エピローグ
例の仮婚約破棄事件から間もなく、わたくしはアレクと正式に婚約を結びました。下世話な話ではありますけれど、王子妃、王太子妃教育には膨大な資金が投入されています。王家を筆頭に、それを無駄にしたくないという打算は働いていたと思いますし、アレクを狙っていた令嬢や貴族たちも、立太子したアレク自身がわたくしを望んだ時点で、諦めたようでした。
ウィリアム殿下は正式に王籍を抜けられ、現在はリュータイトの砦を治めるドルゲルト伯の養子となり、東の地の国境において国防にあたっておられます。
実はこのドルゲルト伯爵家、騎士団長のご子息セドリック様のご実家であり、セドリック様が継ぐことになっているのです。国王陛下は、王都を去るウィリアム殿下に、リュータイトへの随行員を一人だけお許しになり――ウィリアム様は、当然の如くセドリック様をお選びになられました。
その後、当代のドルゲルト伯よりウィリアム様を養子に迎えたいとの要望があがり、国王陛下はこれをお許しになられたのです。これにより、真実に愛し合うお二人は、男女にのみ許された「婚姻」という関係性を得ることができない代わりに、義兄弟としての縁を結ぶこととなりました。
学園時代に情報部の一員として活動していた方々も、それぞれ良縁を得て婚約を結んだり、ご希望の進路に向かわれました。特にカトレア様やエミリー嬢は、年齢不相応の処世術を持つにも拘らず、公式年齢はばっちり適齢期でいらっしゃいます。群がる求婚者に翻弄されつつも、幸せな未来を歩める素質十分な素敵な旦那様を選ぶことができる、と丁寧なお礼の手紙をいただきました。
わたくしがアレクと仮婚約に至るまでの彼の態度は甘々すぎて、口にするのが恥ずかしくなってしまうために、ここでは割愛させていただきたいと思っています。とにかく、彼とわたくしは順調に恋を愛へと育み、一般的な令嬢の結婚よりも少し早い、十代最後の年に結婚式を挙げました。
婚約期間そのものは二年ほどでしたので、アレクの立太子や結婚式の準備を考えれば、このくらいの時間があったほうが余裕が持てましたし、ゆっくりとお互いの気持ちを高めあえて、結果的にはよかったのではないか、と……わたくしは、思っていたのですけれど。
結婚を心待ちにしながら、罪のない触れ合いだけで婚約期間を過ごさなければならなかったアレクは、いろいろと我慢を強いられていたようで――わたくしたちは、結婚からそう遠くないうちに、王太子妃懐妊の報告をすることになったのでした。
誤字報告をくださった方、ありがとうございました!
そして、私の作品にお目をとめてくださったあなたにも、最大限の感謝を。
リクエストをいただきまして、ウィリアムについて(←なろうバージョン)と、アレク視点の糖分を足したいと思っています。
その時にはチラ見して下さると嬉しいです。