第12話 代官の悪事
俺にとっての記念すべき初クエスト。
中身は、鉱山を占拠した魔物の排除。
問題は、依頼者の代官に見覚えがあること。
「排除の対象は、ジャイアントアントですね」
「虫の魔物だろ?」
「巨大なシロアリですね」
魔物退治改め、害虫駆除。
「それよりも、代官の正体が気になる」
「ダーリン、役人が嫌いな人?」
「役人に好きも嫌いもない。ただ、あの代官はいけ好かない!」
鉱山ギルドを後にすると、呼び止められる。
「アルト君、依頼の前に伝えておきたいことがあるの」
「恋愛フラグ? まさか、死亡フラグじゃないよな?」
「強いて言うと、ざまぁフラグ?」
冗談に付き合ってくれるエリス。
「依頼者の代官は、要注意だよ」
「そんなに評判が悪いのか?」
「はっきり言うと、めちゃくちゃ悪い」
「肝心の悪行は?」
「それが、だんまりなの。これじゃあ、マスターに報告することもできないよ」
困った様子のエリス。
「やり返されるのが、怖いんでしょうね」
「スラマロちゃん、どういうこと?」
「代官は、高級官僚です。権力もありますし、中央とのコネもあります」
「怖い相手だね」
納得した様子のエリス。
「そういうことだから、気をつけてね。あたしは、宿で待ってるよ」
「わかった、気をつける。依頼をこなしたら、宿に寄るよ」
エリスと別れると、俺たちは鉱山に向かう。
「スラマロは、どう思う?」
「汚職ですね」
「犯罪だろ!」
「だから、証拠を掴まない限り、動けないんですよ」
本来の目的は依頼の達成だから、汚職の追及は二の次だ。
そのくせ引っ掛かるのは、代官に見覚えがあるからだ。
それが判明した時、目的が切り替わるかもしれない。
「関係者は、俺たちに動いて欲しいのか?」
「そこまではわかりません。ただ、依頼と無関係だといいですね」
「関係しているとしたら、どうなる?」
「面倒なことになります」
スラマロの言葉は、警告のように聞こえる。
「そう言えば、周辺の道が無駄に整備されてましたから、不正蓄財ですかね?」
「名探偵スラマロかよ?」
「スラチュウ!」
「訴えられるから、やめろ!」
冗談を言い合っているうちに、指示された鉱山に着く。
「ここからは真面目に行くぞ!」
「マロは、いつも真面目です」
「ブルブルなのに?」
「プルプルですよぉ」
魔物の住処に入っても、不真面目なままだ。
その分緊張することなく、奥を目指せる。
しばらく進むと、魔物の群れに行き当たる。
「敵だぞ!」
ジャイアントアントは、ウルフよりは特徴的な見た目をしている。
アリを巨大化させるとともに、装甲化させたみたいなんだ。
そのため大きいというよりも、硬そうという印象だ。
「まさに害虫だな?」
「マロたちは駆除業者ですね」
「行くぞ!」
「ほーい!」
息を合せる。
「「『性質変化』!」」
次の瞬間――
スラマロの変化した、ブロンズソードを構える。
「先に仕掛ける!」
もっとも近いジャイアントアントに、狙いを定める。
「マナスラッシュ!」
ガシッ!
攻撃は、装甲によって止まっている。
「止まった……? それなら、同じ箇所を狙う!」
切り傷のある箇所に、狙いをつける。
「マナスラッシュ!」
ガシッ!
再び、装甲によって攻撃は止まる。
「ウルフみたいに、相性が悪いのか?」
「相性以前の問題ですね。単純に硬いんですよ」
「ソードもナックルも通じないのか?」
「通じにくいですね」
反撃を警戒しつつ、ジャイアントアントの群れから距離を取る。
「体の硬い相手に効果的な、武器と特技はないのか?」
「もちろん、あります。ダーリン、『性質変化』をお願いします」
「わかった、『性質変化』!」
「へーんしん!」
次の瞬間――
ズシリという重みが、手に加わる。
スラマロの変化した武器は、ブロンズハンマー!
