのか、罠の存在を警戒していたんだ。

 ただ、よく考えてみると、代官が冒険者を陥れる理由は見当たらなかった。


「ダーリン、そんなに悪名高いんですか?」


「善良な市民だよ」


「それなのに、どうして罠の存在を警戒するんです?」


「代官に見覚えがあるからだよ」


「一度、罠にはめられたから、神経質になってるだけですよ」


 スラマロの指摘は、もっとも。


「それなら問題ないんだけど、この後どうしよう?」


「ダーリンは、どうしたいんですか?」


「俺は、エリスから聞いた話を確かめたい」


「代官の悪行を探るんですね」


「もし事実だとしたら、悪党を叩きのめしてスカッとしようぜ!」


 俺たちは持ち場を離れると、別の鉱山に向かう。


「関所――」


 山道を歩いていると、関所が見えてきた。


「こんなところに、関所なんて必要なのか?」


「それ以前の問題です。勝手に作ったものですよね?」


 問題の関所は、山道をふさぐようにして建っている。

 よく見ると、廃材を利用した掘っ立て小屋だ。

 関所らしいところは、番兵がいること。


「兵士というよりも、盗賊だろ?」


 人相の悪い番兵は、腰に抜き身の剣をぶら下げている。


「そこのガキ、止まれ!」


「俺のことですか?」


「そうだ、おとなしく止まれ」


「止まりますけど、何の用です?」


「ここは関所だから、通行料を払え」


 数人いる番兵は、ニヤニヤ笑いながら金を要求してくる。


「いくらですか?」


「ダーリン、払うんですか?」


「聞いてみるだけだよ」


「聞くまでもないでしょ、ボッタクリ価格ですよ」


 果たして、番兵が提示したのは――


「銀貨一枚だ」


 スラマロの懸念通り、ボッタクリ価格だった!


「こういう田舎だと、銅貨数枚ですよね?」


「ここは、都会だ。お前の住んでる田舎と、一緒にするんじゃねえよ」


「その通りだとしても、十倍以上はボッタクリですよね?」


「嫌なら立ち去れ、二度と近寄るな。次に近寄ったら殺すぞ」


「考えさせてください」


「関所破りだけはするなよ? その場合、本当に殺すぞ!」


 ニヤニヤ笑いを引っ込めた番兵の脅し文句に、俺は黙り込む。


「どう思う?」


「ダーリンの想像通りですね。あいつらは、本当に人を殺します」


「周辺の住民に、被害が出ていると思うか?」


「死人が出てるかどうかは別として、痛い目にあった住民は多そうですね」


 俺たちは関所から距離を取ると、ひそひそ話をする。


「どうしよう?」


 関所の様子を窺っていると、子連れの旅人が通りがかる。


「お願いします、ここを通してください!」


「通さないとは、言ってねえだろ。金を払えと、言ってるんだよ」


「払えるだけのお金がありません!」


「ないわけねえだろ、いいから金を払え。嫌なら立ち去れ」


「通行料を払ってしまうと、この子の治療費が払えなくなってしまうんです!」


「世の中はそういうもんだろ? 貧乏人は帰れ!」


 番兵たちは、すがりつく親子を振り払う。


「父ちゃん……」


「すまん、父ちゃんが貧乏で……」


 慰め合う親子を、


「あはははははっ! どーしようもねえ、親子だな!」


 番兵はゲラゲラ笑う。


「ダーリン、どうします?」


「もちろん、助ける!」


「そう言うと思いました!」


「番兵を叩きのめして、親子を助けるぞ!」


 俺たちは、番兵と親子の間に割って入る。


「ちょっと待った!」


「ガキ、何の用だ? ひょっとして、そいつらの分も払うのか?」


「ここに、関所はいらないよね? そもそも、この関所は偽物だよね?」


「お前、死にたいらしいな? 望み通り、殺してやるよ!」


 番兵たちは剣を構えると、襲い掛かってきた。


「倒すぞ!」


「ほーい!」


 息を合せる。


「「『性質変化』!」」


 次の瞬間――


 スラマロの変化したブロンズソードを構える。


「魔物が、武器に変わりやがったぞ!」


「こいつ、テイマーか!」


「くそっ、傭兵か!」


 動揺する番兵たちに近づくと、


「俺は、伝説のレジェンドテイマーだよ!」


 威圧するように宣言して、俺は敵を迎え撃つ。


「スラッシュ!」


 ザシュ!


