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第1話 追放生贄

 謎の古代遺跡に挑む、屈強な勇者パーティ。

 これ以上盛り上がる、シチュエーションはないよな?

 冒険者を目指している俺にとっては、二度とないチャンス。


「アルト、勇者パーティの一員になる!」


 ただ、パーティメンバーの内心はわからない。

 なぜなら、俺以外の三人は黙々と先に進んでいるからだ。

 偉業を達成するかもしれないのに、嬉しくないのかなぁ?


「どうしたんだい、ソワソワして?」


 心配そうに声をかけてきたのは、パーティのリーダーである勇者ゼノンさん。


「嬉しいんです!」


「それは、ボクのパーティの一員になったこと?」


「もちろんです!」


「そんなに喜んでもらえると、こっちも嬉しくなるよ。――そうだろ?」


 ゼノンさんの呼びかけに、ゲルドさんとグレアムさんは頷く。


 ただ、本音は別かもしれない。

 散々、辛酸を舐めた経験から、俺は卑屈になる。

 実際、ゼノンさん以外は意味深な表情をしている。


「当たり前、か」


 なぜなら、俺は生まれてからずっと――


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 名前・アルト

 職業・孤児

 レベル・1(限界)

 攻撃・1(限界)

 防御・1(限界)

 敏捷・1(限界)

 魔力・1(限界)

 備考・成長限界の呪い(レベル1限界、能力1限界)


▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


 能力が成長できない呪いに、苦しめられているからだ!


「こんな能力じゃ、まともな職に就けないよ……」


 俺はため息をつく。


 レベル1とはいえ、俺の能力は低過ぎる。

 何しろ、オール1という能力値は、成長前の子供と同じだ。

 そう、俺の能力は年下と比べても、明らかに劣っているんだ……。


「心配することはない、ボクは勇者だよ? 君は、勇者パーティの一員だよ!」


 ゼノンさんは微笑む。


 その笑みは作り物めいていないから、本音だ。

 少なくとも、ゼノンさんは信用できる。

 ゲルドさんもグレアムさんも、ゼノンさんの仲間だから信用できるだろう。


「俺のことを気にかけてくれて、ありがとうございます!」


「目的地に着くまでは、後ろにいるといいよ」


「邪魔だから、ですか?」


「心配だから、さ!」


「ゼノンさん!」


 いつもの蔑まれる立場との違いに、感激する。


 勧めに従い、最後尾に回ると、状況を確認する。

 遺跡には魔物が住み着いているし、犯罪者も入り込んでいる。

 ただ、それらの危険は許容の範囲内らしい。


「本当に危険なのは、最深部に立ちはだかる罠さ」


「大丈夫なんですか?」


「そのための勇者パーティだよ!」


 その栄えある一員に選ばれた俺は、興奮している。

 これまでの苦渋を味わった日々は、何だったんだろう?

 たぶん、この日を迎えるための助走だったに違いない。


 何しろ、俺は勇者パーティの一員なんだぜ!


「ここが、目的地だよ」


 興奮しているうちに、目的地に着いていた。


「覚醒の間と呼ばれているね」


 そこは、三つの箇所によって構成されている。


 一つ目は、後ろの一つの扉。

 二つ目は、真ん中の魔法陣。

 三つ目は、前の二つの扉。


「覚醒の間?」


「救国の英雄である叡智の賢者に、秘められた力を引き出してもらえるんだよ」


「すごいですね!」


 すごい話なのに、興奮しているのは俺だけだ。


「もっとも、力を得るためには、資格を示さないといけないらしいね」


「世知辛いですね」


「がっかりすることはないよ、根も葉もない噂さ」


 ゼノンさんは鼻で笑う。


「嘘なんですか?」


「そんな簡単に力を得られるのなら、誰も苦労しないよね?」


「…………」


 孤児の上、生まれながらの能力が成長できない呪い。

 普通に働いて暮らせないのも、心無い連中に馬鹿にされるのも、このためだ。

 たとえ根も葉もない噂だろうと、俺は現状を打破できる力が欲しい!