「ハンマーの戦闘特技は、インパクトですよ」
「インパクト? マナインパクトだろ」
確認を済ませると、追いかけてきたジャイアントアントを迎え撃つ。
「マナインパクト!」
ドゴン!
ジャイアントアントを叩き潰す。
「粉砕かよ!」
「粉砕ですよぉ!」
驚く俺と、喜ぶスラマロ。
「全部、叩き潰すぞ!」
ジャイアントアントの群れに、突っ込む。
「マナインパクト!」
ドゴン!
叩き潰す。
「マナインパクト!」
ドゴン!
さらに叩き潰す。
「マナインパクト! マナインパクト! マナインパクト!」
ドゴン! ドゴン! ドゴン!
まとめて叩き潰した結果――
予想よりも断然早く、魔物の排除に成功する。
「依頼達成だな?」
見渡すと、いずれのジャイアントアントも死んでいる。
その時、心地よい音色が聞こえ始める。
テレテレッテッテッテー♪
「「レベルアップ!」」
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
名前・アルト
職業・レジェンドテイマー
レベル・4
攻撃・130(レベルアップによる能力値上昇+10)
防御・130(レベルアップによる能力値上昇+10)
敏捷・130(レベルアップによる能力値上昇+10)
魔力・130(レベルアップによる能力値上昇+10)
技能・性質変化
耐性・レジェンドの証
契約・あり
名前・スラマロ
職業・イータースライム
レベル・4
攻撃・45(レベルアップによる能力値上昇+5)
防御・45(レベルアップによる能力値上昇+5)
敏捷・45(レベルアップによる能力値上昇+5)
魔力・195(レベルアップによる能力値上昇+5)
技能・大食い
武器化
耐性・毒耐性
契約・あり
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
順調なレベルアップと、着実な能力上昇。
少しずつだけれども、ちゃんと強くなっている。
そんな自分を、俺は誇らしく思う。
「ダーリン、戦利品は?」
「今回は、見当たらないな」
「つまらないですねぇ……スラ!」
興奮するスラマロの視線の先には――
金鉱石!
売り飛ばせば、一年は暮らせるだろう。
「スラマロ!」
「いただきまーす!」
「そっちじゃない!」
パクリ!
「ふおおおおおお!」
叫び声に続いて、スラマロの色と形が一時的に変わる。
色は、水色から金色へ。
形は、丸から三角へ。
今回も平気なのか?
「ふふふふふふ」
「スラマロ……?」
「ゴールド・スラマロ・フリーザ!」
スラマロは、両手を広げた独特なポーズを取っている。
「マロの戦闘力は、53.0000です」
「パクリの上、五十三万じゃなく、五十三かよ!」
「ブロンズ製の武器と違って、ゴールド製の武器は微妙ですねぇ」
「微妙?」
スラマロのステータスを再確認してみる。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
名前・スラマロ
職業・イータースライム
レベル・4
攻撃・60(金鉱石捕食による能力値上昇+15)
防御・60(金鉱石捕食による能力値上昇+15)
敏捷・60(金鉱石捕食による能力値上昇+15)
魔力・210(金鉱石捕食による能力値上昇+15)
技能・大食い
武器化(ブロンズ製武器 ゴールド製武器)
耐性・毒耐性
契約・あり
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
「属性攻撃には向いてるんですけど、物理攻撃には向いてないんですよ」
「属性攻撃はできないから、無駄なのか?」
「無駄じゃなく、無理ですね」
「どっちにしても一発ネタのために、一年分の生活費が消えたのかよ……」
「ダーリン、その程度の金は、すぐに稼げるようになりますよ!」
「その通りだな!」
自信満々なスラマロに釣られて、俺は笑った。
お読みいただき、ありがとうございます。
ネタですけど、戦闘力53は案外強いですね。
もちろん、元ネタはドラゴンボールのフリーザです。