 番兵を切り倒す。


「一撃だと……!」


「これでも、殺さないように手加減しているんだぜ?」


「ほ、ほざけ!」


「本当だよ。――スラッシュ!」


 さらに番兵を切り倒す。


「スラッシュ! スラッシュ! スラッシュ!」


 ザシュ! ザシュ! ザシュ!


 連続攻撃によって、すべての番兵を切り倒す。


「強過ぎる!」


「このお兄ちゃん、すごく強いよ!」


 親子は驚愕する。


「今の隙に関所を通るといい」


「勝手に通って、大丈夫なんですか?」


「もしもの場合は、俺が責任を取るよ」


「それなら、通らせてもらいます」


「これ、俺からの贈り物。子供のおやつの足しにするといいよ」


「いろいろありがとうございます!」


 皮袋を受け取った親子は、感謝しながら立ち去った。


「ダーリン、マロのおやつはないんですかぁ?」


「あれ、おやつじゃないぞ。こいつらから奪ったお金だぞ」


「抜け目ないですね!」


「褒め言葉として、受け取っておくよ」


 仲のよい親子を見送っていると、


「くそっ、こんな真似して、タダで済むと思ってるのか?」


 目覚めた番兵の一人が脅してくる。


「馬鹿の一つ覚えかよ。お前も、警備隊に突き出されたいのか?」


「警備隊……お前、冒険者か!」


「代官に雇われた、優秀な冒険者だよ」


「代官様に……!」


 番兵は悲鳴を上げる。


「「代官様?」」


 俺とスラマロは顔を見合わせる。


「盗賊が代官に様付け……どういうことだ?」


「何でもねえよ」


「そういうお前らは、何者なんだ?」


「善良な市民に決まってるだろ――」


「お前のような善良な市民がいるか!」


 ボコッ!


 俺は反射的に殴り飛ばしていた。


「げふうううううううう!」


 番兵は吹っ飛ぶ。


「お前ら、盗賊だろ!」


「山なんだから、山賊だろ――」


「うるせぇ!」


 ボゴッ!


 俺は反射的に蹴り飛ばしていた。


「げほおおおおおおおお!」


 番兵は意識を失う。


「ダーリン、理不尽ですね?」


「自覚している。でも、こいつらの理不尽さには、納得できなかったんだよ」


「自覚してるなら、いいんですよ。ただ、流され過ぎないでくださいね」


「わかった」


 俺の返答に、スラマロは満足そうに笑う。


「いずれにしても、この『関所』を叩き壊そう」


「代官の支配下にあるのに?」


「住民や旅人にとっては、厄介なものだろ。咎めは、俺が引き受けるよ」


「ダーリン、カッコイイ!」


 賞賛するスラマロ。


「壊すぞ!」


「ほーい!」


 息を合せる。


「「『性質変化』!」」


 次の瞬間――


 スラマロの変化したブロンズハンマーを構える。


「インパクト!」


 ドゴン!

 

 善良な人々の日常生活を脅かしている、関所という名の悪魔を叩き壊す。


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 音を立てて、関所は倒壊する。

 その余波は、周辺に及ぶ。

 飛び散った瓦礫は、意識を失った番兵を埋め尽くす。


「先に進もう」


「瓦礫に埋もれた番兵は放置ですか?」


「あのまま死んだとしても、自業自得だろ」


「まぁ、死ぬ可能性は低いんですけどね」


 俺たちは無事に関所を通過すると、鉱山目指して歩き始めた。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 代官の悪事の証拠集めですね。

 次回は、代官の本性が明らかになります。

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