第1話 追放生贄
謎の古代遺跡に挑む、屈強な勇者パーティ。
これ以上盛り上がる、シチュエーションはないよな?
冒険者を目指している俺にとっては、二度とないチャンス。
「アルト、勇者パーティの一員になる!」
ただ、パーティメンバーの内心はわからない。
なぜなら、俺以外の三人は黙々と先に進んでいるからだ。
偉業を達成するかもしれないのに、嬉しくないのかなぁ?
「どうしたんだい、ソワソワして?」
心配そうに声をかけてきたのは、パーティのリーダーである勇者ゼノンさん。
「嬉しいんです!」
「それは、ボクのパーティの一員になったこと?」
「もちろんです!」
「そんなに喜んでもらえると、こっちも嬉しくなるよ。――そうだろ?」
ゼノンさんの呼びかけに、ゲルドさんとグレアムさんは頷く。
ただ、本音は別かもしれない。
散々、辛酸を舐めた経験から、俺は卑屈になる。
実際、ゼノンさん以外は意味深な表情をしている。
「当たり前、か」
なぜなら、俺は生まれてからずっと――
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名前・アルト
職業・孤児
レベル・1(限界)
攻撃・1(限界)
防御・1(限界)
敏捷・1(限界)
魔力・1(限界)
備考・成長限界の呪い(レベル1限界、能力1限界)
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能力が成長できない呪いに、苦しめられているからだ!
「こんな能力じゃ、まともな職に就けないよ……」
俺はため息をつく。
レベル1とはいえ、俺の能力は低過ぎる。
何しろ、オール1という能力値は、成長前の子供と同じだ。
そう、俺の能力は年下と比べても、明らかに劣っているんだ……。
「心配することはない、ボクは勇者だよ? 君は、勇者パーティの一員だよ!」
ゼノンさんは微笑む。
その笑みは作り物めいていないから、本音だ。
少なくとも、ゼノンさんは信用できる。
ゲルドさんもグレアムさんも、ゼノンさんの仲間だから信用できるだろう。
「俺のことを気にかけてくれて、ありがとうございます!」
「目的地に着くまでは、後ろにいるといいよ」
「邪魔だから、ですか?」
「心配だから、さ!」
「ゼノンさん!」
いつもの蔑まれる立場との違いに、感激する。
勧めに従い、最後尾に回ると、状況を確認する。
遺跡には魔物が住み着いているし、犯罪者も入り込んでいる。
ただ、それらの危険は許容の範囲内らしい。
「本当に危険なのは、最深部に立ちはだかる罠さ」
「大丈夫なんですか?」
「そのための勇者パーティだよ!」
その栄えある一員に選ばれた俺は、興奮している。
これまでの苦渋を味わった日々は、何だったんだろう?
たぶん、この日を迎えるための助走だったに違いない。
何しろ、俺は勇者パーティの一員なんだぜ!
「ここが、目的地だよ」
興奮しているうちに、目的地に着いていた。
「覚醒の間と呼ばれているね」
そこは、三つの箇所によって構成されている。
一つ目は、後ろの一つの扉。
二つ目は、真ん中の魔法陣。
三つ目は、前の二つの扉。
「覚醒の間?」
「救国の英雄である叡智の賢者に、秘められた力を引き出してもらえるんだよ」
「すごいですね!」
すごい話なのに、興奮しているのは俺だけだ。
「もっとも、力を得るためには、資格を示さないといけないらしいね」
「世知辛いですね」
「がっかりすることはないよ、根も葉もない噂さ」
ゼノンさんは鼻で笑う。
「嘘なんですか?」
「そんな簡単に力を得られるのなら、誰も苦労しないよね?」
「…………」
孤児の上、生まれながらの能力が成長できない呪い。
普通に働いて暮らせないのも、心無い連中に馬鹿にされるのも、このためだ。
たとえ根も葉もない噂だろうと、俺は現状を打破できる力が欲しい!