「能力の低さを気にしているの? 今は弱くても、君は将来的には強くなるよ!」


「気休めですか?」


「事実だよ。これこそ、君をパーティに入れた本当の理由なんだ」


「案内役も荷物持ちも、嘘だったんですか?」


「嘘じゃないけど、真実でもないんだ」


「それなら、本当の理由は?」


 ゼノンさんは覚悟を決めたみたいに頷く。


「昔は、ボクも君みたいに弱かったんだ。でも、今は強いでしょ?」


「もしかして、俺も強くなれるんですか?」


「もちろん、君もボクみたいに強くなれるよ」


「ひょっとして、勇者になれるんですか?」


「残念ながら勇者にはなれないけど、一流の冒険者にはなれる!」


「一流の冒険者……!」


 俺は息を呑む。


「本当に俺は、冒険者になれるんですか?」


「なれるよ。なぜなら、ボクがその手助けをするからさ」


「勇者の弟子ですか?」


「君を選んだ本当の理由は、秘められた才能を見出したからなんだ!」


「秘められた才能!」


 俺は小躍りする。


「それはともかく、ここからは一人ずつ行動しないといけないね」


「どうして、一人ずつなんです?」


「一人ずつじゃないと、前の扉を開けるための魔法陣が反応しないんだよ」


「それなら、最初はあなたですね」


 予想に反して、三人は首を振る。


「一番手は、君だよ」


「俺は、案内役と荷物持ちですよ」


「そんなこと言ったら、パーティは急造さ。その中心は、将来性のある君だよ」


「そこまで言うのなら、一番手を任せてください!」


 一番手を引き受けたのは、実績作りのためだ。

 勇者パーティでの活躍による、冒険者ギルドへの加入。

 これが、俺の思い描く進路だ。


「それじゃあ、魔法陣の中に入って」


 指示された通り、魔法陣の中に入る。


 途端――


 冷たい光に包まれる!


「これは、転送装置?」


「それは、罠だよ」


「罠!」


「それも、飛び切りの罠だね。いわゆる、デストラップ!」


 殴っても蹴っても、光の壁はビクともしない。

 その手ごたえのなさから、水を思わせる。

 まるで、水の檻に囚われた気分だ。


「死の罠……見てないで助けてください!」


「無理だよ」


「どうして?」


「なぜなら、予定通りだからさ。――そうだろ?」


 ゼノンさんの呼びかけに、ゲルドさんとグレアムさんは頷く。


「まさか――」


「そのまさか、勇者パーティからの追放だよ! 一度、やってみたかったんだ!」


 ゼノンさんは子供みたいにはしゃぐ。


「さっきも言ったけど、案内役も荷物持ちも必要なかったんだ」


「必要なのは――」


「パーティの一員を生贄にしないと開かない、扉を開くための『仲間』さ!」


「最初から、そのつもり――」


「それ以外、『成長限界の呪い』を受けた、ゴミを選ぶ必要なんてないでしょ?」


 その言葉は、残酷そのもの。


「どうして、俺?」


「使い捨てるつもりだから、誰でもいい。ただ、面倒を避けたかった」


「だから、身寄りのない俺をパーティに引き入れた?」


「詮索されると、面倒でしょ? だから、人として価値のないクズを探したのさ」


「お前、ふざけんなよ!」


「人生の最後にボクの役に立てたんだから、誇りに思うといいよ、生贄の豚君!」


 ゼノンは嘲笑する。


「あなたたちは?」


 俺は、他の二人に助けを求める。


「成長できない無能は、リストラの対象。分け前が減るから、むしろいいことだ」


 こんな時に、金勘定かよ? 守銭奴ウォーリアのゲルド!


「あなたに、助けるだけの価値はありません。あるのは、可憐な少女の場合です」


 こんな時に、男女差別かよ? 色ボケプリーストのグレアム!


「それじゃあ、せいぜいがんばって、アなんとか君!」


 三人の態度は、俺への無関心を示している。

 名前を覚えていないことも、推測を後押しする。

 ほどなく、顔も忘れるだろう。


「くそっ!」


 一人、また一人、扉の向こう側に消えていく。

 憎らしい顔を脳裏に焼き付ける。

 やり返すことが、夢のまた夢だとしても――

 感謝も謝罪も伝えたいですが、まずはお読みいただきありがとうございます。

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