「能力の低さを気にしているの? 今は弱くても、君は将来的には強くなるよ!」
「気休めですか?」
「事実だよ。これこそ、君をパーティに入れた本当の理由なんだ」
「案内役も荷物持ちも、嘘だったんですか?」
「嘘じゃないけど、真実でもないんだ」
「それなら、本当の理由は?」
ゼノンさんは覚悟を決めたみたいに頷く。
「昔は、ボクも君みたいに弱かったんだ。でも、今は強いでしょ?」
「もしかして、俺も強くなれるんですか?」
「もちろん、君もボクみたいに強くなれるよ」
「ひょっとして、勇者になれるんですか?」
「残念ながら勇者にはなれないけど、一流の冒険者にはなれる!」
「一流の冒険者……!」
俺は息を呑む。
「本当に俺は、冒険者になれるんですか?」
「なれるよ。なぜなら、ボクがその手助けをするからさ」
「勇者の弟子ですか?」
「君を選んだ本当の理由は、秘められた才能を見出したからなんだ!」
「秘められた才能!」
俺は小躍りする。
「それはともかく、ここからは一人ずつ行動しないといけないね」
「どうして、一人ずつなんです?」
「一人ずつじゃないと、前の扉を開けるための魔法陣が反応しないんだよ」
「それなら、最初はあなたですね」
予想に反して、三人は首を振る。
「一番手は、君だよ」
「俺は、案内役と荷物持ちですよ」
「そんなこと言ったら、パーティは急造さ。その中心は、将来性のある君だよ」
「そこまで言うのなら、一番手を任せてください!」
一番手を引き受けたのは、実績作りのためだ。
勇者パーティでの活躍による、冒険者ギルドへの加入。
これが、俺の思い描く進路だ。
「それじゃあ、魔法陣の中に入って」
指示された通り、魔法陣の中に入る。
途端――
冷たい光に包まれる!
「これは、転送装置?」
「それは、罠だよ」
「罠!」
「それも、飛び切りの罠だね。いわゆる、デストラップ!」
殴っても蹴っても、光の壁はビクともしない。
その手ごたえのなさから、水を思わせる。
まるで、水の檻に囚われた気分だ。
「死の罠……見てないで助けてください!」
「無理だよ」
「どうして?」
「なぜなら、予定通りだからさ。――そうだろ?」
ゼノンさんの呼びかけに、ゲルドさんとグレアムさんは頷く。
「まさか――」
「そのまさか、勇者パーティからの追放だよ! 一度、やってみたかったんだ!」
ゼノンさんは子供みたいにはしゃぐ。
「さっきも言ったけど、案内役も荷物持ちも必要なかったんだ」
「必要なのは――」
「パーティの一員を生贄にしないと開かない、扉を開くための『仲間』さ!」
「最初から、そのつもり――」
「それ以外、『成長限界の呪い』を受けた、ゴミを選ぶ必要なんてないでしょ?」
その言葉は、残酷そのもの。
「どうして、俺?」
「使い捨てるつもりだから、誰でもいい。ただ、面倒を避けたかった」
「だから、身寄りのない俺をパーティに引き入れた?」
「詮索されると、面倒でしょ? だから、人として価値のないクズを探したのさ」
「お前、ふざけんなよ!」
「人生の最後にボクの役に立てたんだから、誇りに思うといいよ、生贄の豚君!」
ゼノンは嘲笑する。
「あなたたちは?」
俺は、他の二人に助けを求める。
「成長できない無能は、リストラの対象。分け前が減るから、むしろいいことだ」
こんな時に、金勘定かよ? 守銭奴ウォーリアのゲルド!
「あなたに、助けるだけの価値はありません。あるのは、可憐な少女の場合です」
こんな時に、男女差別かよ? 色ボケプリーストのグレアム!
「それじゃあ、せいぜいがんばって、アなんとか君!」
三人の態度は、俺への無関心を示している。
名前を覚えていないことも、推測を後押しする。
ほどなく、顔も忘れるだろう。
「くそっ!」
一人、また一人、扉の向こう側に消えていく。
憎らしい顔を脳裏に焼き付ける。
やり返すことが、夢のまた夢だとしても――
感謝も謝罪も伝えたいですが、まずはお読みいただきありがとうございます。
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